2026/03/15 文献紹介
3月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と、福岡徳洲会病院の大方です。
沖縄と福岡の南国コンビで、2つの論文を紹介します。
前半は沖縄県立中部病院の岡です。
2026年、日本でもアナフィラキシー治療薬として
アドレナリン点鼻薬(ネフィー®)が登場しました
(米国では2024年FDA承認)。
https://www.neffy.net/
これまで、自己注射が怖いという理由で
エピペンを使用できない患者さんも一定数いました。
また、例えば自分の子どもが
「ちょっと息が苦しい」と言った場合でも、
他覚的な症状がはっきりしなければ、保護者が注射をためらうケースもありそうです。
そう考えると、点鼻薬という選択肢は
なかなか使いやすそうです。
今回は
アドレナリン点鼻薬(ネフィー®)に関する論文を2本と、関連論文1本を紹介します。
① 実際のアナフィラキシーでの使用効果
Motohiro Ebisawa, et al.
Epinephrine Nasal Spray Improves Allergic Symptoms in Patients Undergoing Oral Food Challenge, Phase 3 Trial
J Allergy Clin Immunol Pract. 2025 Oct;13(10):2787-2794.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40639499/
食物経口負荷試験中にアナフィラキシーを発症した
小児15人(6–17歳)にネフィーを使用しました。
結果
・全例で症状改善
・1例で遅発反応(2時間45分後)、予定されていたアドレナリン筋注で症状改善
著者によると、
アナフィラキシー発症時のアドレナリン点鼻投与を
前向きに評価した初の研究
とのことです。
まだアナフィラキシー患者で実際の効果を調べた研究は少ないのですね。
② 鼻炎があっても吸収は低下しない?
John Oppenheimer, et al.
Pharmacokinetics and pharmacodynamics following repeat dosing of neffy (epinephrine nasal spray) versus intramuscular injection during induced allergic rhinitis
J Allergy Clin Immunol Pract. 2026 Feb 11:S2213-2198(26)00137-6.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41687867/
季節性アレルギー性鼻炎患者
43人(18–64歳)
鼻炎誘発状態で
・ネフィー
・アドレナリン筋注
を比較。
結果
鼻炎状態でもネフィーの吸収は低下しませんでした。
Cmaxは筋注より高値でしたが、
投与後早期の血中アドレナリン濃度は筋注とほぼ同程度でした。
また、
2回投与する場合には同じ鼻孔の方が吸収が良好
という結果でした。
ただし!
この研究は
アナフィラキシー患者ではないため
症状改善の評価はできていません!
…。
これら2つの論文を読んで
自分ならどうするか考えてみました。
自分が持ち歩くなら
実績のあるエピペンかなと思います。
(今後のネフィー研究が待たれます)
あと、ちょっと安いです。
(3割負担でエピペン約3,000円/ネフィー約7,000円)
ただ、子どもなら
ネフィーの方が使いやすい気もします。
(4歳以上かつ体重15kg以上の小児に使用可能です。)
医療者ではない保護者が使う場面を想定すると、
点鼻の方が心理的ハードルは低そうです。
子供だと医療費タダだし…、おっと。
③アナフィラキシーで「いつエピペン/ネフィーを使うよう説明するか」国際コンセンサス
Timothy E Dribin, et al.
Epinephrine and emergency medical services activation recommendations during acute allergic reactions in community settings: International consensus report.
J Allergy Clin Immunol. 2026 Feb;157(2):429-441.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41386477/
では、そのようなアナフィラキシー患者への説明で、
どのような場合に、
・アドレナリン自己投与してもらうか
・救急車を要請してもらうか
の説明で困ったこと、ありますよね…。
「いつでも救急車を呼んでください」ってのは言い過ぎでは…?
今回紹介する論文は、患者や家族が
「いつアドレナリン自己投与(エピペン/ネフィー)を行うべきか」
を整理することを目的とした国際コンセンサス研究です。
7カ国(日本含む)
34人の専門家(救急医含む)
が症状の組み合わせごとに「アドレナリンを使用すべきか」を検討しています。
ポイントは以下です。
1) 呼吸器症状 / 心血管・神経症状 → アドレナリン投与
2) 軽い皮膚粘膜症状のみ(蕁麻疹など)
軽い消化器症状のみ
(嘔吐1回、生活に支障ない腹部不快感など)
→ 基本はアドレナリン推奨されず
2) 中等度皮膚粘膜症状 → 状況やリスク因子で判断
アドレナリン投与の閾値を下げる因子
・過去に1回のアナフィラキシーでアドレナリンを2回以上使用
・喘息
・肥満細胞疾患
・既知または疑いのアレルゲン曝露
・医療機関まで30分以上
また、救急車要請が推奨される状況・症状
【状況】
・一人で同伴者がいない
・アドレナリンを2回以上投与した
・予備のアドレナリンデバイスがない
・医療機関まで30分以上
【症状】
アドレナリン投与前
・重度の心血管/神経症状
・重度の呼吸症状
アドレナリン投与後
・心血管/神経症状が持続
・呼吸症状が持続
つづいて福岡徳洲会病院の大方です。
④自分なら別の対応をしたか?は振り返りの良い指標となるかも
Patrice Baptista, et al.
Patient Experience of Clinician Compassion Is Associated With Healthcare System Distrust Among Emergency Department Patients
Acad Emerg Med. 2026 Feb;33(2):e70250.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41738159/
私は症例への対応がうまくいこうがいかまいが、気になる症例では上級医ならどうしただろうかと思い、尋ねることがよくあります。そこで得られるものは非常に多いと感じています。エキスパートオピニオンの要素もありますが、他の医師がどう考え、どのように対応するかを知ることはとても重要だと感じています。
この文献は「自分なら別の対応をしたか? would you have done something differently(WYHDSD)」という問いを新たな指標とする研究です。
従来、症例検討はエラーの有無を重視しますが、本指標はエラーがなくても存在する「改善の機会」に焦点を当てています。
米国のアカデミックセンター救急外来で、72時間以内の再診からの入院、病棟入院後24時間以内のICU転棟、24時間以内の死亡、医師や患者からの苦情をもとにしたレビューを対象に、第三者の救急医による評価が行われました。評価者はエラー判定とは別に、WYHDSDを必須項目として評価しました。
6,773件が評価され、全体の12%となる815件がWYHDSDと判定されました。重要なのは、「エラーなし」とされた症例のうち、297件でWYHDSDが指摘されたことです。主な要因として、知識不足(45%)、システム的問題(16%)、必要な情報の未取得(15%)、コミュニケーション(13%)でした。
この指標は、エラーの有無を超えて臨床医の判断を捉えることで、従来の症例検討では見落とされがちな教育・システム的課題を可視化し、救急医療の安全性を高める実用的なツールとなる可能性があります。
⑤思いやりが医療システムへの不信に影響を与えるかもしれない!?
Patrice Baptista , et al.
Patient Experience of Clinician Compassion Is Associated With Healthcare System Distrust Among Emergency Department Patients
Acad Emerg Med. 2026 Feb 25;33(2):e70250.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12933280/
救急外来での短い診察が、患者の医療システム全体への信頼に影響する可能性があるとしたらどう感じますか?
この文献は、救急外来(ED)における医師・看護師の「思いやり」が、医療システムへの不信の少なさと関連していることを示した研究です。
米国のED患者779名を対象とした本研究では、医師と看護師それぞれの思いやりとシステムへの不信感をスコアリングして、関連を検討しました。
多変量線形回帰分析の結果、医師の思いやりスコアが高いほど医療システムへの不信が少なく(β=−0.62, 95%CI −0.80〜−0.44)、看護師でも同様の関連が認められました(β=−0.24)。特に医師の思いやりは、システムの「能力」だけでなく、正直さや公平性といった「価値観」への不信の少なさとも関連が示されました。
β(回帰係数)は「説明変数が1単位増えたときアウトカムがどれだけ変化するか」を示す指標であり、本研究では医師の思いやりスコアが1点高くなるごとに、不信スコアが平均0.62点低くなることを意味します。
本研究は主に白人と黒人で構成され、アジア人が少ないという偏りがあり、そのまま一般化するには注意が必要です。
しかし多忙な現場で、単なるマナーを超えた「思いやり」の意義やその重要性を示唆する結果と言えます。