2020.05.16

2020/5/15 文献紹介

EMA文献班、防衛医大救急部の山田浩平です。
健生病院の徳竹先生と5月前半の文献を紹介します。

社会は自粛要請解除などが少しずつ進んでいますが、病院はまだまだ災害モードというところが多いのではないでしょうか。
今回もCOVID-19に関する文献を紹介します。少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

①新興ウイルス感染症流行時の医療者の心理反応〜歴史を振り返って〜
②awake proningは有効?
③COVID-19 肺エコーまとめ
④PCR・抗体検査のタイムライン
⑤N95は何回消毒・滅菌して繰り返し使えるか?


Kisely S et al. Occurrence, prevention, and management of the psychological effects of emerging virus outbreaks on healthcare workers: rapid review and meta-analysis.
BMJ. 2020 May 5;369:m1642.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32371466

過去20年間でSARS・MERS・新型インフルエンザ・エボラなどのウイルス性感染症が流行してきました。これらの流行により、医療従事者には心理的な影響が認められたことが報告されています。
そこで、2020年3月までの文献から、新興ウイルス感染症の診療を行う医療従事者の心理的反応に焦点を当てた研究を選択し、Rapid review and meta-analysisという形でまとめたのが本研究になります。

COVID-19に関する文献8編を含む合計59編が対象となりました。
感染者を直接診療した医療従事者は、感染のリスクがないかほとんどない医療従事者に比較して急性ストレスまたは心的外傷後ストレス(odds ratio 1.71, 95% CI 1.28-2.29)および心理的苦痛(1.74, 1.50-2.03)のいずれも有意に発症しやすいことがわかりました。
そして、医療従事者に発生する心理的影響を増悪または寛解させる因子について調べ、それに立ち向かうための推奨が実践的にまとめられていることが特徴的です。
増悪・寛解因子、実践的な推奨について、それぞれ個人的要因、職場的要因、社会的要因とに大別されて紹介されています。

例えば、個人的要因であれば増悪因子として女性・経験年数が浅いこと・子を持つ親であること・家族に感染者がいることなどが挙げられています。
また、職場的には現実的な支援の欠如やトレーニングが提供されていないこと、社会的には偏見や差別の対象となることなどが問題です。
寛解因子として仕事から離れて休息をとること・明確なコミュニケーション、十分なPPE、適切な休息、実践的および心理的なサポートなどがあります。
介入への推奨事項として、個人的要因であれば、予防策を行う際のバディ化・仲間同士励ましあう・十分な休息をとること・ストレスの影響について振り返る機会を作ること・家族や友人からの支援を増やすことなどが挙げられています。これなら明日からできるかも!
また、職場的要因については、医療従事者に対する感染に関するトレーニングを行うことや心理的介入へのアクセスを改善すること、強制的な割り当てを避けることなどが挙げられています。
EMA文献班の仲間が働いている病院ではICU勤務とCOVID-19専用病棟の勤務を織り交ぜるなどの工夫した対応をしているそうです。

他にも見やすく表としてまとまっているので、興味を持たれましたらぜひご覧ください。


Caputo ND et al. Early Self-Proning in Awake, Non-intubated Patients in the Emergency Department: A Single ED's Experience during the COVID-19 Pandemic.
Acad Emerg Med. 2020 Apr 22.[Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32320506

awake proningという方法をご存知でしょうか。気管挿管されていない呼吸不全の患者をうつぶせで管理する方法です。
awake proningはARDS患者においてHFNCやNIVとともに行うことで気管挿管を減らし、予後を改善することが示されてきていました。
(Crit Care. 2020 Jan 30;24(1):28.)

しかし、COVID-19+ARDS患者に対してNIVなどを使用することはエアロゾルを発生させてしまうため、感染拡大の恐れがあります。
そのため、早期に挿管することが選択されていましたが、結果として医療資源の枯渇を招くこととなりました。

そこで、HFNCやNIVといったエアロゾルを発生させうるデバイスを使わずにawake proningの効果を試したのが本研究です。

2020年3月1日~4月1日に行われた、ニューヨークの単施設におけるpilot studyです。
受診時SpO2<90%かつ酸素投与によってもSpO2>93%が達成できない18歳以上+自分で体位変換をすることができるCOVID-19患者50人が対象となりました。
SpO2の中央値は80%と低値で(IQR 69-85)、酸素投与をしてもSpO2は84%(IQR 75-90)までにしか改善しませんでした。※HFNCやNIPPVは使用していません 
primary outcomeは5分後のSpO2の変化で、5分間のawake proningによりSpO2を94%(IQR 90-95)まで改善することができました。数値だけみるとすごい効果です。
ただし、50人のうち13人は受診から24時間以内に、72時間までにさらに5人が気管挿管されています。
ランダム化されていないこと、アウトカムとしてにはSpO2が採用されており真のアウトカムではないこと、単一施設での研究であること、5分後にしかSpO2は測定されていないことなどがlimitationとしてあります。

結論は出ませんが、awake proningをERで行うことにより挿管を免れるもしくは延期できる患者が出てくるのかもしれません。
かなり低酸素血症でもおこなわれているのが驚きですが、看護の手は足りているけど挿管する医師の手が足りない緊急時などは少しすがってみたい気がします。


Convissar D et al. Application of Lung Ultrasound during the COVID-19 Pandemic: A Narrative Review. Anesth Analg. 2020 [Epub ahed of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32366774

  

COVID-19患者の評価で胸部レントゲンやCTを撮りたいけれど、感染対策の面でどうしよう…ということはよくありますよね。その点どんどん小型化しているエコーなら消毒も比較的容易で繰り返し使えますし、通信を利用したリアルタイムの情報共有も容易になってきています。できれば有効活用したいですよね!

COVID-19患者への肺エコーのnarrative reviewを紹介します。
COVID-19に特化した所見があるわけではないですが、
ウイルス性肺炎に関連した所見として「胸膜の不整な肥厚、Bライン、(胸膜下の)コンソリデーション、エアーブロンコグラム」辺りに注目している報告が多いようです。本文にはそれぞれの所見について動画のリンクもありますので、ぜひご覧ください。

筆者らが言及している肺エコーのCOVID-19患者への応用方法は、
・新たなコンソリデーションやエアーブロンコグラムが出現した際に細菌性肺炎の合併を疑う
・背側のコンソリデーションが増えてきたら腹臥位療法導入を考慮する
・Bラインが減ってAラインが見えてきたら回復してきていると評価する
などです。

近年肺エコーが普及してきています。COVID-19に特異的な使い方があるというわけではないですが、まだ肺エコーに慣れていない方はこれを機に勉強してみてはいかがでしょうか。


Sethuraman N et al. Interpreting Diagnostic Tests for SARS-CoV-2.
JAMA. 2020 [Epub ahed of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32374370

続けて、JAMAに掲載された各種検査(RT-PCR、抗体検査)の結果のタイムコースのグラフが見やすかったので紹介します。
これまで発表された約10の文献(主な患者は免疫不全のない成人)をまとめたものになります。

PCR検査に関して
・早ければ発症日に陽性、1週以内にピーク、3週程度陽性持続(ただし「PCR陽性=活性のあるウイルスがいる」とは限らないことに注意)
・PCRの特異度はほぼ100%
・陽性率はBAL(93%) > 喀痰(72%) > 鼻スワブ(63%) > 咽頭スワブ(32%)
・喀痰検体は咽頭スワブ検体より陽性化期間が長い
・発症8日以降は活性のあるウイルスは気道から分離されない(発症1週経つと感染力がほぼなくなるのと関連?)

抗体検査(血清IgG、IgM)に関して
・早ければ発症4日頃から検出できるが、大抵は発症2~3週から
・IgMは発症5週程度で減少して7週でほぼ消失、IgGは7週以降も残存(ただしもっと長期は不明)
・IgG、IgMともにELISA法では特異度95%以上

繰り返しになりますが、グラフが見やすいので是非ご覧ください!
ちなみに、小児や重症例などでは違う動態になる可能性がありますのでご注意ください。


Liao L et al. Can N95 Respirators Be Reused after Disinfection? How Many Times? ACS nano.2020 [Epub ahed of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32368894

個人防護に欠かせないN95マスクですが、資源節約のため滅菌して再利用している施設も多いのではないでしょうか。
変わりネタで化学系の雑誌から、N95マスクは何回再消毒・滅菌して使えるか? という論文を紹介します。

一般的なN95マスク直径80nmまでなら95%カットできるとされており、直径約150nmのSARS-CoV2もフィルターできるとされています。N95マスクのフィルター機能の肝は"Meltblown layer"という不織布の層だそうです。この層は物理的に密なだけでなく、中の細かい繊維が帯電することによって小粒子を通さなくするという働きがあります。マスク滅菌・消毒する際にはこの層の機能を保つことが重要だそうです。
ちなみに熱でSARS-CoV2を失活させるには70℃で5分間の加熱が必要とされているようです。

筆者らは、加熱(湿度低め)、加熱(湿度高め≒スチーム)、エタノール、塩素系製剤、紫外線、など色々な方法でN95の不織布の層を繰り返し消毒し、フィルター機能を評価しました。

結果は、エタノール、塩素系では1回で機能が有効水準未満に低下しました。加熱(スチーム)では、5回目の消毒あたりから機能が低下し始めました。紫外線は比較的耐久性がありましたが、10回程度で機能が徐々に落ちてしまいました。
一方、加熱(湿度低め)は、50回でも機能は落ちませんでした。
これらの結果から、筆者らは何度も繰り返し消毒する場合、加熱(湿度低め)を推奨しています。

加熱(湿度低め)の方法も色々紹介されていますが、「85℃・湿度30%」あたりが良さそう、とのことです。
エタノール、塩素系、スチームが良くなかったのは、不織布の層が濡れることで帯電しなくなってしまうことと関係していそうです。

今回はN95マスクから不織布の層だけを取り出して実験したようなので、実際のマスクとは状況が異なります。また、実際は唾液がついたりしておりこの消毒方法で全てのウイルスを失活できるとも限らず、すぐに現実に応用できるわけではありませんが、たまには違う趣向の文献を読んでみてはいかがでしょうか?

しかしN95の不織布層、濡らしちゃダメなんですね…。くり返し使うなら、と思ってアルコール消毒液のスプレーとか噴きかけたくなってしまっていたのは私だけでしょうか…?
ダメらしいです。気をつけないといけませんね。