2020.09.01

2020/08/31文献紹介

猛暑が続きPPEを着ている我々の方が熱中症になりそうな今日この頃、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
EMA文献班の国際医療福祉大学成田病院の井桁/聖マリアンナ医科大学の川口より文献紹介をさせていただきます。

今回は
①VF/pVTに対するβ遮断薬
②気胸の外来治療
③高齢者に対するrt-PA療法の効果
④Capillary Refilling Timeの評価
の4本立てです。

①Gottlieb M, Dyer S, Peksa GD. Beta-blockade for the treatment of cardiac arrest due to ventricular fibrillation or pulseless ventricular tachycardia: A systematic review and meta-analysis.
Resuscitation. 2020;146:118-125.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31790759/

難治性VF/pVTにβ遮断薬が有用な可能性がある。

ACLSにおいてエピネフリンは標準的に用いられる薬剤ではありますが、過剰なβ刺激作用で催不整脈作用、組織の酸素需給バランスの悪化、脳含む各種臓器の循環障害を起こすことが問題とされています。
そこで今回は難治性VF/pVT患者の蘇生において、β遮断薬の有用性を検討した論文を集めたSystematic review/Meta analysisを紹介します。
3つの研究がincludeされました。1つはアメリカで心筋梗塞後のVF/pVTを対象とした前向き観察研究、2つはアメリカと韓国で行われたVF/pVTのOHCAを対象とした後ろ向き観察研究です。後者2つの後ろ向き研究は3回以上の除細動、3回以上のエピネフリン、アミオダロン300mg、CPRを10分以上行っている患者が対象となっています。

結果は30秒から20分以内と定義された一時的なROSC率は上昇(OR 14.46; 95%CI 3.63-57.57)し、20分以上の持続的なROSC率も上昇(OR 5.76; 95%CI 1.79-18.52)しました。入院までの生存率(OR 5.76; 95% CI 1.79 -18.52)、退院までの生存率(OR 7.92; 95% CI 1.85-33.89)、CPC1-2の良好な神経予後(OR 4.42; 95% CI 1.05-18.56)に関してもどれもβ遮断薬使用群で改善していました。
蘇生後の管理(TTMなど)が統一化されていない可能性があることが、大きいLimitationと考えられます。
日本ではβ遮断薬の静注というと主にランジオロール(オノアクト)が用いられます。エスモロール(ブレビブロック)は手術中の不整脈に対する適応のみであり、救急の場では使用経験が少ない方が多いのではないでしょうか。

結果だけ見るとβ遮断薬スゴイ!!と思ってしまいますが、それぞれの研究は質も高くなく、バイアスの大きい報告ではありますので、今後の研究を待ちたいと思います。
同様の結果が出ればACLSで使用する薬剤が変わってくるかもしれませんね。

②Hallifax RJ, McKeown E, Sivakumar P, et al. Ambulatory management of primary spontaneous pneumothorax: an open-label, randomised controlled trial.
RAMPP trial(The Ramdomised Ambulatory Management of Primary Pneumothorax) Lancet. 2020;396(10243):39-49.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32622394/

携帯型のドレナージキットを使用した気胸の外来治療は入院期間を減らせるが、有害事象が増えるため注意を要する。

自然気胸に対して、携帯型ドレナージキットを用いて外来通院で治療ができるか検討したイギリスの多施設RCTを紹介します。
皆さんは携帯型のドレナージキットを使用したことがありますか?Heimlich弁(一方向弁)を搭載した小型のキットで挿入後前胸部に装着して外来での加療が可能になるデバイスであり、日本ではソラシックベントなどが使用されることがあるようです。

今回の研究ではRocket Pleural Ventが使用されています。(https://sales.rocketmedical.com/rocket-thoracic-vent )

では論文の概要をお示しします。
P:症状のある自然気胸患者もしくは、肺門レベルで胸膜から2cm以上の虚脱がある気胸
I:外来治療(Rocket Pleural Vent挿入群)
C:標準治療(穿刺吸引→改善なければドレーン挿入し入院、担当医の判断で最初からドレーン挿入でも可)
O:Primary outcomeは無作為化30日後までの再入院含めた入院日数、Secondary outcomeは追加処置の必要性、有害事象、疼痛・息切れ、再発率など

約3年半で236人が登録され、外来治療群は117人、標準治療群は119人となりました。 入院期間は外来治療群で有意に短くなりました。(0 vs 4 days; p<0.0001; median difference 2 days[95%CI 1-3])
再入院率はどちらも差はなく、治療終了までの期間(デバイスが抜去されるまで)は外来治療群で1日長くなりました。
有害事象の発生率は外来治療群で高く(55% vs 39%, p=0.0135)、うち重篤な合併症は8人に発生し、その内容は気胸の増悪、無症状の肺水腫、デバイスの不具合・事故抜去、リークなどでした。有害事象のうち、一般的な合併症である刺入部の疼痛、出血、皮下気腫の発生率などには差がありませんでした(44% vs 34%)。
再発率は外来群で少ない結果(8 vs 19, p=0.02)でしたが、標準治療群も初期治療にばらつきがあり(吸引のみで終えた患者が10人再発)、それらの影響があったと考えられています。1年間のフォローでの再発率には差はありませんでした(24% vs 28%)
Limitationとしては時間外に来院した患者は含まれていないためERには適応できない可能性があります。またオープンラベルであること、標準治療群の治療内容が偏りがあることなどが挙げられます。

今回の研究でも平均30代の患者が多く含まれており、できるだけ入院はしたくないなど都合のある患者さんにはリスクを承知の上で外来通院加療も一つの選択肢かと思いました。
ちなみにこの研究ではday4までは1-2日ごとに通院してもらい、その後間隔を空けてフォローしていったようです。
またデバイスの改良がされてくれば有害事象も減っていくのではないかと考えられます。
今後は安定した気胸患者は外来治療で、というのが選択肢になる可能性もあるかもしれませんね。

③Bluhmki E, Danays T, Biegert G, Hacke W, Lees KR. Alteplase for Acute Ischemic Stroke in Patients Aged >80 Years: Pooled Analyses of Individual Patient Data. Stroke. 2020;51(8):2322-2331.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32611284/

急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法の適応は、年齢だけではなく元々の健康状態と神経学的所見を加味して決定する

8月前半の紹介分に引き続きrt-PA関連の文献です。
本邦の脳卒中ガイドラインでは、81歳以上に対するrt-PAの投与は禁忌ではありませんが「慎重投与」の対象となります。欧州でも18〜80歳という年齢制限がありますが、一方で米国での基準には年齢制限はありません。(投与時間について欧州は発症後4.5時間以内に対して米国は発症3時間という違いがあります)
そういった地域差のある「81歳以上の高齢者」に対するrt-PAの効果について調べた研究を紹介します。ちなみに脳卒中の3分の1は80歳以上に発症するそうです。

オーストラリア、欧州、北中米の9つのRCTに組み込まれていた症例6756人が対象となりました。
年齢以外は欧州の基準に基づいて治療適応を判断し、その効果を80歳以下と81歳以上で比較しています。NIHSS25以上の重症は除外されており、アウトカムは90日後と180日後の神経学的予後(主にmRSを使用)です。

結果として、81歳以上において、アルテプラーゼ群はプラセボ群と比較し良好なmRSを示しました。一方、死亡率には両群で有意差はありませんでした。
mRS 0-1の割合 99/518 [19.1%] vs 67/510 [13.1%]; P = 0.0109
90日死亡率 153/518 [29.5%] vs 154/510 [30.2%]]; P = 0.8382

本研究ではアルテプラーゼの投与量が0.9mg/kgであり日本の0.6mg/kgよりも多くなっている点に注意が必要です。

「rt-PAを投与するかどうかは元々の健康状態と神経学的所見で決める」という臨床判断は従来から行われていると思いますが、そういったマネジメントを後押しする結果と言えると思います。

④Nickel AJ, Jiang S, Napolitano N, et al. Full Finger Reperfusion Time Measured by Pulse Oximeter Waveform Analysis in Children[published online ahead of print, 2020 Jul 21]. Crit Care Med. 2020;10.1097/CCM.0000000000004506.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32701550/

臨床医の目測によるCRTの評価は機械での計測よりも過小評価になるかもしれない

末梢循環不全の指標の1つとして有名なcapillary refilling time(CRT)ですが、その評価は臨床医の主観に委ねられ、「迅速」「普通(2〜3秒程度)」「延長」の三段階程度で判断されることが多いと思います。
本研究ではCRTの評価を標準化するため、SpO2モニタ波形を解析したfull finger reperfusion time(FFRT)と臨床医の目測で測定したCRTの時間の差や再現性を比較しています。

FFRTは、一般的なSpO2センサを装着した指を5秒間圧迫し、それに伴って消失したモニタ波形が圧迫を解除した後に再度出現するまでの時間を計測したものです。

フィラデルフィア小児病院のPICUや手術室の患児を対象に行われた単施設前向き観察研究で、最終的に99人の測定データが解析されました。

結果として、FFRTとCRTの比較ではFFRTの方が1.14秒程度長く算出されました。
また、FFRTの級内相関係数(ICC)は0.76(95% CI, 0.68-0.83)であり、一般的に良い相関の目安とされる0.7程度でした。FFRTとCRTの相関は中等度(複数回測定した平均値の相関係数 r=0.52)でした。指の厚みと圧迫の力、体温はFFRTと軽度の相関があり、皮膚色(Fitzpatrickスキンタイプ分類)は相関が見られませんでした。

本研究は純粋に測定時間を比較したものなので、患児の病状の評価との関連についてはさらなる研究が待たれます。しかし先行研究(Emerg Med J 2015; 32:444–448)には乳酸値2.0mmol/LがFFRT 6.8秒、4.0mmol/LがFFRT 7.3秒に相当するという報告もあり、目算(CRT)により末梢循環不全が過小評価される可能性があることは頭の片隅に入れておいてもいいかもしれません。

EMA文献班
国際医療福祉大学成田病院 救急科  井桁龍平
聖マリアンナ医科大学   救急医学 川口剛史