2021.08.16

2021/08/16 文献紹介

文献班より健生病院の徳竹です。
先日より文献班班長をさせていただいております。引き続きよろしくお願い申し上げます。

新型コロナウイルス感染症の大流行により、どの地域でも医療が逼迫しているなかで大変な勤務をされていることと思います。本当にお疲れ様です。

さて、8月後半の文献紹介は、防衛医大の山田浩平先生とともに3本の論文を紹介したいと思います。

➀COVID-19非重症患者へのヘパリン投与RCT
②急性興奮に対するケタミン vs ミダゾラム+ハロペリドール筋注RCT
③耳介血腫の固定にフィンガースプリント

①ATTACC Investigators; ACTIV-4a Investigators; REMAP-CAP Investigators. Therapeutic Anticoagulation with Heparin in Noncritically Ill Patients with Covid-19. N Engl J Med. 2021 Aug 4. doi: 10.1056/NEJMoa2105911. Epub ahead of print. PMID: 34351721.

COVID-19の血栓イベントは流行早期から認知されており、何らかの形での抗凝固療法が必要だろうと言われていました。
以前文献班から「ヘパリンは早期に投与開始した方が良い」という観察研究を紹介しました(2月後半文献紹介:"https://www.emalliance.org/education/dissertation/20210228 )。
今は重症度やDダイマーの値などを目安にしながら抗凝固療法を行なっている(さらには使い分けている)施設が多いと思います。
しかし実はこれまで抗凝固療法に関する大規模なRCTがないのが現状でした。

今回紹介するのは、マルチプラットフォーム・アダプティブRCTという新しい手法を用いています(詳細はhttps://www.remapcap.jp/?page_id=45 などをご覧ください)。

簡単に紹介すると、
P: 中等症COVID-19患者(ICUレベルのケアを必要としない入院患者)
I: 治療量の低分子/未分画ヘパリンによる抗凝固療法(プロトコルは施設ごと)
C: 血栓予防量での抗凝固療法(プロトコルは施設ごと)
O: 臓器補助離脱日数(OSFD: Organ Support-Free Days)

介入群の優位性が示されたため早期に中断されましたが、2219人が最終解析に回りました。

結果は、OSFDに関して、治療量の抗凝固療法が優位である確率は98.6%となりました。特に、Dダイマーが高い群(正常上限の2倍以上)ではその傾向が顕著でした。
一方で、大出血については劣性の確率は95.5%でした。

血栓に関しては人種の影響が言われているので、本研究がそのまま日本人に当てはめられる訳ではないかも知れませんが、中等症患者にも治療量での抗凝固療法を始める流れになる可能性もありますね。ERで抗凝固開始…なんて施設も出てくるかも知れません。細かいヘパリンの用量などの情報はSupplementに満載ですので、気になる方は是非Supplementもチェックしてみてください!

中等症には上記のような結果でしたが、一方で同日に同グループからNEJMに出された重症者を対象とした研究(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34351722/ )では、治療量でも効果は認められないという結果でした。やはり重症度や発症からの時間などによって効く/効かないがあるのかも知れませんね…。今後の研究に期待です。
興味ある方は比べて読んでみてください!

②Barbic D, et al. Rapid Agitation Control With Ketamine in the Emergency Department: A Blinded, Randomized Controlled Trial. Ann Emerg Med. 2021 Aug 2:S0196-0644(21)00433-9.PMID: 34353650.

ERではしばしば精神的に強く興奮した患者を対応しなければならないことがあります。
早期にコントロールすることは患者とスタッフの安全確保のために重要です。
言語による鎮静が無効な場合には身体的および薬物的な鎮静が必要になります。

みなさまは薬物的鎮静にはどのような薬剤を用いますか?
標準的な治療は現時点で存在しませんが、おおよそベンゾジアゼピンや抗精神病薬を使用しているのではないでしょうか。
しかし、これらの薬剤は呼吸抑制による気管内挿管やジストニア/アカシジア/パーキンソニズム/悪性症候群との関連が指摘されており、有害事象を無視できません。

そこでケタミンが注目されてきています。
迅速な鎮静作用があること、心血管系へのリスクが低いこと、呼吸抑制を起こしにくいことなどが利点であり、ERでの迅速かつ安全な鎮静手段となりえることが示唆されています。

従来の薬物的鎮静方法とケタミンを比較検討したRCTが発表されたので紹介します。

2018年6月30日~2020年3月13日の期間に行われたカナダの単施設ERでの無作為化比較試験です。

対象はRASS≧3で定義される重度の精神的興奮を有する19-60歳でした。
過去に登録されたことがある患者、警察に拘留されている患者、妊婦、授乳中、薬剤へのアレルギー歴、特定の併存疾患がある患者は除外されました。

乱塊法(randomized block design)を用いて盲検化し、無作為に以下の2群に割り付けられました。
ただし、看護師だけは非盲検でした。
・ケタミン群…5mg/kg筋注(複数のシリンジに分割、50mg/mlの濃度、1部位当たり最大4ml)
・対照群…ミダゾラム5mg+ハロペリドール5mg筋注
患者は投薬後すぐに観察を開始され、primary outcomeまたは30分の追跡期間が終了するまで5分間隔で継続的にRASSを記録されました。

primary outcomeは「試験薬投与からRASS-1になるまでの時間」で設定されました。
十分な鎮静が得られなかった場合には最後の観察時もしくは30分経過のいずれか早い時点で打ち切りとされました。

308人がスクリーニングされ、最終的に80人が2群に均等に無作為化され登録されました。
サンプルサイズの計算は事前にされていましたが、COVID-19パンデミックを理由に試験は早期に中止されてしまいました。
ケタミン投与群では男性、RASS+4が多く偏っていました。

primary outcomeですが、
ケタミン群:5.8分 vs 対照群:14.7分, 差 8.8分 [95% CI 3.0-14.5] という結果でした。
Kaplan–Meier累積発生率曲線によれば、適切な鎮静が得られた時間帯いずれにおいても、ケタミン群は対照群より十分な鎮静が得られた割合が多いことがわかります。
調整後のCox比例モデル解析でも、ケタミン群に有利な結果でした(HR 2.43, 95% CI 1.43-4.12)。
有害事象はケタミン群:5人 vs 対照群:2人に生じました(差 7.5% [95% CI -4.8%~19.8%])。
ケタミン群で1人が喉頭痙攣を起こしましたが、気管挿管やICU入室を要する患者はいませんでした。

ケタミンの効果発現は一般的な鎮静薬よりも早く、興奮を鎮静するのに効果的でした。

最大のlimitationは、COVID-19の流行のため目標としたサンプルサイズに満たなかったことでしょう。残念!
より大規模な試験であれば2群間の鎮静剤投与後の差の推定精度が高まったかもしれません。
ケタミン群の患者層はより興奮度が高く、それにもかかわらず効果を生じたことから有効性は高かったであろう可能性はあります。
一方で重篤な有害事象発症率の差が検出されてしまったかもしれません。

現時点では急性興奮に対する鎮静目的でのケタミン使用は推奨されるわけではありませんが、今後の研究によっては主要な薬剤となる可能性が高い薬剤と考えられます。今後の研究が待ち遠しいですね!

さて、最後はライトな話題です。

耳介血腫のドレナージ後の固定方法について面白い報告があったので紹介します。

③Khan A, Kwiatkowski T. A novel technique: Use of finger splint as compression device for post auricular hematoma drainage. Am J Emerg Med. 2021 Jul 21:S0735-6757(21)00589-1. doi: 10.1016/j.ajem.2021.07.023. Epub ahead of print. PMID: 34344567.

耳介血腫は直ちに血腫をドレナージし再貯留をさせないよう処置することで、軟骨周囲の炎症や壊死を防ぐことが重要になります。
この過程を失敗すると、合併症としてカリフラワー耳もしくはギョーザ耳が生じえます。

通常の方法はガーゼや綿球で耳介を包み、高さの調整をして、包帯ぐるぐる巻きにします。
動きが活発な小児ではなかなかてこずる手技かもしれません。
せっかくうまく巻いたのに外しちゃって再受診…なんてこともありませんか?

今回報告された方法は、アルミ製フィンガースプリントを使用しています。
耳介の表と裏に綿パッドを貼り付け、フィンガースプリントをU字型に曲げて装着・圧迫するだけです。
なお、圧迫の程度は「臨床的な感覚」に任せられたそうです。
72時間後の観察では血腫の再貯留や皮膚壊死などは認めませんでした。

たった1例の報告ですが、簡単かつ再現性が高くて症例によっては有効かもしれません。
万が一、とれてしまってもおうちでカンタンに手直しできそうで、無駄な再受診を減らせそうです。
フィンガースプリントの縁を滑らかに削っておくことはポイントでしょうか。

ちょっと面白い固定方法の紹介でした。
実際の画像は元文献をご参照ください。

また、教育班により耳介血腫処置後のボルスター固定がまとめられていますのでご参照ください。
https://www.emalliance.org/education/case/kaisetsu108

今回の文献紹介は以上となります。
今後ともEMA文献班をよろしくお願いします!