2020.06.15

2020/06/15文献紹介

6月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の鈴木です。

沖縄と福岡の南国コンビがお送りします。

前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

①Derek K Chu et al. Physical Distancing, Face Masks, and Eye Protection to Prevent Person-To-Person Transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: A Systematic Review and Meta-Analysis.Lancet 2020 Jun 1 Online ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32497510/

COVID-19関連です。
物理的距離、フェイスマスク、目の保護がどれも感染防止にかなり効果的だというレビューです。

SARS-CoV-2、SARS、MERSに関連した44の比較研究を分析しました。(RCTはありません)
患者総数は25,697人です。
以下、それぞれの結果です。

物理的距離

1m以上の距離は感染防止に効果があります。オッズ比0.18。
また、距離が長くなるほど効果的です。

フェイスマスク

こちらもかなり感染が減ります。オッズ比0.15。
N95マスクを用いればさらに感染を減らせます。

目の保護

目の保護も感染防止にかなり有効でした。オッズ比0.22。

すごい効果ですね。
どの方法でも感染を8割減らせるなんて。
正直なところ、マスクにここまで効果があるとは思いませんでした。ゴーグルもすごいですね。

一般の方にも3密を避けて、マスク着用!ゴーグル着用! なんてことになるかも。なぁんて。

岡正二郎

福岡徳洲会病院の鈴木です。
私からは3つの論文を紹介します。

・COVID-19の重症化予測スコア(COVID-GRAM)
・抗血小板薬を内服中の外傷性脳出血に血小板輸血は有効か?
・授乳期間中の救急医の搾乳について

①Wenhua Liang, Hengrui Liang, Limin Ou, et al. Development and Validation of a Clinical Risk Score to Predict the Occurrence of Critical Illness in Hospitalized Patients With COVID-19. JAMA Intern Med. 2020 May 12;e202033.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32396163/

すでに使用している方もいるかと思いますが、COVID-19の重篤化を予測するリスクスコア(COVID-GRAM)の紹介です。
2019年11月21日から2020年1月31日までの期間に、中国で1590人のCOVID-19患者がデータベースに登録されました。患者の属性・既往歴・症状・画像・採血データなどの72の変数から、LASSO回帰とロジスティック回帰モデルを用いて、10個の変数によるリスクスコアを作成しました。

胸部レントゲンの異常、年齢、喀血、呼吸困難、意識障害、併存疾患の数、癌の既往、好中球とリンパ球の比率、LDH 、D-Bilの10項目を計算式に入力すれば重篤化するリスクを計算することができます。

なお計算式が複雑なため、結果を入力すれば自動的にリスク分類してくれるWebページが公開されています。http://118.126.104.170/
このスコアを用いて、710人の患者で検証コホートがなされています。検証コホートのAUCは0.88 (95% CI, 0.84-0.93)と、なかなか高い精度を示しています。

注意しなくてはいけないのは、D-Bilの単位をmg/dLからμmol/Lに変換するときは17.1を掛け算しなくてはいけません。すでに「MDCalc」などのアプリには本スコアが登録されており、単位の変換もできます。私はWebページではなくてスマートフォンアプリを使用する方が入力を間違えづらいと感じています。

併存疾患の中にはB型肝炎の有無もあり、国の事情も影響しているかもしれません。

また高感度トロポニンIやDダイマーなどの既知の重症化リスク因子は弾かれており、今回のスコアには入っていません。
世界中に大量のデータが蓄積されており、今後さらに精度の高い予測スコアが作成されるのではないかと考えます。

②Jurgis Alvikas , Sara P Myers, Charles B Wessel, et al. A Systematic Review and Meta-Analysis of Traumatic Intracranial Hemorrhage in Patients Taking Prehospital Antiplatelet Therapy: Is There a Role for Platelet Transfusions? J Trauma Acute Care Surg. 2020 Jun;88(6):847-854.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32118818/

外傷性脳出血の患者が抗血小板薬を飲んでいると、いやな気分になりますよね。どうしても悪化させたくないという気持ちから、血小板輸血に踏み切った経験はないでしょうか?
抗血小板薬内服中の外傷性脳出血に血小板輸血が有効かを調べたSystematic Reviewです。
12のStudyがIncludeされ600~1000名に対して死亡リスクや出血の進行、脳外科的介入の必要性について調べています。

死亡リスク・出血の進行抑制効果・脳外科的介入の必要性のいずれにおいても、血小板輸血によって有意な差はありませんでした。
ただし血小板輸血のタイミングや、外傷性脳出血の種類・程度などによる分析は行う事ができていません。
その点を加味しても「頭部外傷でアスピリンやクロピドグレルを飲んでいるから血小板輸血」というストラテジーは、現時点ではかなり劣性にある様に感じました。

③Mary R C Haas, Adaira Landry, Nikita Joshi. Breast Practices: Strategies to Support Lactating Emergency Physicians. Ann Emerg Med. 2020 Jun;75(6):681-690. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32173133/

救急部門は、シフト制であることなどから出産をする女医さんが働きやすいと言われています。
特に母乳栄養で育児したいという希望のある女性もいると思います。また人工ミルクを使用する場合でも、定期的に搾乳を行わないと乳腺炎のリスクなど健康被害が起きてしまうかもしれません。
では、ERで勤務しながら搾乳するにはどうしたら良いでしょうか?
本文献には、ERの中に授乳室を置くことや搾乳のための休憩時間を取る事などの実践的方法が細かく記載されています。また周囲のスタッフに必要な配慮など、重要な記載が目白押しです。
もしも新しい救急部門を設計するならば、冷蔵庫や搾乳機やカウンタースペースを完備した授乳室を設けることも検討した方が良いかもしれません。

救急医としてだけでなく社会人としても必読文献です。
この文献については、救急医の多様な働き方をサポートするEM Allianceのfor usからも、詳細をご紹介する予定です。乞うご期待!

鈴木