2021.07.04

2021/07/04 文献紹介

東京ベイ・浦安市川医療センターの竪と沖縄県立中部病院の山本です。
すでに7月に入ってしまいましたが、6月後半の文献紹介をお送りいたします。

今回は以下の4つの文献を紹介します。
① 凝固障害がある人への胸腔穿刺や胸腔ドレーン挿入は意外と合併症が少ないかも
② 12時間勤務のレジデントの手技合併症は最後の4時間に多い
③ 尿路結石の予測にはSTONE scoreよりCHOKAI scoreがより有用である
④ ICUでの気管挿管時にスタイレットなし群よりスタイレットあり群の方が初回成功率の点で良かった

初めに山本から手技に関する2つの文献を紹介したいと思います。

① Fong C, Chang Tan CW, Yan Tan DK, See KC.
Safety of Thoracentesis and Tube Thoracostomy in Patients With Uncorrected Coagulopathy: A Systematic Review and Meta-analysis.
Chest. 2021 Apr 24:S0012-3692(21)00761-3.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33905681/

「凝固障害がある人への胸腔穿刺や胸腔ドレーン挿入は意外と合併症少ないかも!!」

抗凝固薬内服や血小板減少の患者に対する胸腔穿刺や胸腔ドレーン挿入を躊躇することはありませんか?
一つ目に紹介する文献は凝固障害のある患者への胸腔穿刺や胸腔ドレーン挿入の安全性を調べたシステマティックレビュー&メタアナリシスです。これまでも凝固障害のある患者への胸腔手技の安全性は複数の研究で示されているようですが、今現在入手可能なエビデンスを系統的にレビューした文献です。

PubMedとEmbaseに設立時から2019年までに登録された研究論文や学会の抄録のうち、疾患や内服薬で未補正の凝固障害がある患者に胸腔穿刺や胸腔チューブ挿入を行い、重大な出血合併症(血胸、喀血、輸血や手術を要する出血)や死亡が報告されているものを対象としています。

対象研究は18個あり、1947年から2019年までの5134回の手技が含まれました。対象患者はINR上昇(>1.5)、血小板減少(<50,000/μL)、抗凝固薬や抗血小板薬内服、肝疾患、腎不全のいずれかがありました。

6つの研究で重大な出血合併症(血胸、喀血、>2g/dLのHb低下、輸血や手技による介入)が報告されましたが、いずれもレアで、18の研究で合併症、死亡率ともになんと約0%(95% CI, 0%-1%)でした。

抄録のみを除いた12文献でメタアナリシスを行っても、重大な出血合併症や死亡率は同様に約0%(95% CI, 0%-2%)でした。

サブグループ解析では
- 薬剤関連リスクのみ(アスピリン、クロピドグレル、DAPT、抗凝固薬)
- 血小板減少のみ
- INR上昇のみ
- 胸腔チューブ挿入のみ
- 胸腔穿刺のみ
- 後ろ向き研究のみ
- 前向き研究のみ
で検討しましたが、いずれも大出血のリスクは約0%でした。

報告では合併症は非常に少ないことがわかりました。とはいえ対象となった研究の異質性などlimitationがあります。対象となった平均INR値は2.3と極端に高値でもありません。また救急外来でのセッティングとは異なることにも留意が必要です。現実世界で重大な出血合併症は起こりうることで、死亡事故の報告もあることから、慎重に手技を行うことに変わりはありませんね!!

② Gatz JD, Gingold DB, Lemkin DL, Wilkerson RG.
Association of Resident Shift Length with Procedural Complications.
J Emerg Med. 2021 May 15:S0736-4679(21)00170-0.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34006422/

「12時間勤務のレジデントの手技合併症は最後の4時間に多い!!」

胸腔手技の文献の次に紹介する文献はレジデントの手技合併症と勤務時間に関しての文献です。疲れている時に手技をしないといけない場合、肉体的にも精神的にも辛いですよね。

米国救急レジデンシーの15%は12時間シフトが一般的のようで、シフトが長引くと生産性や認知機能が低下することがわかっています。この研究ではシフトの最初の8時間と最後の4時間で行われた手技の合併症の発生頻度を調べています。

著者は後ろ向きにPGY-1からPGY-5のレジデントの手技をカルテ検証しました。対象期間は2016年7月1日から2017年6月30日までで、対象手技は気管挿管、CV挿入、胸腔チューブ挿入、腰椎穿刺、動脈ライン挿入です。対象期間中に523人の患者に738回の手技が行われ、548回の手技が解析対象となりました。なお合併症は理想的なパフォーマンスを得られなかった場合と定義され、複数回試行、手技失敗、患者への害、位置変更や抜去が必要、気胸、出血、感染などが含まれました。

シフトの最初8時間と最後4時間に行われた手技に関して患者の年齢、BMI、レジデントの学年、手技の種類に差はありませんでした。
日勤でも夜勤でもシフトの最後の4時間に行われた手技の方が、最初の8時間に行われた手技に比較し、合併症の発生率が有意に高いことがわかりました(40.7% vs 57.3%, RR=1.41, 95% CI=1.18-1.67, p<0.001)。
特に気管挿管とCV挿入で統計的有意に合併症率が増加しました(気管挿管 41.2% vs 57.6%, RR=1.40, 95% CI=1.03-1.90, p=0.04; CV挿入 22.7% vs 41.9%, RR=1.84, 95% CI=1.08-3.14, P=0.02 )。
患者の特徴やレジデントの学年、手技の種類や、シフトの種類(日勤or夜勤)などの交絡因子を調整しても、シフトの最後の4時間に合併症のリスクが高まることに変わりはありませんでした(RR-1.42, 95% CI=1.19-1.69, p<0.001)。

予測可能な結果ですが、勤務終わりの手技は要注意ですね。この文献では『waterfall shifts』というシフト制度を紹介していました。シフトの最初の重症度の高い患者を担当し、シフトの最後に重症度の低い患者を担当するシフトの組み方です。オーバーラップしたシフトを組むことも有用かもしれません。

東京ベイ・浦安市川医療センター 集中治療科の竪です。私からは2つの文献を紹介します。

③Eraybar S, Yuksei M et al. The prospective evaluation of the effectiveness of scoring systems in the emergency department in cases with suspected ureteral stones: STONE? CHOKAI?
Am J Emerg Med. 2021 Jun 1; 49: 94-99
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34098332/

「尿路結石の予測にはSTONE scoreよりCHOKAI scoreがより有用である」という文献です。

尿路結石のClinical prediction ruleであるSTONE scoreをご存知でしょうか?嘔気・嘔吐や尿潜血陽性の有無など計5項目で尿路結石を予測するスコアリングです。人種の項目が含まれており、人種間で発症率が大きく異なる事がSTONE scoreのlimitationの1つとなっています。また皆さんが実臨床で必ず実施する腹部エコーでの水腎症の所見もoriginalのSTONE scoreには含まれていません。

そこで日本人によってCHOKAI scoreという新たなスコアリングが数年前に報告されました(項目は以下の図参照)。ネーミングはSTONE scoreの方が分かりやすいですね。年齢と腎結石の既往、エコーの水腎症の所見が含まれ、人種が含まれていないのが特筆すべき点です。この2つのスコアの診断精度をトルコのある病院の救急外来で調べたのが今回の文献です。

側腹部、鼠径部、陰嚢の痛み、血尿があり、腹部単純C Tを施行された18歳を超える患者を対象にしています。

結果です。CHOKAI scoreは7点をカットオフにすると感度60.49%、特異度83.33%でした。STONE scoreは8点をカットオフにすると感度70.37%、特異度58.33%でした。特異度が大幅に改善しました。またAUC曲線はSTONE scoreより有意に良好な結果でした。

日本やトルコなど単一人種の国ではSTONE scoreよりCHOKAI scoreの方が尿路結石の診断において有用そうです。STONE scoreはCTによる放射線被曝を減らすために開発されましたが、特異度を考慮するとCTが必要で、高リスクの場合には低線量CTを選択する、というプラクティスがあるかもしれません。CHOKAI scoreでは特異度が改善しているとは言え、CTはやはり必要でしょう。しかし点数が高い場合に低線量CTを撮像する根拠としてSTONE scoreより有用である可能性があります。これまでSTONE scoreを使用していなかった先生もSTONE scoreをこれまで使用して先生もCHOKAI scoreを使用してみてはいかがでしょうか?

Distension of kidney Capsule 嘔気 or 嘔吐 +1
Hydronephrosis 水腎症 +4
Occult blood in urine 顕微鏡的血尿 +3
Kidney stone history 結石の既往 +1
Adult 男性 +1
Age 60歳未満 +1
dIminution of pain within 6H 6時間以内に疼痛改善 +2

④Jaber S, Rolle A et al. Effect of the use of an endotracheal tube and stylet versus an endotracheal tube alone on first-attempt intubation success: a multicenter, randomized clinical trial in 999 patients
Intensive Care Med. 2021 Jun; 47(6): 653-664
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34032882/

「ICUでの気管挿管時にスタイレットなし群よりスタイレットあり群の方が初回成功率の点で良かった」というRCTです。STYLETO trialです。

スタイレットを使用するなんて当然なんじゃないかと思われますが、2020年に発表されたフランス全土のICUでの気管挿管の現状を報告した研究では、スタイレット使用した症例はたった約9%であり、重症患者の気管挿管時に最も広く使用されている方法はスタイレットなしだそうです。驚きですよね。気管挿管の初回成功率の上昇のためにスタイレットが提案されていますが、スタイレット使用に伴う粘膜出血や気管や食道の穿孔の報告があるようで、ルーチンで使用すべきかどうかは実は分かっていませんでした。

先ほど紹介した研究同様にフランスの32個のICUで気管挿管された患者を対象にしています。気管挿管は全身麻酔で、初回は全例で直接喉頭鏡を使用しています。

結果は初回成功率がスタイレットあり群で78.2%、なし群で71.5%と有意にスタイレットあり群で良い結果でした。肝心の粘膜出血や食道、気管損傷などの発生率は有意差がありませんでした。外的損傷全体としては約4%と少なかったです。

今回の結果は重症患者の気道管理におけるプラクティスを変え得るものだと著者は述べているのですが、日本ではほぼ全例でスタイレットを使用しているのではないかなと思われ、特にプラクティスを変えるものではないと考えます。しかし普段当たり前に行っている事のエビデンスを見直すには良い文献ではないかと思い、紹介しました。

6月後半の文献紹介は以上です、これからも文献班をよろしくお願いいたします。