2021.04.30

2021/04/30 文献紹介

コロナの第4波真っ只中にゴールデンウィーク突入してしまいましたが、皆様の施設はいかがお過ごしでしょうか。
4月後半の文献紹介は、EMAのダブル宮本コンビ、聖路加国際病院の宮本颯真と京都府立医科大学の宮本雄気がお送りします。

① 救急外来での心房細動に対する電気的除細動は安全かつ効果的!
② 心房細動に対するABC scoreの再検討
③ Canadian TIAスコアは既存のTIAスコアより有効である!

① 心房細動に対して救急外来で電気的除細動を行った際の合併症は?
Fried AM, et al. Electrical cardioversion for atrial fibrillation in the emergency department: A large single-center experience. Am J Emerg Med. 2021;42:115-120. PMID: 32093961

みなさまの施設では有症状性の頻脈性心房細動に対して、救急外来で電気的除細動を行うことはありますか。また、電気的除細動を行った際に、帰宅とするか経過観察入院とするかどうされていますか。今回筆者らは、2013年1月から2018年6月の間に筆者の施設を心房細動に関連する症状で訪れ、救急外来で電気的除細動を行った症例の合併症や転帰に関して後ろ向きに検討しました。

対象となったのは、動悸など心房細動によると思われる症状出現から比較的早期に救急外来を受診し電気的除細動が施行された全887名です。なお887名のうち約3分の1の293名はすでに抗凝固療法が開始されていました。
そのうち781名(88%)で除細動が奏功し、741名(84%)が約3時間半の経過観察ののちに帰宅となりました。処置後に大きな合併症を生じたものは887名中全3名で内訳は、脳卒中、下顎挙上を要する低酸素、および低血圧でした。軽度の合併症を生じた症例は全部で123名(14%)で、そのうち85名が鎮静に伴う一過性の低血圧や徐脈など、41名が除細動に伴う軽度の火傷などでした。
また、同症状での再受診は、1週間以内が19名(2%)、1か月以内が57名(6%)と低い割合でした。

今回の研究から筆者らは、救急外来でバイタルは安定しているものの動悸など自覚症状の強い心房細動症例に対して電気的除細動を行うことは、安全、かつ効果的であり、十分な観察期間を設ければ帰宅としても可能ではないかと論じております。救急外来で比較的頻繁に電気的除細動を行っている単施設での研究であり、ジギタリスやベラパミルなどの事前投与に関して記載がないことなどリミテーションはありますが、薬剤投与で軽快しない症例などで電気的除細動を考慮する際の一助となるではないでしょうか。

② 心房細動に対して抗血小板薬を用いる際にABC scoreは有用である
Biomarker-Based Risk Prediction With The ABC-AF Scores in Patients With Atrial Fibrillation Not Receiving Oral Anticoagulation Circulation. 2021 Apr 14.
[Epub ahead of print] PMID: 33849281

2016年に提案された、心房細動患者の脳卒中リスク予測のための新規スコアリングシステムABC score(PMID:26920728)はご存じでしょうか?
年齢(Age)、バイオマーカ―(Biomarkers:cTnI-hs、NT-proBNP)、既往歴(Clinical histry:脳卒中/TIAの既往)を用いることから、その頭文字をとってABC scoreと命名されました。これまでの複数の研究から従来のCH2ADs2-VAScやHAS-BLEDなどに比して予測性能が優れていることが示されていることから、実臨床で用いている先生もいるのではないでしょうか。今回は、心房細動に対して抗凝固薬を用いることができない患者において、抗血小板薬を代替的に用いる際にもABC scoreは従来の予測スコアに対して優位な結果となるのかを検討した論文を紹介させていただきます。

2つの心房細動に関するコホート研究(ACTIVE A試験・AVERROES試験)を用いた研究です。上記コホートにて、アスピリンのみを内服していた「アスピリンコホート群」(n=3,195)と、「アスピリンコホート群」にアスピリンとクロピドグレルを併用していた群を合わせた「抗血小板剤併用コホート群」(n=4,305)を今回の研究対象としています。 結果として、ABC-AF-stroke scoreのc-indexは0.70(95%CI 0.67-0.73)であり、CHA2DS2-VAScスコアよりも優れていました(CHA2DS2-VAScスコアのc-indexは、アスピリン投与群で0.64、全体で0.63)。また、ABC-AF-bleeding scoreのc-indexは、アスピリン投与群で0.76、抗血小板剤併用群で0.73となり、HAS-BLEDスコアよりも優れていました(HAS-BLEDスコアのc-indexはそれぞれ0.61、0.60)。

この研究で、心房細動患者に抗血小板薬を用いる際に、ABC scoreがガイドラインで推奨され広く使用されているCHA2DS2-VAScスコアやHAS-BLEDスコアよりも予測スコアとして優れていることが示されました。慣れ親しんだCHA2DS2-VAScスコアやHAS-BLEDスコアですが、今後ABC scoreがいよいよ使われるようになってくるのではないでしょうか。まだ使ってことのない方はぜひ臨床で用いてみてください。

③ Canadian TIAスコアは既存のTIAスコアより有効である
Perry JJ, et al. Prospective validation of Canadian TIA Score and comparison with ABCD2 and ABCD2i for subsequent stroke risk after transient ischaemic attack: multicentre prospective cohort study. BMJ. 2021;372:n49. PMID: 33541890

次にご紹介する文献もClinical prediction ruleを扱ったものです。
皆さん、TIAのリスク評価にはどんなスコアリングを用いていますか?
ABCD2スコアやABCD2-Iスコアなど様々なスコアがありますが、今回はこれらを上回る診断能を有するのではないかと言われる「Canadian TIAスコア」をご紹介したいと思います!

以前、開発されたCanadian TIAスコアのバリデーション研究です。
Canadian TIAスコアは病歴と簡単な検査の13項目からなるスコアリングシステムで、-3点〜23点の範囲でスコア化されます。
本研究ではカナダの13施設で行われた前向きコホートを用いて「7日以内」の脳卒中発症もしくは頸動脈内膜剥離術・頸動脈ステント留置術が行われた割合を各スコアごとに調査しました。さらに各スコアを低リスク(<1%)・中リスク(1-5%)・高リスク(>5%)に層別化しその診断能をABCD2スコア・ABCD2iスコアと比較しつつ評価しました。 結果として7607人が対象となり、7日以内の脳卒中発症もしくは頸動脈内膜剥離術・頸動脈ステント留置術が行われたのは182人でした。 Canadian TIAスコアを層別化すると、−3点〜3点を低リスク(<1%)・4〜8点を中リスク(1-5%)・9点以上を高リスク(>5%)とすることができた一方で、既存のABCD2スコアやABCD2iスコアでは低リスク群をうまく同定することができませんでした。 また診断能を表すC-statisticsもCanadian TIAスコアでは0.70と比較的良い診断能を示しましたが、ABCD2スコア・ABCD2iスコアはそれぞれ0.60、0.64とCanadian TIAスコアよりも診断能は劣っていました。

Discussionでは低〜高リスクの際の具体的な対応方法まで記載してくれています。ただし、TIAに対するMRIなどの実施率が非常に低いため、MRIへのアクセスが良い日本では「脳梗塞」と診断されている患者がこの文献では「TIA」に分類されている可能性があります。今後日本でのvalidationも期待したいですね。

今回の文献紹介は以上です。 また次回も文献紹介もお楽しみに!