2021.02.15

2021/02/15 文献紹介

EMA文献班、健生病院救急部の徳竹雅之です。
2月前半の文献紹介を防衛医大救急部の山田浩平先生とお送りします。

今回の文献紹介は以下の3本立てです!
➀肋骨骨折固定術後の合併症
②COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recommendations
③SVTに対するreverse Valsalva法

➀Peek J, Beks RB, Hietbrink F, et al. Complications and outcome after rib fracture fixation: A systematic review.
J Trauma Acute Care Surg. 2020 Aug;89(2):411-418.
PMID: 32282759.

前回の文献紹介の後は「肋骨骨折のバストバンド(英語ではrib band)」の話題で盛り上がりましたね!
私は正直なところ肋骨骨折の手術以外のマネジメントや中長期的なアウトカムはよく勉強したことがありませんでした。そこで最近のSystematic Reviewなどを探してみたところ、肋骨骨折固定術後の合併症などについて調べた文献を見つけたので紹介します。半年前のものですがご了承ください。

今回のSystematic reviewでは、48の研究(全1952症例)が採用されました。大半が観察研究です。平均年齢は53歳、平均ISSは26、折れていた肋骨の平均値は8本でした(手術が必要になるくらいなので、当然多いですね)。
死亡率は2.9%、手術・インプラント関連の合併症は10.3%でした。中でも手術後の不快感が6.9%と際立っています。この手術後の不快感が、長期的なQoLにも影響を与えているようです。

肺関連の合併症は30.9%でした。その中では、肺炎が17.9%、気管切開導入が15.2%でした。
重症胸部外傷が多そうですが、やはり肺炎多いですね・・・過去のSystematic Review(Beks RB,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 2019 Aug;45(4):631-644. PMID: 30276722)では、肋骨固定することで肺炎のリスクは0.59倍になる、と述べています。

今回は重症よりの肋骨骨折でしたが、軽症の場合の合併症・長期アウトカムも気になりますね!

②COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recommendations

皆様は『COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recommendations』をご存知でしょうか?
日本救急医学会、日本集中治療医学会合同の「日本版敗血症診療ガイドライン2020特別編」として発表しているコンテンツです。
EMA文献班の山田浩平先生もタスクフォースのメンバーとして参加しています。
ものすごいスピードで出てくるCOVID-19に関するエビデンスをまとめ、随時推奨を提示しています。2020年に初版公開し、早くも今年の1月末に第3版を公開しました!

本編は以下の2学会のHPから見ることができます!
https://www.jaam.jp/info/2021/info-20210128.html
https://www.jsicm.org/news/J-SSCG2020_COVID19.html

詳細は本編を見ていただきたいですが、
今のところはファビピラビル、レムデシビル、ハイドロキシクロロキン、ステロイド(パルス含む)、トリシズマブ、シクレソニド、抗凝固療法、を取り扱っております。

推奨の方向性のみお示ししますと、
軽症→ファビピラビルのみ推奨、ハイドロキシクロロキン、ステロイドが非推奨
中等症→レムデシビル、ステロイド、トリシズマブ、抗凝固が推奨、ハイドロキシクロロキンが非推奨
重症→レムデシビル、ステロイド、抗凝固が推奨、ハイドロキシクロロキンが非推奨

となっております。
海外の推奨も簡単に提示してありますので、ぜひ参考にしてください。

現在もざっと見るだけでレムデシビルで34件、ステロイドで37件、抗凝固療法は100件以上のRCTが進行中です。今後もエビデンスの状況に応じて改訂を続ける予定です。最新版をチェックしてください!!

③Gaudart P, et al. The reverse vagal manoeuvre: A new tool for treatment of supraventricular tachycardia?
Am J Emerg Med. 2020 Dec 26;41:66-69.
PMID: 33387931.

上室性頻拍症(SVT)に対するValsalva法は、2015年にLancetで発表された修正Valsalva法を使っている方も多いと思います。
概ね50%前後の洞調律復帰率ですが、薬剤を使わずにできる利点があり重宝します。

EMAでも2019年にSVTに対する従来のValsalva法と修正Valsalva法の効果を比較したRCTを紹介していました。
2019/11/15 文献紹介 | EM Alliance

さらに簡便な方法としてreverse Valsalva法が提案されたのでご紹介します。

reverse Valsalva法は簡単4 stepです!
➀ 患者は座位になり、力まずに息を吐きだす
② 鼻をつまんで口を強く閉じる
③ そのままの状態で10秒間息を吸うように努力する
④ 効果があれば10-15秒後にSVTが停止する

やり方がイラストで紹介されています。味があるのでぜひご覧ください。

2019年2月~2020年5月までに行われたcase seriesです。
27歳~70歳までのSVTを呈した11名に対してreverse Valsalva法が実施されました。
なんと1例目は55歳の救急医が自分に対して試して成功しています。
それを皮切りに、11例中10例がreverse Valsalva法により洞調律に復帰しました。
なお、このうち4例では従来法または修正Valsalva法が奏功せず、reverse Valsalva法での洞調律復帰でした。
11例中1例はいずれのValsalva法にも反応せず、薬剤投与がされました。

reverse Valsalva法、もしかしたら効果的かも!

しかもこれなら簡単!
患者さんに教えておけば自宅で発作が起きた時にやってみるとか、受診相談の際の電話口で指導なんかもできるかも!
目の前で薬剤を使わずにSVTを止めたり、そもそもER受診を回避できる可能性もあるので覚えておいてもよさそうです。
追試を期待したいと思います。