2021.10.27

2021/05/17 文献紹介

防衛医大の山田浩平です。
健生病院の徳竹先生と5月前半の文献紹介をお送りします!

今回は
①小児の痙攣、病院前でミダゾラム点鼻投与
②腰痛にマグネシウム?
③ケタミンクリーム登場
の3本です!

① Whitfield D, Bosson N, Kaji AH, Gausche-Hill M. The Effectiveness of Intranasal Midazolam for the Treatment of Prehospital Pediatric Seizures: A Non-inferiority Study. Prehosp Emerg Care. 2021 Mar 29:1-9.Epub ahead of print.
PMID: 33656973.
痙攣は速やかに停止させることが重要な課題です!
薬剤の第一選択はベンゾジアゼピンの経静脈投与(IV)ですが、特に小児ではルート確保が困難であることが多いためミダゾラムの筋肉内注射(IM)/鼻腔内(IN)や頬粘膜投与はその代替となります。
INとIM, IVの有効性を直接比較した研究はこれまでになく、本研究はミダゾラムの鼻腔内投与が他の投与経路と比較して非劣性であるかを明らかにする目的で行われました。

2010年1月1日~2017年12月31日までの期間でロサンゼルスにおいて救急隊によりミダゾラム投与を受けた14歳以下の非外傷性痙攣発作患者を対象とした後ろ向き観察研究です。
現場で地域のプロトコルに従ってミダゾラム投与が可能であり、投与経路はIN, IM, IV, 重症度に応じてIO(骨髄内投与)を選択、投与量は0.1mg/kg(max 5mg)で統一、痙攣持続していた場合には2分後に追加投与可能でした。primary outcomeは初回投与後に追加投与が必要となった患者の割合であり、非劣性マージンは群間差として6.5%が設定されました。
最終的に2034人が対象となり、INが461人(23%)を占め、全体でミダゾラムが再投与された患者は338人(17%)でした。primary outcome=初回投与後に追加投与が必要となった患者はIN 25%、他の投与経路 17%であり、群間差は11.0%(95% CI 6.7-15.3%)という結果でした。

結論としてミダゾラム0.1mg/kg INは、同量を他の経路で投与した場合に比較して再投与の必要性が増えてしまう結果となり、小児の痙攣発作の初期対応においてこの用量と投与経路の組み合わせが有効でないことが示唆されました。
これまでの研究において痙攣に対するベンゾジアゼピン投与量がガイドライン推奨量よりも少ない割合が高いことがわかっています(Am J Emerg Med. 2021 Feb 6;44:106-111.)。至適投与量はこれからさらに研究される分野でしょうが、本邦のガイドラインでも0.2mg/kgが推奨されており、少なくとも投与量不足があったことは否めません。また、再投与までの時間は2分と短すぎたために再投与が増えたという可能性も残ります。

IVやIMは医療従事者の針刺しリスクや親の手前などでは少しやりづらいこともあり、INは期待される投与経路だと考えられます。今後の研究を待ちたいと思います。

② Bayram S, Sahin K, Anarat FB, et al. The effect of oral magnesium supplementation on acute non-specific low back pain: Prospective randomized clinical trial.Am J Emerg Med. 2021 Mar 27;47:125-130.
PMID: 33812327
様々な使い方があるマグネシウム。
今年の1月に片頭痛へのマグネシウムの文献を紹介しています(https://www.emalliance.org/education/dissertation/20200641)。
鎮痛薬としての効果も注目されているようですね!
今回は腰痛です!
マグネシウムはNMDA受容体を遮断することでカルシウムイオンの細胞内の流入を阻害し、その結果鎮痛効果が期待できるそうです。
また、腰痛ではないですが、術中術後でも鎮痛効果が言われているようです(トルコだけでしょうか…?)。

今回の研究はトルコの単施設で行われた非盲検RCTです。救急外来を受診した18歳〜64歳の機能障害を伴う急性腰痛患者を対象に、
・NSAIDs単独 群
・NSAIDs + マグネシウム 群
・NSAIDs + アセトアミノフェン 群
の3群に分けそれぞれ初診日と受診4日後、10日後のVAS(疼痛スケール)、RMDQ(Roland-Morris Disability Questionnaire;腰痛に関連した機能のスケールで、0~24点で評価、5点以上の変化が有意)などの変化を比較しました。
ちなみに、マグネシウムは365mg/日の内服だそうです。

それぞれの群に80名が振り分けられ、最終的に209名が解析に回りました。
主な結果は表に示します。

NSAIDs単独 マグネシウム追加 アセトアミノフェン追加
初診日 VAS 7.11 6.89 6.72
RMDQ 17.3 18.37 16.22
初診日と4日後の差 VAS 2.9 (2.39-3.3) 3.49 (3.07-3.91) 2.91 (2.52-3.32)
RMDQ 6.5 (4.7-8.1) 9.2 (7.8-10) 6.7 (5.5-7.8)
初診日と10日後の差 VAS 4.56 (3.97-5.15) 5.26 (4.73-5.72) 4.60 (4.09-5.11)
RMDQ 11.3 (9.71-12.76) 13.4 (11.9-14.8) 11.4 (10.1-12.5)
※結果は平均(95% CI)で記載

4日後はVAS、RMDQともにマグネシウム追加群で他の2群より改善、
10日後はVAS、RMDQともに3群変わりなし、
という結果でした。急性期には効果あるかも!?

血中マグネシウム濃度などは測っていませんし、数日内服しただけでマグネシウムの効果が現れるとは私はあまり思えないのですが…鎮痛薬としてのマグネシウムというのが新鮮だったので取り上げてみました。本当に急性期に効果あるなら良いですね!

ちなみに、市販薬であるロキソニンS®︎には、胃酸をある程度中和してロキソニンの吸収を早めるために酸化マグネシウムが配合されているようです。もしかすると今回の結果はマグネシウムのこの効果によるのかも知れませんね…!

③ Heydari F, Khalilian S, Golshani K, et al. Topical ketamine as a local anesthetic agent in reducing venipuncture pain: A randomized controlled trial. Am J Emerg Med. 2021 Apr 3;48:48-53.
PMID: 33836388
古い薬ですが最近注目を浴びているケタミン。今回はクリームで登場です(少なくとも日本では販売されていなさそうでした)。末梢静脈路の穿刺前に塗っておくと痛くない?という研究です。

イランの多施設の救急外来で行われた研究です。
トリアージで軽症と判断された18歳以上の患者300名を対象に、
・5% エムラクリーム(2.5%リドカインと2.5%プロピトカインの配合剤) 群
・10% ケタミンクリーム 群
・プラセボクリーム 群
の3群に分けそれぞれ穿刺予定部にクリームを塗りました。被覆し最低50分(!!)置いたあと、痛覚を評価し効いているのを確認したのち20Gで穿刺します。穿刺直後に、患者に穿刺時の痛みをNRS(0~10)で評価してもらいました。
結果は、エムラクリーム群のNRSが平均1.72、ケタミンクリーム群が平均1.66、プラセボ群が平均3.16でした。
ケタミンクリームはエムラクリームと同等の効果があり、プラセボに比べてNRSが有意に低いという結果でした。また、痒みや皮疹などの有害事象はケタミンクリームの方が少なかったようです。


軽症とはいえ救急外来で静脈路確保前に50分以上待たせるのもなかなか難儀ですが…副作用少なく良好な鎮痛が得られるのであれば、何かしら使い道はあるかも知れませんね!ケタミンの色んな使い方に今後も注目です!

以上です。次回もお楽しみに!!