2020.10.01

2020/10/01文献紹介

沖縄県立中部病院救急科の山本です。
9月後半の文献紹介は私と、東京ベイ・浦安市川医療センター 集中治療科の竪からお送りします。
今回も担当者の独断と偏見で、4つの文献を選択しました。お楽しみください!!

① そのチェックリスト意味ないかも!? 挿管チェックリストの有効性
② まだ動脈血ガスとってるの!? 低酸素ない時のABG vs VBG RCT!!
③ OHCA 搬送優先、それとも現場で蘇生優先!?
④ OHCA 救急隊いつ搬送する!?

東京ベイ・浦安市川医療センター 集中治療科の竪です。私からは2つの文献を紹介します。

① Association of Checklist Use in Endotracheal Intubation With Clinically Important Outcomes A Systematic Review and Meta-analysis.
 JAMA Network Open. 2020 Jul; 3(7): e209278.   
 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7333022/

「気管挿管時のチェックリストの有無は、挿管中や挿管後の臨床的に重要なアウトカムの改善と関係しなかった」というシステマティックレビュー・メタ解析です。

気管挿管は、救急外来、手術室、集中治療室で頻繁に施行されますが、呼吸関連合併症や循環不全、心停止などの頻度が多いハイリスクな手技です。その合併症をなるべく減らそうと挿管前のチェックリストが作成され、国内でも各施設で使用されている事でしょう。しかしチェックリストの導入には様々な障壁があり、相当の時間や資源を要します。そして意外な事に、一般的にチェックリストはアウトカムの改善と関連していません。

1個のRCTと10個の観察研究を含む計11個の研究が組み入れられました。セッティングは7個が救急外来、3個が集中治療室、1個が手術室と集中治療室です。

Primary outcomeである死亡率は有意差がなく、食道挿管、低血圧などの合併症の中では低酸素血症のみがチェックリストにより減少しました(RR 0.75(0.59-0.95))。しかしバイアスリスクの低い研究に絞ると、低酸素血症でも有意差は出ませんでした。サブグループ解析では、救急外来や小児では合併症の減少に関連がありそうでした。

気管挿管に慣れているため、チェックリストがなくても問題なく施行出来たというのが現実なのではないかという印象です。緊急度がより高いセッティングや慣れていない施設・医療者の場合は、やはりチェックリストが必要なのではないかと思います。また挿管成功までの時間に関しては、今回の研究では分析できておらず、今後の研究を待ちたいと思います。

② Reducing pain by using venous blood gas instead of arterial blood gas (VEINART): a multicenter randomised controlled trial.
 Emerg Med J. 2020; 0: 1-6.   
 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32759347/

「低酸素血症がない患者では静脈血液ガスが動脈血液ガスに取って代わる」というRCTです。

6月後半の文献紹介でも取り上げたように(https://www.emalliance.org/education/dissertation/6 ) 動脈血液ガスは疼痛が強い手技であり、その疼痛を減らす方法が研究されてきました。これまで静脈血液ガスとの疼痛比較が行われてきましたが、RCTは今までありませんでした。

そして今回フランスのパリにある4つの大学関連病院において、動脈血液ガスと静脈血液ガスで、疼痛、採血の困難さ、結果の有用性などを比較したRCTが実施されました。救急外来を受診した、SpO2 >95%(room air)の成人患者が対象です。Primary outcomeは採血後3分以内に記録された最大の痛みで、visual analogue scale (VAS)で評価されました。

採血は看護師が行い、動脈血液ガスの場合には22G、静脈血液ガスの場合には20~25Gの針が使用されました。ちなみに約4分の1の症例で採血前に鎮痛薬の投与がなされました。共に大きなlimitationになりますが、針のサイズの違いに関しては、実臨床に即して考えると致し方ない事かと思います。また採血を行った看護師の経験年数は疼痛の程度に大きく影響すると思われますが、特に記載はありませんでした。

VASは静脈血液ガスで22.6mm±20.2mm、動脈血液ガスで40.5mm±24.9mmと静脈血液ガスで有意に疼痛が少ないという結果でした(P<0.0001)。

また血液ガスをオーダーした担当医は、結果について同等の満足度を得ました。また採血トライ数や採血失敗数なども有意差はありませんでした。

動脈血液ガス採取の際の疼痛を、短い時間かつ低コストで有効に削減する方法が確立していない現状では、低酸素血症がない場合に、疼痛が少ない静脈血液ガスを1st choiceにするべきではないでしょうか?本研究前にこの4病院では、血液ガス分析の際にはルーチンで動脈血液ガス採取がなされていたようで、驚きですね。

さて話題を変えて、病院外心停止の搬送に関する文献です。
ここから2本は山本がお送りします。

③ Association of Intra-arrest Transport vs Continued On-Scene Resuscitation With Survival to Hospital Discharge Among Patients With Out-of-Hospital Cardiac Arrest.
 JAMA. 2020;324(11):1058-1067.
 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32930759/

「病院外心停止では搬送を優先するよりも、現場で蘇生した方が予後が良かった!!」

心肺蘇生の主要ガイドラインは、二次救命処置は現場で20分を目安にしています。
しかし病院外心停止(OHCA)を急いで病院に搬送するのか、現場で蘇生しROSCしてから搬送するのか、どちらが良いのかわかっていません。
国によっても違いがあり、米国は『スクープ&ラン』、すなわち患者を迅速に病院に搬送するのが主流なのに対し、フランスやドイツは現場で蘇生継続が主流です。

今回紹介する文献では、なるべく迅速に搬送するか、もしくは現場で蘇生を継続するか、という点に関して、生存退院率をアウトカムに比較した研究です。
北米の10の研究拠点と192の救急医療サービス(EMS)が参加したOHCAのレジストリを用いて行われています。

2011年から2015年の間にレジストリに登録された18歳以上の成人OHCA患者 43969人について、intra-arrest transport: すなわち現場でROSCする前に搬送する搬送優先群と、on-scene resuscitation: すなわち現場でROSCまたは蘇生中止の判断をするまで、蘇生を継続する蘇生優先群に分けられました。一次エンドポイントは生存退院、二次エンドポイントは良好な神経学的転帰(modified Rankin scale < 3)です。

搬送優先群はあくまでROSCや蘇生中止の判断を待たずに搬送した群であり(必ずしも到着後すぐに搬送しているとは限らない)、この中に蘇生を開始したものの、蘇生困難と判断されて搬送された患者も含まれている可能性があり、悪い転帰の予測因子となるため(蘇生時間バイアス)、時間依存性傾向スコア分析を行っています。

レジストリから43969人が対象となり、搬送優先群は11625人(26%)、蘇生優先群は32344人(74%)でした。

時間依存性傾向スコア分析の結果、27705人の患者が対象となり、
 生存退院率: 搬送優先群4.0% vs 蘇生優先群8.5%、
 良好な神経学的転帰: 搬送優先群2.9% vs 蘇生優先群7.1%
でした。

つまり、いずれも現場で蘇生を優先した方が、搬送を優先するよりも良好な結果でした。

著者は11個のlimitationを指摘していますが、EMSの二次救命処置の比率が高いこと、EMSごとの異質性が高いこと、機械式CPRが主流となる以前のデータであること、日本のEMSと状況が異なること、などは考慮しないといけません。

それでも、現状のスクープ&ランのモデルでは、もしかしたら搬送中のCPRの質が損なわれている可能性があり、それが患者の予後に影響を与えている可能性があります。

④ Time to Return of Spontaneous Circulation and Survival: When to Transport in out-of-Hospital Cardiac Arrest?
 Prehosp Emerg Care. 2020;1-11.
 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32286908/

「OHCA患者の現場蘇生と搬送の最適なタイミングは8-15分の間かもしれない!?」

2つ目の文献は、③の文献と同様にOHCAをどのタイミングで搬送するべきなのか、というオランダからの研究です。

先に述べたようにガイドラインでは現場での蘇生20分という基準を示していますが、蘇生開始何分後に搬送を開始するべきかは明示されていません。

ROSCせず搬送した場合、CPRの質が下がるというリスクがある一方、ECPRのように病院前では行えない治療があることから、患者に利益をもたらす可能性があります。
2016年にGrundyらはリスクとベネフィットを考慮して、ECPRの適応となりうる患者の『現場で蘇生継続』vs『搬送』を決断する最適な時間は16分と報告しています(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27018764/ )。

この研究ではオランダのOHCAのレジストリを用いて、病院到着前にROSCした院外心停止患者のデータを用い、救急隊到着後からROSCするまでの時間(time-to-ROSC)と、30日生存率(一次アウトカム)、神経学的予後(二次アウトカム)の関係を調べています。

病院到着前にROSCした810人中、30日時点で生存していたのは332人(41%)、そのうち神経学的予後良好は272人(88%)でした。

30日以上生存者の90%は15分以内にROSCし、Time-to-ROSCは生存者で短く中央値5分(IQR 2, 10)、一方で非生存者では12分(IQR 9, 17)でした。
15分以内にROSCした患者は、30日生存率が30日死亡率よりも高く、time-to-ROSC 15分で確率が逆転します。

ROC曲線ではAUC 0.77であり、ROSCを達成できるかどうかに関してtime-to-ROSC 8分の時点が最も優れた予測能を示しました(感度 66%、特異度77%)。

サブグループ解析として、年齢18-75歳、ショック適応の初期波形、目撃ありの3つを満たす患者をECPRの適応となりうる群として選択すると、このグループのROC曲線はAUC 0.80であり、同様にtime-to-ROSC 9分の時点が最も優れた予測能を示しました(感度 73%、特異度 79%)。

本研究の結果、『現場で蘇生継続』vs『搬送』を決断する最適な時間は8分、ECPRの適応となりうる患者群の場合9分であると筆者は結論づけています。これは過去の研究と比較し、かなり短い時間です。