2021.09.02

2021/09/01 文献紹介

まだまだ暑い日々が続き、コロナが猛威を奮っておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
今回は国際医療福祉大学成田の井桁と、聖マリアンナの川口先生が担当で文献紹介をさせていただきます。

前半は非コロナ文献2つ、後半はコロナ関連を2つとなっております。
①動脈ラインを挿入する際は是非超音波ガイド下で!
②角膜上皮剥離の鎮痛に局所麻酔点眼が今後選択肢に?
③マスクの鼻の部分をテープで止めてズレを防げ!
④COVID19肺炎患者に意識下腹臥位療法+ネーザルハイフローは挿管率を下げる

大変な日々が続きますが、息抜きにでも読んでいただければ幸いです。

①Effects of ultrasound-guided techniques for radial arterial catheterization: A meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Emerg Med. 2021 Aug;46:1-9. PMID: 33684726.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33684726/

動脈ラインを挿入する際は是非超音波ガイド下で!

従来動脈ラインの挿入は触診で行われてきましたが、超音波ガイド下の橈骨動脈ライン挿入は動脈含む周辺構造を明確にすることができ、小児・肥満・低血圧・浮腫・動脈硬化など難しい人達に挿入する際の有用性が報告されてきました。すでに従来の手法より成功率の向上や合併症の減少など利点が報告されていますが、今回は改めてメタ解析した論文が出ましたので紹介します。
2003年から2019年まで、19のRCTから3220人が登録されました。5つは小児を対象にした研究でした。
手術室やICUで行われた研究がほとんどで、ERで行われたのは2つのみでした。

超音波ガイド下挿入は従来の触診法よりも以下のようなメリットがあると報告されました。
・初回成功率が高い(RR 1.39;95%CI,1.21~1.59; p<0.001)
・平均試行回数が少ない(WMD,-0.80; 95%CI, -1.35~–0.25; p=0.004)
・平均試行時間が短い(WMD, -41.18秒; 95%CI, -74.43~-6.93; p=0.018)
・血腫のリスクが低い(RR 0.40; 95%CI, 0.22~0.72; p=0.003)

サブグループ解析では小児、緊急処置、超音波の描出が短軸・長軸などで検討しても超音波ガイド下の方が有意に良い結果となりました。
手技者によって精度が異なること、どれの結果も異質性が高いことなどLimitationはありますが、今後の流れとして動脈ラインの挿入は超音波ガイド下がスタンダードになっていきそうですね。
今回組み込まれた中で、ERで行われたものは2つのみであり、それらの結果は「有意差なし」「失敗が増えた」と言う結果でした。手術室やICUのように必ずしも鎮静筋弛緩がかかっていないこともあり、より手技者の技量が求められるシチュエーションかと思います。
つい急いで触診法でやってしまいがちですが、まさに“急がば回れ”ということで超音波で確実に行っていく方が良いと思わせる結果でした。
施設によってはすでに超音波ガイド下を基本にされているところもあるかと思いますが、今後の診療の参考になれば幸いです。

②Short-Term Topical Tetracaine Is Highly Efficacious for the Treatment of Pain Caused by Corneal Abrasions: A Double-Blind, Randomized Clinical Trial. Ann Emerg Med. 2021 Mar;77(3):338-344. PMID: 33121832.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33121832/

角膜上皮剥離に対する短時間の疼痛管理に局所麻酔液の点眼が今後の選択肢に?!

角膜上皮剥離はERでよく診る眼科疾患の一つですが、その疼痛緩和に関しては局所麻酔液の点眼は安全性への懸念から推奨されてきませんでした。
しかしこの定説は最近疑問視されており、角膜手術後の術後疼痛に局所麻酔液点眼を短期間使用しても治癒の遅れがないことがわかってきました。そこで今回は局所麻酔薬点眼(テトラカイン)とプラセボのRCTを紹介します。

P:EDを受診した角膜上皮剥離の成人118人
I:テトラカイン点眼(必要に応じて30分ごと、24時間まで)
C:プラセボ点眼(必要に応じて30分ごと、24時間まで)
O:24~48時間後のEDでの疼痛スコア(NRS)、再診までに使用した鎮痛薬の量

アメリカオクラホマ州の救急病院で行われた研究です。
ERで角膜上皮剥離の診断を受けた後に、抗生剤の点眼に加えてテトラカインまたはプラセボ(人工涙液)が入った不透明な封筒で患者に渡されます。それとは別にヒドロコドン/アセトアミノフェン合剤を疼痛時頓用で処方されています。

Primary outcomeは初回の24-48時間時点でのEDフォローアップ時のNRS、Secondary outcomeはヒドロコドンの使用量と有害事象としています。

118人の患者が登録され59人ずつに無作為化割り当てをされました。
24~48時間後のEDでの初回フォローアップでは、NRSはテトラカイン群で1、プラセボ群で8と有意にテトラカイン群が低い結果となりました(difference=7; 95%CI 6-8; p<0.001)。
点眼の使用回数はテトラカイン群で多かったようです(9回 vs 5回; 95%CI 2-5) 。
角膜損傷が残存していることが判明したのはテトラカイン群の方がやや多い傾向でしたが有意差はありませんでした。(10人 vs 6人; 95%CI -6.4-20.4)。
頓用の鎮痛薬を使用する回数もテトラカイン群で少ない結果となりました(1 vs 7)。

コンタクトレンズ使用中、角膜手術術後、異物混入など除外項目は様々あるため、あくまでシンプルな角膜上皮剥離に限られます。
今回の研究では、EDに来院した合併症のない角膜剥離の患者に対して、眼科医の適切なフォローアップと帰宅時の注意事項を伝えれば、24時間の局所麻酔薬点眼は安全に処方できると考えられる結果となりました。 日本では局所麻酔薬の点眼はベノキシールが一般的かと思います。診察時に使うと目の痛みが嘘のようになくなることはよく経験しますよね。患者さんからも「この薬ください!」と言われたことありませんか?その気持ちわかるけどダメなんだよね…と鎮痛薬の内服を渡していました。まだ適応がないので処方はできませんが、今後選択肢の一つになる可能性があるかと思いました。

③Pettit N, Zaidi A, O'Neill B, Doehring M. Use of Adhesive Tape to Facilitate Optimal Mask Positioning and Use in the Emergency Department: A Randomized Controlled Trial. Ann Emerg Med. 2021 Aug 2:S0196-0644(21)00479-0. Epub ahead of print. PMID: 34353646
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34353646/

マスクの鼻の部分をテープで止めれば100%ズレが防げる!?

病院の中では医療従事者だけでなく患者さんにもマスクをつけてもらっていることが多いと思います。…が、結局下にずれて鼻が出て意味ないやん!と感じる機会も多いのではないでしょうか。
そんな皆様に解決策を授けてくれる画期的な研究が発表されました。

P:米国インディアナ州Eskenazi Hospital救急外来の成人患者123名
I:マスク中央上端と鼻梁(鼻筋)にまたがるようにサージカルテープを貼付
 (AppendixのFigure E1.に実際のやり方が写真で載っています)
C:普段通りマスクを着用
O:60分後にマスクがずれていないか

結果は介入群で100%(マスクは全然ずれていなかった)、コントロール群69%
絶対リスク低下ARRは31%(95%CI, 19%-43%), NNTは3.2 でした。

救急外来での60分間での評価ですので待合室や入院中の患者さんにそのまま適用できるわけではありませんが、それでも「100%」は驚異的な効果ですね。早速現場で実行している文献班メンバーの感触も「本当に全然ズレない!」と好評です。

もはや災害と化しているコロナ禍ではなかなか研究まで手が回りにくいですが、本研究のようにコロナ禍でもできる(むしろコロナ禍ならではの?)シンプルかつ明日からの診療に直結する研究が行われていることは大きな励みになりますね!

④Ehrmann S et al., Awake Prone Positioning Meta-Trial Group. Awake prone positioning for COVID-19 acute hypoxaemic respiratory failure: a randomised, controlled, multinational, open-label meta-trial. Lancet Respir Med. 2021 Aug 20:S2213-2600(21)00356-8. Epub ahead of print. PMID: 34425070
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34425070/

COVID-19患者に対する意識下腹臥位療法+ネーザルハイフローは挿管率を下げる

かつてない勢いでCOVID-19の重症呼吸不全患者が増えており、人工呼吸器の台数やそれを扱えるスタッフ・設備が限られていることもあってハイフローネーザルカヌラ(ネーザルハイフロー)の使用機会が増えています。
また、それに腹臥位療法を組み合わせる事によって酸素化の改善や人工呼吸器を回避できた症例を経験した方は少なくないのではないでしょうか。

ネーザルハイフロー+腹臥位療法の効果に関する研究は意外に少なく、これまではn=数十程度の報告が2つあるのみでした。本研究は同テーマ初の大規模研究であり、カナダ、フランス、アイルランド、メキシコ、アメリカ、スペインの6施設が参加しています。

P:ネーザルハイフローが必要なCOVID-19患者1126名
I:意識下腹臥位療法を実施
C:標準治療
O:28日以内の挿管または死亡

腹臥位療法のやり方は「毎日できるだけ長い時間うつぶせでいる(中央値5.0時間[IQR 1.6-8.8])」と指定されており、BMI40以上肥満、妊婦、腹臥位療法が禁忌となる症例は除外されています。

結果は
相対リスクRR0.86 [95%CI 0.75–0.98]
挿管を1例回避するためのNNTは14
28日死亡率は両群で変わらず
有害事象(皮膚損傷、嘔吐、AラインやCVの事故抜去)も両群で大差なし
というものでした。

また、挿管に踏み切る基準は「呼吸数40回以上、呼吸筋疲労、pH7.25未満の呼吸性アシドーシス、FiO2:0.8以上でSpO2:90%以下(多量の気動分泌物、血行動態不安定、意識障害の悪化)」となっており、かなり閾値を上げている(ネーザルハイフローで粘っている)印象です。

現在の本邦の現場ではもう少し早いタイミングでの挿管を考慮しても良いかもしれませんが、いずれにしてもネーザルハイフロー+腹臥位療法の効果や安全性が示された重要な研究といえると思います。

以上です。日頃の診療の参考になれば幸いです。