2017/11/3 文献紹介
EMAの皆様
徳島大学の中西です。
読書の秋の季節がやってきました。
人が集中するのに最適な気温は18度前後で、秋ごろの気候がぴったりみたいです。
文献を読むにもぴったりです。
ということで、日本発の外傷関連の3文献紹介します。
①The Survival Benefit of a Novel Trauma Workflow that Includes Immediate Whole-body Computed Tomography, Surgery, and Interventional Radiology, All in One Trauma Resuscitation Room: A Retrospective Historical Control Study.
Kinoshita T, et al. Ann Surg. 2017 Sep 26
日本発のハイブリッドERが患者の予後を改善したという報告です。
ハイブリッドERとはハイブリッドカーのように、ERの初療室にCT 、IVRが施行可能な環境を併合した施設です。
大阪急性期・総合医療センターで2011年に導入されました。
外傷患者を対象として、ハイブリットER導入後の治療成績(2011年-2015年;336人)を導入前(2007年-2011年;360人)と比較しました。多変量解析も用いて患者への対応時間、予後を比較しています。
ハイブリッドERで治療することによって失血死減少、死亡率低下(オッズ比0.5)、CTまでの時間が15分短縮、治療までの時間が21分短縮したとのことです。
初療室でCT、IVRを施行できれば治療介入までの時間、患者予後も大きく変りそうです。今後日本でもハイブリッドERが増えるのでしょうか。
②Fewer REBOA complications with smaller devices and partial occlusion: evidence from a multicentre registry in Japan.
Matsumura Y, et al. Emerg Med J. 2017 Aug 31
日本のREBOA-レジストリーからの報告です。
テレビドラマの「コードブルー」でも有名になったREBOAについてです。
REBOAとはResuscitative endovascular balloon occlusion of the aortaの略で先端にバルンを有する大動脈遮断用バルーンを大腿動脈から挿入して、バルーン拡張部以下の出血を減少、脳血流・冠血流を確保する手技です。日本ではIABO(Intra-aortic balloon occlusion)と呼ばれることが多いです。
実際にはいつ、どこで、誰が使っていて、本当に安全なのでしょうか。
多施設での出血性ショック症例でREBOAを要した142例(2011-2015年)の症例を後ろ向きに検討したところ、REBOAを使用した医師の94%は救急医で、ほとんどが救急外来で使用していました(65%)。
7Frのレスキューバルーン、10Frのブロックバルーンなどを用いている施設が多いと思いますが実際にはどうでしょうか。シースのサイズでみると7Fr(62%)、8Fr(1.4%)、10Fr(27%)、12Fr(5.6%)、14Fr(3.5%)と7Frのシースを使用している施設が多いようです。挿入手技はほとんどがブラインドで挿入していました(ブラインド92%、エコーガイド下2.8%、カットダウン2.1%)。
合併症や効果はどうでしょうか。8Fr以下の小さいシースを用いた方が9Fr以上の大きいシースに比べた場合に比べて、長時間使用していましたが(19時間対7.5時間)、小さいシースを用いた群では治療を要するような合併症はありませんでした。小さいシースの方が抜去後は圧迫止血のみで抜去しています(96%対45%)。
またREBOAのバルーンは完全に拡張させるよりも、完全に拡張させない場合が多く(68%)、その方が循環動態も安定しました。
JAMA SurgeryでもREBOAに関するコメントがでていました。
REBOAの効果は「A journey of a thousand miles begins with a single step」とまだまだ分からないことが多いようです。(Early Adoption of Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta: The Beginning of a Journey. Galante JM, et al. JAMA Surg. 2017 Sep 27.)
REBOA-レジストリーの今後の報告に期待です。
③Small tube thoracostomy (20-22 Fr) in emergent management of chest trauma.
Tanizaki S, et al. Injury. 2017 Sep;48(9):1884-1887.
胸部外傷での胸腔ドレーンは細くてもよいのでしょうか?
胸部外傷では太い胸腔ドレーンを入れている施設が多いと思いますが、あまり根拠はないようです。本当に細い胸腔ドレーン(20-22Fr)ではダメなのか調べた研究です。
胸部外傷で2時間以内に胸腔ドレーンが挿入された患者124人を調べた単施設での後ろ向き研究です(2010-2016年)。20-22Frの胸腔ドレーンが挿入された56人と28Frの胸腔ドレーンが挿入された68人を比較しました。患者背景には差はなく、合併症、チューブ挿入位置、挿入に要する時間、チューブの入れ替え、開胸への移行なども有意差はなかったようです。細い胸腔ドレーンを挿入された患者群の方がICU滞在日数が短期間でした(1.3±2.3日 対 2.4±3.0日、p=0.002)。
太い胸腔ドレーンの方が横隔膜損傷や肝損傷が多いとの報告もあります。当然、後ろ向きの研究でリミテーションはあると思いますが、20-22Frの細い胸腔ドレーンでも良いなら、細い胸腔ドレーンを挿入したいですね!
どれも実臨床に役立つ素晴らしい研究です。
それでは良い連休を!
EMAlliance 文献班
徳島大学病院 救急集中治療部
中西 信人