2021.01.01

2021/01/15文献紹介

少し遅くなりましたが、今年も文献班をよろしくお願い申し上げます。 2021年最初の文献紹介は、静岡県の中東遠総合医療センターの大林が担当します。
COVID-19の収束が見えないまま2021年に突入してしまいましたが、
最前線で戦う仲間を信じて、知恵と熱意でERに訪れる方たちを幸せにしたいと思います。

今月はERでよくある片頭痛発作に対する治療法に関する論文を2本紹介します!

①Manar K et al. MAGraine: Magnesium compared to conventional therapy for treatment of migraines .
Am J Emerg Med. 2021 Jan;39:28-33. doi: 10.1016/j.ajem.2020.09.033.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33041146/

「片頭痛発作に対して、マグネシウムが安全な代替薬として使える」

 

みなさんは救急外来に片頭痛発作を主訴に来られる患者にどんな治療をされていますか?NSAIDsやトリプタン系、ドーパミン遮断薬などが候補に挙がるかと思います。

   

これまでに片頭痛発作に対して、マグネシウムの内服や経静脈的投与が症状の軽減、予防等に効果がみられることは知られていました。今回筆者らは救急外来において、経静脈的なマグネシウム投与が、ドーパミン遮断薬と比較して片頭痛発作の症状がどの程度軽減するのかを前向きに調べました。

   

片頭痛もしくは頭痛を主訴に救急外来を受診した患者を、救急医が精査して片頭痛発作と診断し、最終的に157人をマグネシウム群、プロクロルペラジン(ノバミン®)群、メトクロプラミド(プリンペラン®)群に無作為割付して、NRSの変化を解析しました。それぞれの疼痛スコア中央値は、ベースライン→30分後→120分後で8,9,8→5,5,5→4,4,3と変化しました。

   

非劣性分析の結果、マグネシウムは他の2剤に対して非劣性であることが示されました。ただ、COVID-19の流行により十分な患者数が集まらずに試験を早期終了しており、どれが優れているかを結論づけることはできませんでした。また発症から治験薬投与までの時間、救急外来受診前の薬物使用、追加薬剤の使用プロトコルなどは一様ではなかったといった制限がありました。

 

とはいえ、大きな副作用がなく使用できるマグネシウムを片頭痛発作の治療薬のカードのひとつとして持っていてもよいのではないでしょうか。一般的な鎮痛剤やトリプタン系を使用しても症状が改善せずERを受診される患者に試してみるといいかもしれません。

②Nihat M H et al. Treatment of migraine attacks by transcutaneous electrical nerve stimulation in emergency department: A randomize controlled trial.
Am J Emerg Med. 2021 Jan;39:80-85.doi: 10.1016/j.aejm.2020.01.024 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31983598/

「片頭痛発作に電気刺激!?」

 

先程は薬物治療でしたが、次は電気治療です。経皮的電気神経刺激(TENS)は比較的安全で非侵襲的な痛みに対する物理療法として知られており、片頭痛に対する使用が欧米では広まっているようです。

   

筆者らは片頭痛発作で救急外来を受診した患者に対して、経皮的眼窩上神経電気刺激が症状の改善に有効かを調べました。研究にはHeadaTerm社の「TENS device-HeadaTerm」が用いられ、対照群には見た目は変わらず実際には電気の流れない疑似装置が用いられました。刺激群と対照群にそれぞれ39名が割り付けられて20分間の電気刺激を行ったあとの痛みの評価を行いました。

   

VAS疼痛スコアの平均を比較したところ、ベースラインはどちらの群も73±3でした。対照群の20分後、120分後はそれぞれ72±2、63±2だったのに対し刺激群は22±2、7±2と有意に症状の改善が得られました。

   

速やかに効果が現れて、一般的な薬物療法よりも効果が出る割合が高いとなると使ってみたくなりますが、最初はなんだか胡散臭いとか思われそうですね…。