2020/12/15文献紹介
12月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の鈴木です。
沖縄と福岡の南国コンビがお送りします。
前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。
今回はメーリングリストで盛り上がったDKAについて、2つ論文を紹介します。
①SGLT-2阻害薬は、他のDM治療薬よりも3倍DKAになりやすい。
Antonios Douros et al. Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and the Risk for Diabetic Ketoacidosis : A Multicenter Cohort Study. Ann Intern Med. 2020 Sep 15;173(6):417-425.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32716707/
DKA治療ガイドラインはほとんどが古く、SGLT−2阻害薬によるDKAについて触れられていません。
少しずつ、勉強しましょう。
カナダとイギリスの40万人以上の電子カルテデータを用いた、遡及的コホートです。
2型糖尿病患者に対して、
SGLT-2阻害薬 vs. DPP-4阻害薬
で比較しました。
平均1年間の追跡期間中にSGLT-2阻害薬で521例のDKAが発症しました。
それをスコアマッチさせると
SGLT-2阻害薬はDDP-4阻害薬よりも約3倍DKAのリスクがありました。
(1000人年当たりの発症率2.03 vs. 0.75)(ハザード比2.85)
今回のスタディから、まずSGLT-2阻害薬はDKAリスクが低くないと覚えておくべきです。
そして、SGLT-2阻害薬は血糖値正常DKAの高リスクです。
メーリングリストで話題でしたね。
先月のBMJに、SGLT-2阻害薬のDKAレビューが掲載されています。
https://www.bmj.com/content/371/bmj.m4147
もし疑わしい症状があれば、たとえ血糖値が正常であったとしてもDKAを疑わなければいけないと…。
メモメモ。
_φ(・_・
②DKAに生理食塩水 vs. 調整晶質液だと調整晶質液の方が速く治癒できた。
Wesley H Self et al. Clinical Effects of Balanced Crystalloids vs Saline in Adults With Diabetic Ketoacidosis: A Subgroup Analysis of Cluster Randomized Clinical Trials. JAMA Netw Open. 2020 Nov 2;3(11):e2024596.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33196806/
DKAでは初期治療で急速輸液が必要です。
生理食塩水では大量輸液により、アシドーシスが増悪する懸念があります。
しかし、輸液の選択について、これまでほとんどエビデンスはありませんでした。
そのため、現在のガイドラインでは生理食塩水を推奨しているものがほとんどです。
今回は、単施設で行われたRCTスタディのサブグループ解析です。
以下、結果です。
救急外来を受診した172人。
生理食塩水78人、調整晶質液94人。
(調整晶質液;乳酸リンゲル液もしくはPlasma Lyte A)
DKA治療にかかる時間は調整晶質液が速く、
(16.9 vs. 13.0時間)
また、
インスリン終了までの時間も調整晶質液が速かった、という結果でした。
(13.4 vs. 9.8時間)
このスタディの惜しいところは、
・サブグループ解析スタディ
・単施設
・ブラインド化されていない
という点です。
…多いな、惜しいところ。
(^_^;)
むしろ、DKAの輸液選択について、まだこれだけしか分かっていないとは。
驚きです。
続けて福岡徳洲会病院の鈴木です。
③ Eunicia Tan , et al. Comparison of Acetaminophen (Paracetamol) With Ibuprofen for Treatment of Fever or Pain in Children Younger Than 2 Years: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open. 2020 Oct 1;3(10):e2022398.
小児の解熱鎮痛剤と言えばアセトアミノフェンだと思います。日本ではNSAIDsを使用することは避けられることが多いですが、諸外国では割と一般的にイブプロフェンを使っている様です。
今回のSystematic Reviewは、2歳未満の小児を含む19の研究(24万人以上)を対象として、アセトアミノフェンとイブプロフェンの解熱作用と鎮痛作用を比較しています。投与後24時間以内の解熱作用も鎮痛効果も、イブプロフェンの方が有意に解熱効果が強いという結果でした。
(ただし鎮痛後4時間以内についてはデータなし)
気になる有害事象については、腎障害・消化管出血・喘息・肝障害などの全てにおいて有意差はありませんでした。
注意しなくてはいけない点は、Includeされた文献のうち有害事象について調べたものは7文献(2万8千人程度)に留まった点が挙げられます。今後、脳症の発症リスクも含めた安全性に関する大規模な研究が行われることに期待したいですね。
将来的にはイブプロフェンの使用が日本でも普及する日が来るのでしょうか。
④ Elizabeth M Goldberg , et al. Can an Emergency Department-Initiated Intervention Prevent Subsequent Falls and Health Care Use in Older Adults? A Randomized Controlled Trial. Ann Emerg Med. 2020 Dec;76(6):739-750.
高齢者が転倒して動けなくなり、救急要請するパターンはとても多いと思いませんか?その背景には独居老人や老々介護の問題があると思います。
入院患者においては、転倒・転落のリスクに関して様々な介入が行われていると思います。ベンゾジアゼピン系薬剤を減らしたり、理学療法なども行われていることと思います。しかし救急外来では外傷の評価をして終了になっていないでしょうか?
筆者らは転倒を理由に救急受診した高齢者を対象に、薬剤師と理学療法士の短時間(約20分間)の介入を行って、受診して1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後のフォローを行いました。介入群55名、コントロール群55名としています。
その結果、半年以内の救急外来の再受診は約半数に(aOR0.47 [95% CI 0.29 to 0.74])、転倒に関する再受診は3分の1に(aOR0.34 [95% CI 0.15 to 0.76])減りました。
救急が治療だけではなく予防医療に関わるという視点は、今後ますます重要になっていくと思われます。
⑤ Murat Daş, et al. Prognostic performance of peripheral perfusion index and shock index combined with ESI to predict hospital outcome. American Journal of Emergency Medicine, 2020-10-01, Volume 38, Issue 10, Pages 2055-2059.
Perfusion Index
パルスオキシメーターや心電図モニターに、PIとかPPIと表示されているのを見たことがありませんか?これはPeripheral Perfusion Index(末梢灌流指標)と言って、脈波形の拍動成分と非拍動成分の割合を示したものです。非侵襲的に末梢循環を計測する指標として使われます。この研究は、これまでは手術室や集中治療室で主に使用されてきたPPIを、救急部門でも使えるかどうかを調べたStudyです。
367人の救急患者が対象となりました。入院した患者のPPIの中央値は1.2 (0.42–2.45)、帰宅した患者のPPIの中央値は3.7 (1.7–5.6)でした。
米国で普及しているトリアージツールであるESI(Emergency Severity Index)について、PPIとESIとの間には有意な正の相関関係が見られました。
PPIとショックインデックス、年齢・性別やバイタルサインなどの項目について単変量/多変量ロジスティック解析が行われ、PPIは最後の解析因子に残りました。PPIが1減少すれば入院のオッズ比が29%増加、ESI<3のオッズ比が26%増加するという結果でした。
う~む、、、思ったよりもPPIは使えそうです。