2021.03.01

2021/02/28 文献紹介

今回はこちらの3本をお送りします。
①救急外来での高齢者虐待のスクリーニング
②COVID-19に対する早期予防的抗凝固療法
③急性期病院でのCOVID-19クラスター発生

①Platts-Mills TF et al. Multicenter Validation of an Emergency Department-Based Screening Tool to Identify Elder Abuse. Ann Emerg Med. 2020 Sep;76(3):280-290.
PMID: 32828327.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32828327/

皆様救急外来(ED)での診療の中で、「高齢者虐待」を意識したことはありますか?
普段当たり前のように来る高齢者の「怪我」や「脱水」など、実はその中に高齢者虐待のケースが紛れているかも…
高齢化大国の日本では高齢者救急から逃れることはできません!
虐待を経験する高齢者は通常の3倍救急外来を受診する率が高いと言われています。また虐待を疑う場合は保護目的での入院という選択肢も取れるため、救急外来でスクリーニングすることは理にかなっていると言えます。 今回はEDにおける、高齢者虐待スクリーニングツール(ED Senior Abuse Identification=ED Senior AID)の有用性を検討した論文をご紹介します。

アメリカの3施設のEDで行われた研究です。
P:対象は65歳以上、重症例ではなく、平日日中の受診者
I:ED Senior AIDによるスクリーニング(施行者はリサーチナース)
C:スクリーニング陰性者から無作為に抽出された10%の患者
O:スクリーニング結果を盲検化した上での専門委員の判定(Primary analysis)、スクリーニング結果を開示した上での専門委員の判定(Secondary analysis)

ED Senior AIDは以下の3つの要素でなっています。
①簡潔な精神的評価(4つの質問:年齢、生年月日、現在地、現在年)
②虐待についての質問(6~8つ)
③身体的評価

同意に関しては、患者家族や介護者には「自宅での安全性を評価するための研究です」と言って説明し、その後家族は部屋から出てもらい、患者1人になったところで高齢者虐待のスクリーニングツールの研究であることを伝えて同意を得ています。
スクリーニングツールとは別に虐待の専門委員がデータを確認して高齢者虐待の有無を評価して比較しました。
専門委員はEDからの情報、退院サマリ、SWの記録など総合的に判断して虐待かどうかを判定しています。

916人の患者が登録され、33人(3.6%)がED Senior AIDにより高齢者虐待と判定されました。
陰性者から92人(10%)を無作為に抽出し、陽性者含め全体で専門委員の評価を受けたところ、最終的には17人虐待と判定されました。
Primary analysisではED Senior AIDの感度は94.1%、特異度は84.3%、PPV 48.5%、NPV 98.9%で施設間での差はありませんでした。
Secondary analysisとしてスクリーニングツールの結果を開示した上での判定では、専門委員は12例追加で陽性としています。その結果感度 96.6%、特異度 94.8%、PPV 84.8%、NPV 98.9%となりました。
陽性者は女性に多く、介護施設に入居している人が多い結果でした。

全体の陽性者が少ないため信頼度は高くはないですが、今回のスクリーニングツールを用いて専門委員との意見を統合すればより有用と考えられます。
Limitationとしては同意を得る段階で家族が希望しなければ介入ができないので、実際はもっと陽性者がいたのではないかと推測されます。またこのデータを元に高齢者保護サービス(日本でいう地域包括支援センターでしょうか)に通告した後にどういう結果となったかはこの研究では分かりません。

今回の研究では陰性患者へのスクリーニングにかかった時間は平均で87秒でした。(早い!!)
思ったより時間がかからないツールであり、スクリーニングの性能としても今回の研究では良い結果でした。

高齢者虐待に関して、EDでスクリーニングをするという発想が今まで自分はなかったので、ハッとした論文でした。
今後の診療の参考になれば幸いです。

②Rentsch CT, et al. Early initiation of prophylactic anticoagulation for prevention of coronavirus disease 2019 mortality in patients admitted to hospital in the United States: cohort study. BMJ.2021 Feb 11;372:n311. PMID: 33574135.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33574135/

COVID-19患者の入院後24時間以内に予防的抗凝固療法を開始すると30日死亡率が低かった

COVID-19患者の死因に静脈血栓塞栓症と動脈血栓症が一部関連しており、集中治療室におけるCOVID-19患者の静脈血栓塞栓症の有病率は約30%とされています。これまでも抗凝固療法の有効性を示す研究結果はあり、すでに使用されている施設がほとんどと思いますが。
この度アメリカでの大規模なコホート研究の結果が発表されました。

P:アメリカの退役軍人のCOVID-19患者 4297人
I:入院後24時間以内に予防的抗凝固療法を開始
C:入院後24時間以内に抗凝固療法なし
O:30日死亡率

使用された抗凝固薬の99%以上はヘパリンかエノキサパリンの皮下注でした。
45の共変数を用いて傾向スコアマッチングで比較した結果、
30日死亡率は介入群14.3 (95%CI, 13.1 to 15.5) vs対照群18.7 (95%CI, 15.1 to 22.9)
ハザード比は0.73 (0.66 to 0.81)でした。
また、介入群は輸血を要する出血イベントの発生とは関連していませんでした(ハザード比0.87)。

観察研究であること、測定されていない交絡因子の存在が否定できないこと、死因に関する情報が明らかでないこと、退役軍人という選択バイアスがあること など注意点はまだまだありますが、抗凝固療法の重要性がわかる結果と言えるのではないでしょうか。

「入院後24時間以内に開始する」というスピード感を救急医も知っておく必要があると思い共有させていただきました。
現在進行中のRCTの結果が待ち遠しいですね。

③Klompas M et al. A SARS-CoV-2 Cluster in an Acute Care Hospital. Ann Intern Med. 2021 Feb 9. PMID: 33556277.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33556277/

最近になってようやく少し落ち着いてきた感はありますが、「クラスター発生」の一言にドキドキしっぱなしだった方も多いのではないでしょうか。また、その一方で個人防護具の着用や院内ルールの制定などでかなり強力な感染防止対策を行っている救急病院の最前線では院内感染の発生がそれほど多くないという実感もあると思います。

本研究は、強力な感染防止対策を行ったにも関わらずSARS-Cov-2感染のクラスターが発生したアメリカのBrigham and Women's Hospitalで行われたクラスター発生に関する記述研究です。

入院時にPCR陰性を2回確認したものの後日陽性となった患者1名に始まり、そのケアに従事した看護師や同室患者へ感染が広がりました。
最終的にクラスター関連で感染した患者14人+病院スタッフ38人およびその関係者としてリストアップされた1457人の観察や検査をすることで、リスク因子やクラスター発生の軽減につながる行動を分析しています。

感染した医療スタッフに限定すると、感染しなかったスタッフと比較して
患者がネブライザーを投与する間に接触した割合が多く(52% vs. 18%; prevalence ratio, 2.53 [95% CI, 1.47 to 4.36])
眼球保護具の装着率が低かった(30% vs. 67%; prevalence ratio, 0.44 [CI, 0.18 to 1.08])
という結果が出ています。

患者数の減少やワクチン接種の開始で流行の歯止めに期待がかかりますが、引き続き油断せずに診療に望む必要性を感じた文献でした。