2026/02/16 文献紹介
早くも2月が半ばを過ぎましたね。
2月前半の文献紹介は、京都府立医科大学附属病院の中村から「妊娠関連脳卒中」、聖路加国際病院の宮本から「血管性浮腫」を扱ったテーマでお届けします。
1本目は中村からです。
① 「妊娠関連脳卒中は見逃されやすい」
Haghighi N, Bourscheid RM, et al. Identifying Missed Diagnostic Opportunities in Maternal Stroke. Stroke. 2026 Feb;57(2):292-300. doi: 10.1161/STROKEAHA.125.052995. Epub 2026 Jan 26. PMID: 41587284.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41587284/
妊産婦の頭痛が実は脳卒中だと分かり、ヒヤッとした経験はありますか?
日本では10万分娩あたり10.2件の妊娠関連脳卒中が発生していると言われています(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28028148/
)。
また、妊娠関連脳卒中は内因性疾患による死因の第2位であるにも関わらず、その対処法については既存の教育コースなどでもフォーカスされていません。
今回は、そんな「妊産婦の脳卒中は、意外と見逃しが多いかもしれない」ということに警鐘を鳴らす文献をご紹介します。
本研究は、米国5施設の大規模脳卒中センターが参加する多施設レジストリを用いた後ろ向きコホート研究で、最終的に妊娠関連脳卒中と診断された症例のうち、それ以前の受診時の見逃しがあった割合や因子の特定が目的とされました。
2012年1月から2021年12月までの10年間で、妊娠中もしくは分娩後1年以内に、虚血性脳卒中、脳内出血、くも膜下出血、脳静脈洞血栓症の確定診断がある症例135例(妊娠中48例、分娩後87例)が対象となりました。
主要評価項目は、脳卒中診断の1か月前までの医療機関受診での見逃しの割合で、カルテレビューツールを用いて、見逃しの妥当性について客観的に評価されました。
結果、135例中37例(27%, 95%CI: 20.6%-35.5%)が見逃しと判定され、うち35例は典型的な臨床症状だったと判断されています。実に4分の1が見逃されていたことになります!
見逃し例のうち59%が出血性脳卒中、22%が虚血性脳卒中、19%が脳静脈洞血栓症でした。
これら見逃し例を元に明日の診療に活かせる、以下の教訓が得られます。
・非局所症状によるアンカリング
頭痛(53%)、非神経学的症状(26%)、意識変容(19%)といった症状に対し、子癇前症と診断したアンカリングにより、脳卒中を想起しなかった。アンカリングの可能性を自覚する。
・どの診療科でも遭遇しうる
見逃しを生じたのは、多い順に産科医で49%、救急医で29%だったが、診療科間で見逃した頻度に有意差はなかった。症状から疾患の可能性を認識する。
・知見の不足
見逃しのあった症例のうち、臨床医による症状の認識不足が84%、適切な画像検査の不足が81%を占めた。妊産婦の「いつもと違う頭痛」や全身症状ではCTやMRIの閾値を下げる。
日本では、米国と比較して妊娠関連脳卒中の全体的な頻度は低い(10万分娩あたり日本10件 vs 本研究30件)ものの、出血性脳卒中の割合が高い(日本74% vs 本研究49%)など、本研究と母集団の性質は異なりますが、十分な教訓となると思います!
2本目は宮本からです。
② 「血管性浮腫で救急医が知っておくべき要点」
Long B, Rech MA, Gottlieb M. Managing Angioedema. Ann Emerg Med. 2026 Feb;87(2):219-228. doi: 10.1016/j.annemergmed.2025.07.002.
Epub 2025 Aug 14. PMID: 40810708.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40810708/
今回は血管性浮腫に関して救急医が押さえておくべき総論に関する論文を紹介します!
血管性浮腫は救急専門医試験でも最近ではほぼ毎回出題されている内容なので勉強したことがある人も多いのではないでしょうか!?
日本語版のガイドラインも無料で公開されているので見たことがあるかもしれません( http://square.umin.ac.jp/compl/common/images/disease-information/hae/HAEGuideline2023.pdf
)がもうちょっとサクッと勉強したくないですか?
論文中では
・ヒスタミン介在型とブラジキニン介在型の分類(細かく見ると10個も分類があるんですね・・・!)やその特徴
・身体所見に基づいたStaging(参考写真も複数あり)
・投与すべき薬剤の種類と投与量
などが綺麗に整理されてまとめられています。
特にFigure4は対応フローチャートが記載されており必見です(日本語版作成してみました)。
気道緊急を伴う血管性浮腫では、
“覚醒下で”、”吸入エピネフリンを併用しながら”、”軟性喉頭鏡(ファイバースコープ)ガイド下もしくはビデオ喉頭鏡で気道の評価も行いながら”、”有事に備えてダブルステップアップアプローチ(輪状甲状靭帯切開のためのマーキングや器具の準備も並行して)で”、挿管を行うというのも当たり前ですが改めて確認したいですね。
ただ、文献班の中でも議論になりましたが、急性期の薬剤投与や退院後のフォローに関しては一度施設内で話し合う必要があります。
遺伝性血管性浮腫(HAE)の治療および発症抑制に用いられる乾燥濃縮人C1-インアクチベーター製剤のベリナートは非常に高額です。1アンプル10万円を超える製剤であり常備している施設も少ないでしょう。一度取り寄せたからには使わざるを得ないので、結局その適応は様々な検査結果が揃うのを待つしかありません。
そして急性期を過ぎた後にはフォローに関してもきちんと考えましょう。
ヒスタミン性だと繰り返すリスクがありますし、遺伝性だとご家族のことも考えないといけません。
各県内でも対応可能な施設はかなり限られます。
一度ご自身の施設ならどこまで対応できるか話し合ってみてはいかがでしょうか?
次回の文献紹介もお楽しみに!