2019.07.09

2017/11/30 文献紹介

みなさま

EM Alliance 文献班 の 関根です。
文献班から月2回の頻度で、ERにまつわる文献紹介をメーリングリストで行っています。

今回紹介する文献は2つ。
【1】発症から6時間以上経過した脳梗塞に対する血管内治療
【2】ICUでの上肢と下肢の筋肉量低下

さてさて、明日から世もERも慌ただしき師走、文献片手に、みなさまどうか元気にお過ごしください。

【1】N Engl J Med. 2017 Nov 11. doi: 10.1056/NEJMoa1706442.
Thrombectomy 6 to 24 Hours after Stroke with a Mismatch between Deficit and Infarct.
Nogueira RG, et al.

2015年にMR CLEAN trial(N Engl J Med. 2015 Jan 1;372(1):11-20.)という大規模RCTで、発症6時間以内の前方循環動脈閉塞による脳梗塞に対する血管内治療の有効性が示されたのは記憶に新しいですね。
では、発症から6時間以上経ってしまった脳梗塞に対する血管内治療はどうなのかというのがこの報告。

日々のER診療でも「朝起きたときに片麻痺に気づいた(正確な発症時刻が不明)」や「昨日から話しにくいけど様子をみていた(発症から時間が長い)」など、“最終未発症時刻が6時間以上前”という症例は多いので気になるところです。

対象は、最終未発症時刻が6-24時間前で、臨床的重症度と病巣体積にミスマッチがある206症例(頭蓋内内頚動脈 or 中大脳動脈の近位部で閉塞)。
ミスマッチ?そう、脳卒中診療ではdiffusion-perfusion mismatch、Clinical-diffusion mismatch、MRA-diffusion mismatchなど様々な“ミスマッチ”が用いられてきました。いずれも“まだ梗塞が完成しておらず救済可能な領域”、すなわち、“ペナンブラ”を推定するものです。
本研究では、臨床的重症度と病巣体積のミスマッチであるClinical-diffusion mismatchが用いられています。
臨床的重症度はNIHSS(National Institute of Health Stroke Scale; 0-42点で値が大きいほど重症)scoreを使用し、病巣体積の測定にはDWI(MRI)やperfusion CTの所見から自動測定してくれるソフトを使用しているとのことです。
具体的には、3つの群に分けられています。Group A:80歳以上 & NIHSS 10以上 & 病巣体積21ml未満、Group B:80歳未満 & NIHSS 10以上 & 病巣体積31ml未満、Group C:80歳未満 & NIHSS 20以上 & 病巣体積31ml以上51ml未満。

対象症例は血管内治療群とコントロール群に分けられ、Primary end pointsとして90日後のutility-weighted modified Rankin Scale(mRS)と機能的自立の割合を比較されています。
utility-weighted mRS?脳卒中の予後評価でよく用いられるmRSは、0-6点で評価し値が多いほど重症というものです。utility-weighted mRSは、そのmRSの0-6点をそれぞれ10.0, 9.1, 7.6, 6.5, 3.3, 0, 0に置き換えたもののようです。0が死亡、10が無症候と値が小さいほど重症です。機能的自立はmRS 0-2のこととされています。
そして、血管内治療群はTrevo™というステントを血栓内で広げて血栓を絡め取り、血栓をステントともに引き抜くことで血流を再開させるデバイスを使用されています。コントロール群は地域のガイドラインに沿って標準治療が行われています。
対象症例は血管内治療群とコントロール群で、utility-weighted mRSは5.5 vs 3.4、機能的自立の割合は49% vs 13%といずれも有意な差(Posterior Probability of Superiority >0.999)となりました。

なお、今回の報告では症候性脳出血を生じた割合や90日後生存率に差はありませんでした。
最終未発症時刻が6時間以上前でも、臨床症状と梗塞病変の大きさのミスマッチが大きければ、血管内治療が安全かつ有効であることが示されたことになります。

ちなみに、研究は開始から31ヵ月で症例のリクルートが中止されています。
中間解析で、最終解析を待つまでもなく治療法が有効だと判断できるデータが出現した場合には以降の試験を中断することがあり、今回の研究はいわゆる「有効中止」(治療が明らかに有効だから中止)に至ったということです。

今までも発症から6時間以上経過した脳梗塞での血管内治療の有効性を示す報告はありましたが、この研究はアメリカ、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリアの26施設で行われた初の多施設前向きRCTです。
研究の正式名称は「 DWI or CTP Assessment with Clinical Mismatch in the Triage of Wake-Up and Late Presenting Strokes Undergoing Neurointervention with Trevo trial」で、通称「DAWN trial(どーん とらいある)」と呼ばれています。
まさに脳梗塞治療の新たな「dawn(夜明け)」をもたらすようなインパクトがある研究ですね!

【2】Intensive Care Med. 2017 Nov 6. doi: 10.1007/s00134-017-4975-x.
Upper and lower limb muscle atrophy in critically ill patients: an observational ultrasonography study.
Nakanishi N, et al.

ICUの重症患者はしばしば筋力低下を生じます(ICU acquired weakness: ICU-AW)。
患者の予後改善のための早期離床に注目が集まり、超音波で筋肉量を評価する際には下肢が対象として用いられることが多いですが、
上肢(上腕二頭筋)も下肢(大腿直筋)と同じように筋肉量が減少しているのではないかという研究です。

ICU入室した28症例を対象とし、ICU入室から1, 3, 5, 7日目で上下肢の筋肉量(筋厚&筋面積)を測定しています。
それぞれの測定日で、上肢は6.5, 11.0, 13.2%(p<0.01)、下肢は8.3, 11.1, 16.9%(p<0.01)と有意な減少を示しています。。
本当に患者の長期予後をよくするためには、離床のみでなく上肢下肢両方のリハビリをする必要があるというメッセージが伝わってきます。

このLETTERは、EMAlliance文献班のメンバーである中西信人先生(卒後5年目、徳島大学病院救急集中治療部)が書かれたものです。
若手救急医の仲間の立派な活動を知ると、刺激を受けますね。 目指せ、世に物問う救急医!

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湘南鎌倉総合病院 ER/救急総合診療科
 関根 一朗