2019.07.09

2019/6/22 文献紹介

EMA文献班 関根(湘南ER)です。

EMA Festival(8/3-4)まで残り6週間!申込はお済みでしょうか?(https://www.emalliance.org/event/meeting/meeting20)
我々 EMA文献班も「本当は秘密にしたい文献班の裏ワザ」という企画を準備中です!乞うご期待。

さて、今回は2つの文献を紹介します。

今回まず紹介するのは、4.5時間を超えた脳梗塞のrt-PA治療に関しての文献です。

Lancet. 2019 May 21. pii: S0140-6736(19)31053-0. doi: 10.1016/S0140-6736(19)31053-0.
Extending thrombolysis to 4·5-9 h and wake-up stroke using perfusion imaging: a systematic review and meta-analysis of individual patient data.

昨年、WAKE-UP trialの結果が発表されました。(N Engl J Med 2018; 379:611-622)
もともとrt-PA治療の対象は発症から4.5時間以内に限られていましたが、起床時に症状を自覚したような発症時間不明の急性期脳梗塞でMRI撮影しDWI-FLAIR mismatch(DWIで異常信号を呈するが、FLAIRでは所見なし)がある症例に対して、rt-PA治療を行うと90日後の神経学的予後が良かったというものです。

本文献は、先月開催されたEuropean Stroke organisation Conference(ESOC)学会で発表され、同時にpublishされたmeta-analysisです。
発症から4.5時間以上経過した脳梗塞、もしくは 就寝中に発症した脳梗塞に対して、灌流画像(CT perfusion, perfusion-diffusion MRI)を用いてrt-PA治療が有効な症例を同定できるかを目標に行われています。

ちなみに、先行するWAKE-UP trialではペナンブラの評価に、DWI-FLAIR mismatchが用いられていましたが、本文献の対象となった研究ではperfusion-diffusion mismatchが用いられています。
perfusion-diffusion mismatchの方がDWI-FLAIR mismatchよりも、適応となる症例を多く捉えるようですが、ラクナ梗塞はたとえrt-PA治療が有効な症例であったとしてもperfusion-diffusion mismatchを呈さないため捉えられないようです。

2006/1/1〜2019/3/1の間に報告されたRCTを対象とし、基準を満たしたものはEXTEND、ECASS4-EXTEND、EPITHETの3つでした。
414例のうち、213例(51%)がrt-PA投与、201例(49%)がplacebo投与されています。

昨年、発症6-24時間の脳梗塞に対する血栓回収療法の有効性を検討したDAWN trial(N Engl J Med 2018; 378:11-21.)も発表されていますが、本文献の対象となった研究の症例で血栓回収療法を行ったのは1例のみであったようです(protocol violation)。

Primary outcomeである3ヶ月後のmRS(modified Rankin Scale)が得られた、それぞれ211例、199例のうち、mRS 0-1だったのは76例(36%)、58例(29%)でした(調整オッズ比 1.86, p=0.011)。
症候性脳出血は10例(5%)、1例(<1%)で有意にrt-PA投与で多くなっています(調整オッズ比 9.7, p=0.031)。死亡率に有意な差はありませんでした(調整オッズ比 1.55, P=0.19)。
やはり脳出血はめちゃ増えますね。。。

本文献では、発症から4.5-9時間、もしくは 就寝中に発症した症例で画像上ペナンブラが大きいと判断されれば、placebo投与よりrt-PA投与で神経学的予後が改善すると述べられています。

上述のWAKE-UP trialを基に、2019年3月に出された日本脳卒中学会のrt-PA療法適正治療指針 第三版(http://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA03.pdf)では、発症4.5時間を過ぎていてもMRI所見からrt-PA治療を行うか検討するよう推奨されました。
推奨度も強くないため、実際の臨床現場ではプラクティスを変えていない施設も多いと思います。

私が所属する施設では、今年度に入ってからrt-PA治療の患者説明で用いる文書を改訂し、発症時間不明の症例に対する治療選択肢の説明が変わりました。
みなさまの施設では、治療選択や院内トリアージなどに影響がでているでしょうか?

そして、次は日本からバイスタンダーCPRに関する文献です。
「若年女性は公共の場でバイスタンダーCPRを受けにくい?!」「目撃者が他人であれば女性は年齢に関わらずバイスタンダーCPRを受けにくい?!」など、衝撃のメッセージが込められています。

Mayo Clin Proc. 2019 Apr;94(4):577-587. doi: 10.1016/j.mayocp.2018.12.028. Epub 2019 Mar 25.
Sex-Based Disparities in Receiving Bystander Cardiopulmonary Resuscitation by Location of Cardiac Arrest in Japan.

院外心停止に対しては「救命の連鎖(chain of survival)」が重要と言われ、バイスタンダーCPRは予後改善に関連する要素として強調されています。
しかし、実際にバイスタンダーCPRが施されるのは、目撃のある院外心停止の半数のみとのことです。
そして、院外心停止に対するバイスタンダーCPRの実施率は、傷病者の性別で異なり、最近の報告では公共の場では女性傷病者に対してバイスタンダーCPRは実施率が低いというものもあります。

この文献では「公共の場で心停止となった女性傷病者はバイスタンダーCPR実施率が低い」ということを検証するため、All-Jpan Utstein Registryに登録された目撃ありの成人心停止について、傷病者の性別や心停止が発生した場所によるCPR実施率が評価されました。(84,734例)

日本では、国際的なガイドラインで推奨されているウツタイン様式で、2005年1月以降総務省消防庁により院外心停止症例の全例記録が行われています(All-Jpan Utstein Registry)。
このRegistry3年間(2013/1/1~2015/12/31)の記録から、目撃のある成人心停止で、公共の場における心停止(20,979例)と住居内における心停止(63,755例)を抽出し検討しています。
primary outcomeはバイスタンダーCPR実施率です。

公共の場で発生した心停止例では、女性傷病者のバイスタンダーCPR実施率は54.2%、男性傷病者は57.0%でした(p<.001)。また、住居内では女性46.5%、男性44.0%でした(p<.001)。
多変量ロジスティック回帰分析(年齢、発生時間、季節、目撃者、指令室口頭指導)では、公共の場でのバイスタンダーCPR実施率に男女差はなく(調整オッズ比 0.99; 95% CI 0.92-1.06)、住居内では女性の方が高くなっています(調整オッズ比 1.08; 95% CI 1.04-1.13)。

しかし!公共の場では、傷病者を18~64歳に絞ると実施率は女性で低く(調整オッズ比 0.86; 95% CI 0.74-0.99)なっています!!
また、心停止の目撃者を「家族」「家族以外(友人、同僚、通行人)」「その他(教員、駅員、警備員など、公共の場で働く人)」に分けたサブグループ解析では、目撃者が家族以外(友人、同僚、通行人)である場合も、年齢に関わらず実施率は女性で低くなっています(調整オッズ比 0.73; 95% CI 0.64-0.84)。

ちなみに、住居内での心停止は男女ともに90%以上が目撃者は家族ですが、公共の場での心停止は目撃者が家族であることが少ないです(女性 45.7%、男性 30.1%)。

先日、静岡マラソン(ランナー 13,000人)に出走した際に、小生の前を走っていた30代女性が心停止となりました。
たくさんの人の中でバイスタンダーCPRを行いましたが、AED装着のときなどは沿道で応援していた人がタオルで目隠しを作ったり、他のランナーが傷病者に背を向けて壁を作ったりしてくれました。
自然発生的な協力に感激したものでした。

この文献の内容からは、若年女性のバイスタンダーCPR実施率が低い理由までは明らかになっていませんが、感覚的にはうなずける結果かと思われます。

他の文献ですが、同じく日本から、学校における小中高校生の心停止に対するバイスタンダーCPR・AED使用を検討し、CPR実施率は男女で差がなかったが、AED使用は女子で有意に少なく(女子63.2%、男子80.6%、調整オッズ比 0.44; 95% CI 0.20-0.97; p=0.04)、高校や高専だとより差が大きくなる(女子55.6%、男子83.2%、調整オッズ比 0.26; 95% CI 0.08-0.87; p=0.03)という報告もあります。(JAMA Netw Open.2019; 2(5):e195111)

ただただ「バイスタンダーCPRが大事!」と謳うのではなく、普及の障壁を明らかにして、効果的な方法で普及に努めていきたいですね!
私は本文献を読んで、今後 一般市民向け医療講演の際に、若年女性がバイスタンダーCPRを受けにくい可能性を伝えたり、周囲の視線をいかに遮るか具体策を話し合ったりしていこうと思いました。

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湘南鎌倉総合病院 ER/救急総合診療科

関根 一朗
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