2020/10/15文献紹介
EMA文献班の関根&大林です。
今回の文献紹介は、
① エコーを用いて最適な胸骨圧迫位置を探る
② 腹臥位での心肺蘇生
③ ICU患者の配偶者は心血管疾患のリスクが少し上がる
をお送りします。
① Mrko Z et al. Ultrasound-Guided Chest Compressions in Out-of-Hospital Cardiac Arrests.
J Emerg Med. 2020 Sep 07. [Epub ahead of print]
PMID: 32912645
「エコーで胸骨圧迫をパーソナライズする」
CPRの質が院外心停止(OHCA)患者の生存と転帰に最も影響することに疑いの余地はありません。CPRの質をリアルタイムでフィードバックするAEDもありますが、評価しているのは胸骨圧迫の速さや深さで、実際に血行力学的に最適化されているかはわかっておらず、従来のCPRにに対する優位性も示されてはいません。
現在のガイドラインでは、胸骨圧迫は乳頭間線を目安に傷病者の胸骨の下半分を圧迫することを推奨しています。しかし、CPR中の胸部CTスキャンや経食道心エコーに基づく研究では、左心室のごく一部しか圧迫されておらず、血行力学的効果が最適でないことが示されています。
そこで筆者らは病院前救急でOHCAにおける胸骨圧迫を超音波で評価して、胸骨圧迫の手の位置を変えることがCPRの質の改善につながるかを前向き研究しました。非外傷性かつ目撃のあるOHCAに対するCPRが行われた成人傷病者が対象としました。
超音波による評価は胸骨圧迫中や5回のCPRサイクル後に心窩部ビューもしくは心尖部ビューを用いて救急医が行い、心臓の形態に関する情報や左心室圧迫の質を評価し、質に応じてより強く押す、手の位置を変えるといった指示を出しました。圧迫の質は半定量的に行われ、良好(左心室の圧迫>50%)、部分的(<50%)、不十分(全く圧迫がないもしくは左心房または還流路の圧迫)と分類されました。胸骨圧迫の質と血行力学的効果を評価するための基準パラメータとして、心拍出量、冠血流量、脳血流量との強い相関が示されているEtCO2を使用しました。
主要評価項目は、胸骨圧迫中に超音波で心臓が評価できるか、胸部圧迫の質、超音波による圧迫部位の変更で胸骨圧迫の質が向上するかで、最終的に至適な圧迫部位を示すことを目的としました。超音波検査所見を検証するために、心停止後の入院中に胸部CTを撮影した20名の患者とOHCAで得られた結果を比較しました。
結果です。36名のOHCA患者で検証しました。
最初の胸骨圧迫の質は良好、部分的、不良がそれぞれ58.4%、48.9%、2.8%で、手の位置を修正することでそれぞれ75%、25%、0%となりました。
提案された修正は、なし(47.2%)、胸骨圧迫の深さを増す(8.3%)、手を胸骨の下1/3以下に移動させる(27.8%)、手を胸骨の下1/3以下かつ傍胸骨線上に移動させる(13.9%)でした。1症例だけ頭側に移動させるという修正がありました。
そしてEtCO2の修正前後の評価が36人中20人可能であり、修正前後では19.88 ± 7.84 mm Hg vs. 37.10 ± 11.75 mm Hg(p < 0.0001)と有意に改善していました。また左室の圧迫が良好な群と部分的な群を比べると、EtCO2は39.87mmHg vs 24.25mmHg(p=0,007)と差が見られました。
心停止後に入院した患者の胸部CTで、左室、右室、両心室の断面積がより大きくなる部位(高さ)を測定したところ、乳頭間線や胸骨中心ではなくで、胸骨下部1/3の高さで左傍胸骨線下に位置していました。しかし、この部位は肋骨骨折や肺挫傷の危険性が高いため、圧迫するなら胸骨遠位1/3の部分がよいと考えられます。
副次的評価項目として、ROSC率や神経学的転帰も評価されましたが、こちらも従来報告されているよりも良い結果でした。
症例数は少ないですが、蘇生中にエコーを用いてより適切な位置に胸骨圧迫の位置を修正することは、CPRの質の向上につながりそうです。
修正が必要でなかった症例が約半数いたので、乳頭間線上の胸骨下半分を圧迫することも有効であることが改めて示されました。
心停止の原因を探るエコーを行いながら、胸骨圧迫の妨げにもならない心窩部からのアプローチで胸骨圧迫の最適化を試してはいかがでしょうか?
② Matthew J D et al. Prone cardiopulmonary resuscitation/ A scoping and expanded grey literature review for the COVID-19 pandemic.
Resuscitation. 2020 Oct;155:103-111
PMID: 32707142
「腹臥位での蘇生に関するスコーピングレビュー」
今現在のCOVID-19流行に伴い、重症呼吸不全の患者に対して腹臥位療法を行っている施設は多いかと思います。腹臥位療法中の患者が突然心肺停止となったらどのように対応しますか?人を集めてフルPPEを装着し腹臥位から仰臥位に戻してCPRを行いますか?おそらくそこにはCPR開始の遅延や体位変換に伴うトラブル(事故抜管やラインの抜去)、そしてスタッフの汚染といった潜在的リスクが存在しています。
現在のAHAのガイドラインでも腹臥位でのCPRは認められていますが、今のところ腹臥位でのCPRに関する知識は限られています。
そこで筆者らは緊急時に腹臥位で心肺蘇生を開始すべきか、あるいは仰臥位にするリスクや遅延が避けられないかどうかを確かめるため、腹臥位での蘇生法に関連した研究をレビューしました。まだこのテーマに関しては、包括的なレビューがされておらず現在利用可能なエビデンスや知識不足の領域を見定める目的で、スコーピングレビューという手法がとられました。検索の範囲には発表済みおよび未発表の一次研究、レビューの他に政策、手順、ソーシャルメディアなどの灰色文献も含まれました。動物モデルの研究は除外されましたが、マネキンや死体を対象とした研究は含まれました。
同定された453件の研究のうち、最終的に24件(5%)の研究が筆者らの定めた基準を満たし情報の要約が行われました。
これまでに発表された腹臥位での蘇生に関する文献の多くは、脳神経外科手術中の心停止に関連したもので転帰が良好であるということがわかりました。しかし、実際に私達が知りたい状況での蘇生に関連したエビデンスは乏しいということもわかりました。やるべきか、そうでないかに関しては手術室からの経験から推定する他ないようです。
蘇生手技に関する研究もいくつかあり、胸椎中部の圧迫する方法、胸椎中部を圧迫するだけでなく胸部の下に手を入れ込んでカウンタープレッシャーを利用して圧迫する方法などが発表されています。どこを圧迫するべきなのかということに関しては、胸部CTを検討した研究で上記の論文でも少し触れた左心室の断面積が最大になる位置が正中で肩甲骨下角の下であったと述べられています。
まだまだ十分なエビデンスがあるとは言えない状況ですが、各施設でのプラクティス策定に役立てば幸いです。
③ Ohbe H, Goto T, Miyamoto Y, Yasunaga H. Risk of Cardiovascular Events After Spouse's ICU Admission.
Circulation. 2020 Oct 5.
PMID: 33012171
「愛する人がICU入院すると心血管イベントが起こりやすくなる?!」
ICU患者の配偶者は 心血管疾患のリスクが上がる可能性があるため 健康に注意する必要がある
東京大学SPH 大邉寛幸先生の研究です。(共著者にはEMA文献班の後藤先生や宮本先生も!)
Japan Medical Data Center (JMDC) databaseのレセプトデータ約600万人(2005/1-2018/8)が使用されています。
約210万人(約100万組の夫婦)のうち、ICUに2日以上入院した患者約7800人の配偶者と、ランダムに抽出された約31,000人を比較しています。
Exposure群とされたICU入院患者の配偶者は、平均 54歳で、男性 35%でした。2群は性別、年齢、医療保険について調整された上で比較されています。
結果、Exposure群で、急性冠症候群、脳卒中、不整脈、心不全、肺塞栓症などの心血管イベントが 1ヶ月以内に発生する割合が高くなっていました(2.7% vs 2.1%, OR 1.27 [95%CI, 1.08-1.50])。
配偶者の入院5-6ヶ月前や、入院1-2ヶ月後、2-3ヶ月後、3-4ヶ月後では有意な差がなかったようです。
また、心血管疾患での入院(OR 2.29 [1.30-4.05])や、重症心血管疾患で入院(OR 2.72 [1.28-5.78])の割合も高くなっていました。
配偶者と死別した人では、死後数週間から数ヶ月の間で心血管疾患のリスクが上がることがすでに示されているようですが、ICU患者の配偶者における心血管疾患リスクはいままで研究されたことがないようです。
配偶者がICU入院した場合も、治療方針の決定や治療撤退の決断など過度のストレスがかかるでしょうから、今回の結果も頷ける内容です。
ICU患者の家族ケアはメンタルヘルスに重きをおいて語られることが多いですが、今回示されたように身体的な問題も生じるため注意が必要ですね!