2019.07.09

2017/10/17 文献紹介

EM Allaiance会員の皆さま

文献紹介斑より福岡徳洲会病院の鈴木です。
日本救急医学会総会が目の前に差し掛かってまいりました。発表者の方は、予演会や関連する文献の読み込みで大変な時期かと思います。
現実逃避に気分転換に、ER関連の他の文献にも目を通してみませんか?
学会発表のない方も、ER関連の文献を印刷して会場に持ち込めば、何となく学会らしい気分が盛り上がってくるかもしれません。
今回は3つの文献をご紹介いたします。

Corticosteroids for treatment of sore throat: systematic review and meta-analysis of randomised trials.
BMJ. 2017 Sep 20;358:j3887.

皆さんは上気道炎の咽頭痛に対してステロイドを処方したことがありますか?「え?そんな治療、聞いたことないけど・・・」と思われる方がほとんだだと思います。
実はこれまでにステロイドによる鎮痛効果の有効性を示すStudyがいくつも報告され、2012年にはCochraneからもReviewが出されていました。
(Hayward G1, Thompson MJ, Perera R, et al. Corticosteroids as standalone or add-on treatment for sore throat. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Oct 17;10:CD008268. )
今回はBMJ協力の元、症例数を2倍に増やし新たにSystematic reviewが組まれました。5歳以上の咽頭痛を訴える患者に対しステロイドを使用した群とコントロール群に分けたRCT10個、総N数1400名余りがIncludeされています。
24時間後の痛みの消失はRelative risk2.2倍の効果(95% CI 1.2-4.3)、48時間後の痛みの消失ではRR1.5倍の効果(95% CI 1.3-1.8)でした。

痛み消失までの時間や、visual analogue scaleの数値もステロイド群で低下していました。
またステロイド投与による有害事象の増加は認められませんでした。

バイアスの評価によるGRADE分類も行われている良質な文献です。今後の上気道炎の治療を変える可能性のある重要なStudyだと思われます。
しかし本邦の医師や患者の間ではステロイド投与は避けられる傾向にありますので、もしも臨床現場に活用していくのであれば、十分なEvidenceの理解や周囲の医師とのコンセンサスを得ておくことが重要だと思います。
ちなみに僕は今後もルーチンでステロイドを処方することはないだろうと思いますが、飲水もできずにケトーシスに陥っている場合などでは選択肢の一つに考えるかもしれません。
なおステロイド投与の方法は、少量のデキサメタゾンの単回内服が最も一般的でした。


High-Flow Nasal Cannula Versus Conventional Oxygen Therapy in Emergency DepartmentPatients With Cardiogenic Pulmonary Edema: A Randomized Controlled Trial.
Ann Emerg Med. 2017 Oct;70(4):465-472.e2.

心原生肺水腫に対して、救急外来でNIVを装着するようになった施設は多いと思います。
今度は救急外来でハイフローネーザルカニューラ(NHF)をつけて、データを集めようかなと思っていませんか?
タイでそのような趣旨の研究が発表されました。
128人の心原性肺水腫の患者を、救急外来でNHF群と通常の酸素投与群にランダムに割りつけしています。
15分後・30分後・60分後の呼吸数はいずれもNHF群で減少していました。
しかし残念ながら、入院率やNIV装着率、気管挿管施行率、死亡率などはいずれも有意差がありませんでした。
注意しなければならないのは、通常の酸素投与や薬剤投与でSpO2が90%を保てない場合や呼吸数35回以上のままの患者は、割り付け前に除外されています。ですから対象は軽症から中等症の心原性肺水腫の患者に限られています。
今後は、救急外来でのNIV装着との比較や、肺疾患に対する救急外来でのNHF装着の有効性のデータが更に蓄積されていくことに期待したいと思います。

Capnography in the Emergency Department: A Review of Uses, Waveforms, and Limitations.
J Emerg Med. 2017 Oct 6. pii: S0736-4679(17)30732-1.

Journal of Emergency Medicineより、ERでのカプノグラフィー利用についてのReviewです。
AHAのガイドラインを参考に、CPAにおけるROSCや蘇生中止の1つの指標としてカプノフラフィーを利用している方も多いと思います。
今回のReviewではCPA以外にも
・処置時の鎮静
・外傷
・代謝性アシドーシス
・敗血症
・肺塞栓
・COPDなどの肺疾患
・てんかん
・輸液反応性の指標
など、様々な状況下でカプノグラフィーが使えますよという内容のReviewになっています。
いまは気管挿管していない状態でもEtCO2を測れるデバイスが流通していますから、ERでカプノグラフィーを利用できる機会が増えているのかもしれません。

例えばEtCO2が36以上であれば、DKAを100%の感度で除外できたという文献内容が紹介されています。
また肺塞栓でEtCO2とPaCO2のギャップが生まれることを利用して、Wells Criteria4点未満+EtCO2:36以上であれば肺塞栓のNegative predictive valueが0.976になるという文献内容も紹介されています。Wells Criteriaが低いのにDダイマーが引っかかった際に、まずはカプノグラフィーを付けてみると良いのかもしれません。
更に喘息にたいする吸入薬の効果の指標や、Passive leg raiseに伴うEtCO2の変化を輸液反応性の指標として利用する方法も紹介されています。
これまで考えもしなかったようなERにおけるカプノグラフィーの使用方法を、多くの研究者が発表しているのだと知り、勉強させられます。
部署での勉強会に一読してはいかがでしょうか?

今回の文献紹介は以上になります。
数日後の大阪に、上記の3文献を持参する方がいらっしゃることを期待しています。

文献紹介斑 鈴木