2019.07.09

2017/12/18 文献紹介

みなさま

こんにちは。福井大学医学部附属病院の徳竹です。
今回EMA文献班として初めての文献紹介をさせていただきます。よろしくお願いします。

福井では雪が積もり始め、滑って転ぶ患者をはじめ、屋根の雪下ろしをしていて墜落、雪で見えなくて側溝に転落などなど
たくさんの患者さんが受診されることは想像に難くありません。
ということで、造影CTと外傷による出血治療についての文献2本立てで行きたいと思います。

【1】Ann Emerg Med. 2017 Aug 12. doi: 10.1016/j.annemergmed.2017.06.041.
Acute Kidney Injury After Computed Tomography: A Meta-analysis.
Aycock RD, et al.

造影CTは救急外来では致死的疾患の診断に必須の検査ですが、造影剤投与後の急性腎障害(造影剤腎症)への進展が危惧され、
現状では造影CT撮影前に腎機能をチェックしたり、腎障害がある場合には造影剤使用を制限されるようなシーンもあると思います。
みなさまの施設ではいかがでしょうか?

そこで、まずはAnnals of Emergency Medicineから造影剤腎症についてのmeta-analysisをご紹介したいと思います。
ERを中心にICUやその他の病棟に入院中の患者などさまざまなsettingの患者への造影CT施行後の腎障害発症について検討されている
28study(計107335人!)がincludeされました(小児症例、PCIなどの血管造影、NACやbicarbonateなどによる予防的処置がとられたtrialは除外)。
primary outcomeは急性腎障害発症率、secondary outcomeは透析率や全死亡率となっています。
Resultsですが、造影CTにより急性腎障害、透析率、死亡率ともに有意差なしという結果になりました。
・急性腎障害…OR 0.94; 95% CI 0.83-1.07
・透析率…OR 0.83; 95% CI 0.59-1.16
・全死亡率…OR 1.0; 95% CI 0.76-1.36
患者背景には有意差はなく、現時点では造影剤による腎障害のリスクはなさそうだと考えられそうです。

また、腎障害は造影剤自体が悪さをしているのではなく、もともとの腎機能に疾患の侵襲が加わったことによって出現しているだけではないかという意見もあります。
今回のmeta-analysisにincludeされた文献の1つ(Radiology. 2014;271:65-73.) では、もともとの腎機能で患者を4段階に分類し
造影CT後の腎機能の悪化を評価しています。確かにもともと腎機能が低下していた患者群ほど急性腎障害が認められましたが、
各腎機能ごとに比較すると造影CT群と単純CT群では急性腎障害発症に関して有意差なしの結果であったため、
造影剤の有無は急性腎障害に寄与しないと結論付けられています。

以上のことから造影剤使用前におそるおそる腎機能を測定して、腎機能の結果が出るまで造影CTを待機させる必要性はないのかもしれません。
各施設内で造影CT撮影前のprotocolを見直してもいいのかもしれませんね。

とはいうものの、造影剤腎症は長年浸透してきた考え方ですし、実際にその後の治療に関しては専門科の先生方にお願いすることが多いわけで
できる限りの予防策はうっておきたいものです。
造影剤腎症予防としてこれまでにbicarbonate、NAC、Vitamin Cなどの投与がされてきましたがいずれも「造影剤腎症」を有意に予防することはできないと報告されています。
生理食塩水に関してはガイドラインでは推奨があるもののexpert opinionに基づくevidence levelの低いものでRCTは長年されてこず、
2017年になってやっと初めてのRCTが行われました(The AMACING trial)。

【2】Lancet. 2017;389:1312-1322.
Prophylactic hydration to protect renal function from intravascular iodinated contrast material in patients at high risk of contrast-induced nephropathy (AMACING): a prospective, randomised, phase 3, controlled, open-label, non-inferiority trial.
Nijssen EC, et al.

includeされた患者は、eGFR30-45、eGFR45-59+糖尿病+その他の腎障害risk factor(75歳以上、貧血、心血管疾患、NSAIDsや利尿薬などの腎毒性のある薬剤内服)、多発性骨髄腫などの造影剤腎症 high riskな患者660名です
(eGFR<30ml/min/1.73m2や透析患者、ERやICUの患者などは除外されている事には注意が必要です)。
standard protocol群(造影剤使用前後4時間に3-4ml/kgの生理食塩水投与)、long protocol群(造影剤使用前後12時間に1ml/kgの生理食塩水投与)に分類されています。
Primary outcomeは造影剤腎症発症率で、standard protocol群2.7%、long protocol群2.6%で有意差は認められませんでした。
合併症(死亡、透析導入、症候性心不全)発症に関しても両群で有意差はありませんでした。
結局、生理食塩水負荷でさえも「造影剤腎症」を予防できないという結果になってしまいました。
今後のvalidation studyが必要ですが、生理食塩水投与による合併症もないのであれば
現時点では造影剤投与前に生理食塩水負荷をすることに関しては「予防としてやれることはやった」という免罪符にはなりますし、
reasonableなのかと思います。
造影剤を緊急で使用せざるを得ない状況に立たされている救急という性質上、
他科の医師と相談して緊急時の造影剤使用protocolについて再度consensusを得ておく必要がありそうです。

【3】Lancet. 2017 Nov 7. doi: 10.1016/S0140-6736(17)32455-8.
Effect of treatment delay on the effectiveness and safety of antifibrinolytics in acute severe haemorrhage:
a meta-analysis of individual patient-level date from 40138 bleeding patients.
Gavet-Ageron A, et al.

トラネキサム酸は安価で出血死を防ぐということで、みなさまの施設でも使われる機会が多い薬剤なのではないでしょうか?
出血イベントから3時間以内のトラネキサム酸投与の効果は、
外傷(CRASH-2 trial)、産後出血(WOMAN trial)の領域で示されました。
その他にもCABGの際に使われたり(N Engl J Med. 2017;376:136-148.)、脳出血や消化管出血でも使っておられる専門科の先生もいらっしゃいますし、
鼻出血でもトラネキサム酸パッキングによりその止血効果を発揮しています(Am J Emerg Med. 2013;31:1389-92./Acad Emerg Med. 2017 Nov 10.)。

今回ご紹介するmeta-analysisは、上記のCRASH-2およびWOMAN trialの患者データを抽出して、
急性重症出血に対する治療遅延が起きた時にどのくらい効果に差が出るのかということを調べたものです。
そりゃ早い方がいいでしょとは思いますが実際のところはどうだったのでしょうか。
対象はCRASH-2 trialおよびWOMAN trialで組み込まれた患者それぞれ20127人、200011人の計40138人という膨大なデータで、
1946年~2017年までに行われた1000人以上の患者数のあるlarge RCTのみを抽出しています。
トラネキサム酸投与群はプラセボ群と比較して、primary outcomeである出血後の生存を有意に増大させました(OR 1.20, 95% CI 1.08–1.33)。
トラネキサム酸投与群全体としてのNNTは167ですが、出血から60分~120分ではNNT53、120~180分ではNNT67と優秀です。
なんと逆に早期の0-60分ではNNT200となってしまっていますが、救命不可能な穿通性外傷がこの時間帯に多く存在しているためと考えられます。
治療が15分間遅れる毎に10%ずつ生存benefitが減少し、3時間以降はno benefitという結果でした。やっぱりとにかく早い方がよさそうです。
なお、secondary outcomeである血管閉塞性イベント(心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓、DVT)発症に関しては今回の報告でも有意差はありませんでした。
本研究により大量出血をきたす外傷や産後出血においてはトラネキサム酸の早期投与の有効性と安全性がさらに確立されたものとなりました。
外傷と聞いたら大量輸血はすぐに思い浮かぶと思いますが、安くて(1gで100円ちょい)、投与ルートも簡単、麻酔や輸血のように保管も難しくない、
それでいて出血死抑制効果も期待できるトラネキサム酸。外傷のお供に握りしめて明日からも外傷患者と戦いましょう!

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福井大学医学部附属病院 救急部・総合診療部
徳竹 雅之(とくたけ まさゆき)