2019.05.20

2019/5/19 文献紹介

文献班より聖マリアンナ医大の川口です。
GW10連休や改元のざわつきが早くも過去のことのように感じます。皆様どのように過ごされましたでしょうか。
今回は新時代令和における救急蘇生に関わりそうな文献を2本ご紹介いたします。

①Usefulness of Cerebral rSO2 Monitoring During CPR to Predict the Probability of Return of Spontaneous Circulation.
Resuscitation. 2019 Apr 17. pii: S0300-9572(19)30129-7. doi: 10.1016/j.resuscitation.2019.04.015. PMID: 31004721.

rSO2とは、近赤外線分光法NIRS(near-infrared spectroscopy)を用いて測定した局所脳組織酸素飽和度の値の一種で、国内では主にINVOS(Medtronic社)やNIRO(浜松ホトニクス社)などのNIRSモニタ製品が用いられています。
NIRSは近年ROSCとの関連性や蘇生中止の指標としての可能性が注目されており、様々な研究が進んでいます。

先行研究ではrSO2の初期値や平均値、最高値と心肺蘇生のアウトカムやCPRの質との関連を調べたものが多く、それに対して大阪大学のチームによる本研究は、連続測定したrSO2の値の変化量とCPA患者のROSCとの関連について調べています。

対象:2012年12月から2015年12月までに入院した16歳以上のOHCA患者90人
デザイン:単施設後ろ向き観察研究

方法
・院外CPA患者に対し、病院前で救急隊による用手的CPR、来院後は機械的CPRに移行
・来院後10分以内にrSO2モニタ(フジタ医科器械社のTOS-ORレジスタードマーク︎)を装着
・蘇生はJRC蘇生ガイドライン2010に基づいて行われている

解析に用いられた値はrSO2のベースライン(最初の1分間の平均値)と
測定開始から4分、8分、12分、16分、20分の時点での最大値rSO2 (t) max、および変化率ΔrSO2 (t) です。

測定時間内のrSO2の変化率 ΔrSO2 (t) は
[{rSO2 (t) max – rSO2 (baseline)} / rSO2 (baseline)] × 100
で算出されています。

結果
ΔrSO2 (t) とROSCとの関係についてROC曲線を描くと、ΔrSO2(16)つまり測定開始から16分後までのrSO2の変化率が最もAUCが高く、0.72でした。また、同時間におけるベースラインからの増加量 rSO2 (16) max – rSO2 (baseline)  のAUCは0.75でした。

ここからいえることは、OHCA患者がROSCする可能性が最も高いタイミングがrSO2測定開始から16分後までの間のどこかにあるということです。

本文ではFigure3に示されていますが、rSO2の変化率をbaselineごとに比較すると、rSO2のbaselineが50% かつ 16分以内に10%の上昇があれば、87.5%の確率でROSCが得られるという結果となっています。

なおこの論文では、rSO2の値や変化率とROSCの可能性以外にもDiscussionの記載で興味を引く部分があります。
国内外の蘇生ガイドラインで一般的となっている「2分ごとのリズムチェック」の要否について言及しており、リズムチェックの間に脳循環が低下する可能性について述べられている点です。

将来的にはrSO2の値や変化を見ながら胸骨圧迫の中断を最小限にするプロトコルが考案されるかもしれません。

今後の蘇生ガイドラインに影響を与える可能性があり、NIRSの動向にこれからも注目です!

②A meta-analysis of the resuscitative effects of mechanical and manual chest compression in out-of-hospital cardiac arrest patients.
Crit Care. 2019 Mar 27;23(1):100. doi: 10.1186/s13054-019-2389-6. PMID: 30917840

皆様の施設では胸骨圧迫は機械的と用手的、どちらでされておりますでしょうか。

機械的胸骨圧迫の装置には主に
LUCASレジスタードマーク️シリーズ(stryker社 https://www.physio-control.jp/product/lucas3/)に代表される「point-to-point press型」と
AutoPulseレジスタードマーク️(ZOLLメディカル社 https://www.youtube.com/watch?v=Kvs8LNXnNlg)に代表される「load-distribution型」があります。

余談ですが世界最初の機械的胸骨圧迫装置は1908年に導入されたことを本文の記載で知りました。110年以上前からあるんですね…

本研究はOHCA患者に対する機械的CPRと用手的CPRの効果を比較したメタアナリシスです。

2018年に別の研究グループが類似のメタアナリシスが発表しており、LUCASおよびAutoPulseと用手的CPRを比較すると、LUCASでは優位差はなく、AutoPulseと用手的CPRとでは用手的CPRの方が30日生存率・生存退院率・神経学的予後が有意に高い(人の手でやった方が良い)という結果でした。

今回はさらにRCT2つとコホート研究の結果を加えて解析しており、
解析の対象となったのは1998年〜2017年までの9つのRCTと6つのコホート研究です。
2017年の日本の研究グループ(SOS-KANTO2012)による発表J Am Heart Assoc. 2017 Oct 31;6(11). pii: e007420. PMID: 29089341 も含まれています。

primary outcomeはROSC率
secondary outcomeは入院までの生存率、退院までの生存率、神経学的予後(退院時のCPC)
でした。
結果としては、機械的CPRと用手的CPRのアウトカムに有意差はありませんでした。
ROSC率 RCT:OR = 1.12, 95%CI (0.90, 1.39), P = 0.31、コホート研究:OR = 1.08, 95%CI (0.85, 1.36), P = 0.54
入院までの生存率 RCT:OR = 0.95, 95%CI (0.75, 1.20), P = 0.64、コホート研究:OR = 0.98, 95%CI (0.79, 1.20), P = 0.82
退院までの生存率 RCT:OR = 0.87, 95%CI (0.68, 1.10), P = 0.24、コホート研究:OR = 0.78, 95%CI (0.53, 1.166), P = 0.22
神経学的予後 RCT:OR = 0.88, 95%CI (0.64, 1.20), P =0.41、コホート研究:OR = 0.68, 95%CI (0.34, 1.37), P = 0.28

ただし、論調としては「機械と人間の手は同等」というよりは「機械は人間の手よりも優れているとは言えない」というニュアンスが強い印象でした。どこでも道具いらずで迅速に行える用手的CPRの重要性が強調されています。

とはいえ限られた医療資源、特に人的資源の有効活用という観点からは機械的CPRは今後も重要な役割を担っていくと考えられ、双方の利点を活かした蘇生手順が必要となると考えられます。

未来では「え?昔は人間が心臓マッサージやってたんですか?」なんていう医師が現れる時代が来るのでしょうか。

川口剛史
EMA文献班
聖マリアンナ医科大学 救急医学