2019.07.09

2017/11/20 文献紹介

EMAの皆様

こんにちは。沖縄県立宮古病院救急科の山本です。
だいぶ涼しくなってきた宮古島から2つほど旬な文献をご紹介いたします。

①Diagnostic Accuracy of the Aortic Dissection Detection Risk Score Plus D- Dimer for Acute Aortic Syndromes: The ADvISED Prospective Multicenter Study
Circulation. 2017 Oct 13.

皆さんは大動脈解離を含む急性大動脈症候群(Acute Aortic Syndrome : AAS)を診断するのに苦労した経験はないでしょうか??AASは症状が多彩で診断するのが難しいと言われています。実際に過去の研究ではAASの誤診率は14-39%と報告されています。もちろん造影CTを行えば診断することは容易でしょうが、放射線暴露や造影剤アレルギーのことを考えると、全員に行える検査ではありません。救急外来でAASが疑われ造影CTを撮影された患者のうち、結果が陽性だったのは2.7%だったという報告もあります。

国際ガイドラインではAASの診断アルゴリズムの中でaortic dissection detection risk score (ADD-RS)を使用し、検査前確率を分類することを推奨しています。ADD-RSにはハイリスクな患者背景·状態、ハイリスクな疼痛の特徴、ハイリスクな身体所見の3項目を含み、3つのうち何項目を満たすかでスコアリングします。またD-dimerは過去の研究では感度が高いと言われておりますが、それ単独ではAASをrule-outするには不十分とされています。(EMAのジャーナルクラブ 第6回 「検査」も参考にどうぞ)

これまでもADD-RSによる検査前確率とD-dimer陰性を組み合わせることにより、画像検査を使用せず安全にAASをrule-outできるという報告がいくつかありました。しかしそのいずれも後ろ向き研究であり、前向きに研究されたことはありませんでした。今回イタリア、ドイツ、スイス、ブラジルの4カ国から6つの病院が参加した多施設前向き観察研究の結果が発表されましたのでご紹介致します。

この研究は2014年から2016年の間に18歳以上の成人で来院14日以内に胸痛や腹痛、背部痛、失神、血流欠損症状で救急外来を受診した患者と、救急外来でAASが鑑別疾患に上がった患者を対象としています。対象となる患者が来院した場合、D-dimerの測定以外の臨床判断は全て診察した医師に任されました。AASの診断は造影CT、MRI、経食道エコーで行われています。画像検査や手術、剖検が行われず救急外来から帰宅したケースでは、帰宅後14日以降に電話か外来でフォローアップされました。

結果として1850人が研究に含まれ、241人(13%)がAASの診断となりました。ADD-RSが0点だったのは438人(24%)おり、そのうちD-dimerが陰性だったのは294人で、そのうち1人のみがAASでした。ADD-RSが1点だったのは1071人(58%)で、そのうちD-dimerが陰性だったのは924人(50%)で、そのうち3人がAASでした。
ADD-RS ≦ 1点とD-dimer陰性の両方が揃う場合、AASの可能性は300人に1人ということになります。この結果を受けて著者はADD-RS ≦ 1点かつD-dimer陰性の時以外に、画像検査を行うアルゴリズムを提唱しております。

今回の研究は前向きの観察研究でlimitationも多数ありvalidationもされておりません。AASの有病率も13%と高すぎます。しかしD-dimerをADD-RSと組み合わせて使用するアルゴリズムの提唱は、肺塞栓症の診療と類似するところがあり、これからの研究に期待したいです。

私個人としては胸痛や背部痛など、AASを疑いやすい症状で受診した患者にADD-RSとD-dimerは有用と感じております。とはいえADD-RS ≦ 1点、D-dimer陰性のみで否定するには勇気がいるので、経胸壁エコーなどを行うと思いますが。

②Acetaminophen or Nonsteroidal Anti-Inflammatory Drugs in Acute Musculoskeletal Trauma: A Multicenter, Double-Blind, Randomized, Clinical Trial.
Ann Emerg Med. 2017 Oct 13.

ERでは日常的に軽症、重症を問わず外傷患者に接する機会が多いと思います。診断をつけて、適切なdispositionを決めることは大切ですが、忘れてはいけないのは鎮痛です。皆さんはERから帰宅させる患者にどのような鎮痛薬をもたせますか??アセトアミノフェンでしょうか、それともNSAIDsでしょうか??あるいは両者の併用でしょうか!?

Cochrane reviewにはアセトアミノフェンとイブプロフェンの併用は、単剤での使用よりも鎮痛効果が得られるという報告もあります(http://www.cochrane.org/CD010210/SYMPT_single-dose-oral-ibuprofen-plus-paracetamol-acetaminophen-acute-postoperative-pain)。しかしNSAIDsによる腎機能悪化、消化管出血、心不全増悪などはERでは比較的良く経験します。これらの副作用はたとえ短期間のNSAIDsの使用でも起こりうると言われています。私もNSAIDsは非常に有効な鎮痛薬と実感しており、必要な時に使用しています。しかし鎮痛効果が十分なのであれば、NSAIDsよりも副作用や相互作用の少ないアセトアミノフェンを使用したいと思いませんか。そんな皆様を後押しする文献を紹介します。

この研究では骨折などを含まない四肢の軽症外傷患者に対するアセトアミノフェン単剤の使用が、ジクロフェナク単剤あるいはアセトアミノフェンとの併用と比較し、どの程度有効なのかを調べたRCTです。受傷後48時間以内にERを受診した18歳以上の成人で軽症の非穿通性の筋骨格外傷の患者を対象としています。骨折、脱臼、普段から鎮痛薬を内服しているなどの患者は除外されています。

対象となった患者は1:1:1の割合でアセトアミノフェン 4000mg/日、ジクロフェナク 150mg/日、アセトアミノフェン 4000mg/日 + ジクロフェナク 150mg/日にランダムに割付されました。Primary outcomeは投薬後90分でのnumeric rating scale(NRS)の安静時と体動時のスコアをベースラインと比較した値です。Secondary outcomeは30分、60分でのNRSのスコアとその後3日間のスコアです。

結果として547人の患者が1:1:1で割付され、19人がランダム化後に除外、20人がprimary outcomeが不明でした。Primary outcomeの投薬90分でのNRSは3群間で差が見られませんでした。またSecondary outcomeの30分、60分、1日 - 3日目のNRSは3群間で差が見られませんでした。まとめますと、アセトアミノフェン 4000mg/日はジクロフェナク 150mg/日単剤及びアセトアミノフェンとの併用と比較して内服3日目までの疼痛の減少に差がない結果となりました。

元文献を読めばわかるのですが、かなり多数の除外基準があり、現実とそぐわない部分もあると思います。また薬剤の用量も日本の標準的な用量と比較して多い印象です。その他にも、712人が研究に参加するのを拒否したり、鎮痛薬は必要ないと断ったりしているのも気になります。体動時のNRSも7.5以上あり、骨折などが含まれていないのに随分高いなという印象です。

色々と気になる部分はありますが、この結果を受けて自分自身の診療を見直すきっかけになりそうです。本当にこのNSAIDsは必要なのだろうか??アセトアミノフェン単剤で十分に鎮痛できるのではないか??そう自問自答しながら診療に当たろうと思います。

11月前半の文献紹介は以上です。
これからも文献班をよろしくお願いいたします。

沖縄県立宮古病院
山本 一太