2019.07.09

2019/5/31 文献紹介

EM Allaiance メーリングリストの皆さん

文献紹介班より福岡徳洲会病院の鈴木です。
和歌山の臨床救急医学会は楽しんでいらっしゃいますか?
来週には八戸で日本外傷学会も開催されますね。

学術活動に興味がわいてきている時こそ文献を読み込むときです!
今回は4つの文献をご紹介します。


①Goto T, Goto Y, Hagiwara Y, et al. Advancing emergency airway management practice and research. Acute Medicine & Surgery. First Published; 21 May 2019.

JEMNETより救急外来の気道管理についてのReviewが発表されました。JEMNETは若手救急医による研究グループで、メンバーの多くがEM Allianceでも活動を行っています。喘息や気管挿管に関するJEAN Studyは多くの文献で引用されているので、ご存じの方も多いと思います。

とても読みやすい英語なので、若手医師であればまずは全文を読んでみることをお勧めします。緊急気道管理に関するユニバーサルアルゴリズムから薬剤の特徴や容量、準備する物品についてまで詳細にかつ網羅的に記載されており、救急外来での気道管理についての勉強に最適です。

ベテランの先生方も、知識の整理のために使ってみてはいかがでしょうか?例えば以下の問いに迅速に答えることが出来ますか?

・挿管困難を予測するmodified LEMON criteriaってどのくらい使えるんだっけ?
・apneic oxygenationってなんだっけ?
・救急外来の気管挿管ってヘッドアップした方が良いんだっけ?
・挿管する前にNIVやNHFを使うのって有用なんだっけ?
・RSIは知っているけれどDSIって何のことだっけ?
・前投薬でリドカインを使うとしたら、適応と投与量は何だっけ?
・RSIの時にフェンタニルを使うときの注意点ってなんだっけ?
・挿管に失敗したときに最も多く使われるレスキュー手段って何だっけ?
・頭部外傷のある患者にケタミンを使って挿管するのって禁忌だっけ?
・子供の挿管困難ってどれくらいの頻度で発生するんだっけ?

これらの問いに少しでも曖昧なところがあるならば必読ですね。

例えば我々が3月に紹介した文献(https://www.emalliance.org/education/dissertation/20190314-journal)もすでに引用されており、現時点で最新のReviewと言って間違いないと思います。

②National Heart, Lung, and Blood Institute PETAL Clinical Trials Network. Early Neuromuscular Blockade in the Acute Respiratory Distress Syndrome. N Engl J Med​. 2019 May 23;380(21):1997-2008. doi: 10.1056/NEJMoa1901686. Epub 2019 May 19.

さて、気管挿管はうまくいったとします。その後に人工呼吸器でARDSと戦わなくてはいけない場面に出くわすことがありますよね。
ARDSとの戦いにおいて、早めに筋弛緩を持続投与した方が良いのでしょうか?それとも自発呼吸を残した方が良いのでしょうか?

これまでARDSに対して早期に筋弛緩薬を使うことの是非については多くの議論がなされていました。
2010年には340人の(PEEP≧5でP/F比<150の)ARDSの患者を対象に無作為化試験(ACURASYS Trial)が組まれ、筋弛緩薬の有用性が示唆される結果でした。しかし近年はICU-Acquired Weaknessの観点や、深鎮静がデメリットであることが分かってきたため、筋弛緩薬自体が避けられる傾向にあります。
ACURASYS Studyから約10年が経ち、現代の標準治療(浅い鎮静による呼吸器管理)と、筋弛緩を使用した呼吸器管理を比較する事が求められていました。

ROSE trialと名付けられた今回のRCTは、1006人の(PEEP≧8でP/F ratio<150の)ARDSの患者を、筋弛緩薬を使用する群と浅い鎮静で治療する通常治療群に割り付けて90日後の院内死亡を比較しています。

結果ですが90日後の院内死亡について両群には有意差がなく、中等症以上のARDSに対する筋弛緩薬の早期使用にはメリットなしという結果でした。
ICU-Acquired Weaknessは両群に有意差はなかったものの、筋弛緩薬使用群の方が発生割合は多かったという結果でした。

この結果をうけて、「ARDSには筋弛緩薬を使ってはいけない」と結論づけるべきなのでしょうか?
あくまでもこの文献は筋弛緩薬で死亡率が増えたという結論ではないですので、管理上必要であれば筋弛緩薬の持続投与を開始する事も許容されると思います。
皆さんのご意見を頂ければと思います。

さて、今回のようにPrimary outcomeに有意差が出ないとき、Secondary outcomeに注目しすぎて頭が混乱してしまう時が私にはあります。
しかも文献によっては、わざとSecondary outcomeやSubgroup解析を強調している気がすることもある気がします。
これについて調べたStudyが③になります。

③Reynolds-Vaughn V, Riddle J, Brown J, et al. Evaluation of Spin in the Abstracts of Emergency Medicine Randomized Controlled Trials. Ann Emerg Med. 2019 May 14. pii: S0196-0644(19)30230-6.

”Spin”という言葉を聞いたことがありますか?

「情報を都合の良いように解釈して流す」という意味で、クリケットのスピンボールを自由に操ることから来ている言葉とされています。
論文作成の現場でもSpinは横行していて、特に主要なアウトカムに有意差が出ていないのにも関わらず、意義がある論文であるかのように都合よく解釈させようとする行為になります。

例えば新薬がプラセボと比べて効果がないという結果だったのに、いろいろなSubgroupで解析を行って、特定のグループには効果がありそうだったと強調するようなアブストラクトのパターンです。そのような時には、実際にはSubgroupの症例数が足りていなかったり、群間の調整がうまくいっていないなどの理由で結果が歪められている事も多いのです。
新薬の売り込みの時などに、ときどき製薬会社の人が繰り出してくる”あの手法”ですね。

筆者らが救急医学に関するRCTの中から772のアブストラクトを抽出したところ、114の文献で主要なアウトカムに有意差がありませんでした。そのうち50(44.3%)でSpinが見られました。特にSecondary OutcomeやSubgroup解析の結果を誇張することによるSpinが最も多くみられました。さらに業者が資金提供している論文にはSpinが多く見られます。

一定の割合でSpinが紛れることは以前から分かっていたことでもありますが、44%というのは驚きですね。救急分野は不確定要素が多いのでSpinも発生させやすいのかもしれません。文献を読むときはSpinに要注意です!

④Alexandra M, Aaron E, Ashley L. Ultrasonographic Guidance to Improve First-Attempt Success in Children With Predicted Difficult Intravenous Access in the Emergency Department: A Randomized Controlled Trial. Annals of Emergency Medicine. Published online: May 21, 2019.

最後に救急外来らしい、重要な話題です。

小児のルート確保は難しいときがありますよね。
エコーを使っている施設もあると思いますが、まだそれほど普及していないと思います。
「エコーなんて面倒くさい」と言っている方も、この論文を読めば意見が変わるかも!?
167人の小児を、これまで通りの方法で点滴確保する群とエコーガイド下で点滴確保する群に割り付けしています。

1回目の穿刺で成功する確率は、これまで通りの方法では45.8%なのに対して、エコー使用群では85.4%に上昇しました。
また点滴を確保して生食フラッシュするまでの時間も、これまで通りの方法では28分だったのに対して、エコー使用群では14分に短縮していました。
さらに入れた点滴がどの程度長持ちするかを調べたところ、これまで通りの方法では2.3日だったのに、エコー使用群では7.3日にも伸びています。これまでの方法では71%が手を選択していたのに対し、エコー群は93%が前腕を選択していることが影響しているのかもしれません。

残念ながら論文を読んだだけでは具体的な施行方法が分からないのが難点です。
メーリングリストの皆様の中に、小児の前腕にエコーガイドで迅速かつ確実に点滴を取れる方がいらっしゃれば方法を共有していただけたらなと思います。

今回の文献紹介は以上です。
来週八戸に行く方は、紹介した文献をプリントアウトして新幹線や飛行機に乗って頂けると幸いです。

鈴木