2021.02.02

2021/02/01文献紹介

今回は新メンバー 聖路加国際病院の宮本颯真と東京大学 公共健康医学専攻の宮本雄気の2人でお送りします!
今回の文献紹介は2つです。
① 肋骨骨折の疼痛に対して、前鋸筋面ブロックが安全かつ有用な手段として使える!
② ジゴキシンは時代遅れ?

① 肋骨骨折の疼痛に対して、前鋸筋面ブロックが安全かつ有用な手段として使える!
Tekşen Ş, et al. Analgesic efficacy of the serratus anterior plane block in rib fractures pain: A randomized controlled trial. Am J Emerg Med. 2020;41:16-20.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33383266/

みなさんは前鋸筋面ブロックという手技をご存じでしょうか?胸部手術や胸腔鏡検査、肋骨骨折、肩部手術の際の疼痛緩和のために近年用いるようになってきた手技です。 肋骨骨折に対してはバストバンドを装着し、鎮痛薬の投与を行うことで疼痛を緩和することが一般的な手法かと思われます。今回筆者らは肋骨骨折の患者に前鋸筋面ブロックを行うことで、それら鎮痛薬の内服量を減らし、疼痛レベルを軽減できるのではないかという事を前向きに研究し検討しました。

NRS 4点以上の疼痛を伴う肋骨骨折の患者のうち、30人ずつ前鋸筋面ブロック施行群とコントロール群に分け、それぞれのPCA(トラマドール)の合計使用量、追加での鎮痛剤の使用、経時的なNRSの推移、経皮酸素飽和度、3か月後の慢性疼痛などに関して記録を行い解析しました。
前鋸筋面ブロック施行群ではPCAの使用量は98.33 ± 74.13mg、とコントロール群(148.30 ± 87.68mg)に比べて有意に少ない結果となりました (p = 0.02)。どちらの群も追加の鎮痛薬の使用を必要とはしましたが、骨折後30分、1,2,4,6,12,24時間後のNRSは、いずれにおいてもブロック施行群で低い結果となりました。その他、1時間後と24時間後の酸素飽和度はブロック施行群で高く、慢性的な疼痛もブロック群で少ない結果となりました。

比較対象が少なく、骨折の部位や本数に関しての解析がないためどのような症例でも使えるものではないかもしれませんが、一定の効果は期待できそうです。本邦でよく使用されるNSAIDsやアセトアミノフェンの使用量ではなくPCAの使用量を検討している点、論文内では30mlのブピバカインを使用しているが体格の小さな日本人では極量となりうるので局所麻酔中毒に注意する必要がある点、等々解釈には注意が必要そうです。

実際にYouTubeなどで手技を説明している動画もいくつか散見されますが(例:https://youtu.be/15n-ccfziPM ) 比較的容易に、かつ、合併症を起こすリスクも低く行うことが可能なようです。従来の対応のみではコントロールに難渋するような場合のオプションとして知っておいて損はないかもしれません!

②ジゴキシンは時代遅れ?
Kotecha D, et al. Effect of Digoxin vs Bisoprolol for Heart Rate Control in Atrial Fibrillation on Patient-Reported Quality of Life: The RATE-AF Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020;324:2497-2508.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33351042/

心房細動患者にジゴキシンって「時代遅れ」だと思っていませんか?
確かに、過去の大規模観察研究では心房細動に対するジゴキシン投与は死亡率上昇と関連があると発表されました(PMID: 25125296)。
逆にβブロッカーはHFrEF患者に対して、死亡率や心不全入院率を低下させると報告されており、ガイドラインでもその使用が推奨されています(PMID: 10023943)。
しかし、心房細動を伴うHFrEF患者では、βブロッカーはその有効性を示せておらず(PMID:25193873)、βブロッカーとジゴキシンのどちらが良いのかは決着がついていません。
今回はそんな慢性心不全を有する心房細動患者に対して「ジゴキシン、意外と使えるかも?」という内容の論文になります。

イギリス・バーミンガム(なんとジギタリスの薬効が発見された場所!)での研究です。
前向き・オープンラベルでアウトカム評価をブラインドで行う、いわゆるPROBE法が用いられています。
60歳以上でNYHA2度以上のAf患者を対象にビソプロロール群とジゴキシン群に割り当てました。 主要評価項目は6ヶ月後の自己申告制のQOL評価(SF-36 PCS)でした。EQ-5Dなど他のQOL指標や副次的評価項目として検討されました。その他、心拍数(労作時を含む)やNYHAやEF、NT-ProBNPなどの身体的評価項目も検討されました。また6ヶ月後だけではなく、12ヶ月後のそれぞれのアウトカムも同様に評価しました。

結果として、160人が対象となりました。
主要評価項目(SF-36 PCS)に関して、ジゴキシン群はビソプロロール群と比較して有意な差が見られませんでした。副次的評価項目に関してもジゴキシン群の方が優れているか、両群で有意差が見られないか という結果でした。
今回の結果から筆者は「少なくともQOL以外の指標で両群の差を評価するべきだ」と主張しています。

死亡率や長期予後は評価されていないことや、HFpEFとHFrEFが区別されていないことには注意が必要ですが、もしかすると「ジゴキシンもまだまだ捨てたものじゃない」となるかもしれませんね!

今回の文献紹介は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。