2026.01.07

2026/01/01 文献紹介

2025年もあとわずか、この1年はいかがだったでしょうか?
今年1年も文献紹介を見ていただきありがとうございました。

今年最後の文献紹介、正月休みの合間にでも読んでいただけますと幸いです。

①Nico A.F. Janssen, et al. Influenza-associated invasive aspergillosis in the ICU: a prospective, multicentre cohort study, Crit Care. 2025 Nov 29. Online ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41318517/

「重症インフルでは“免疫抑制がなくても1/4がアスペルギルス感染しうる」

インフルエンザでICUに入るほど重症な患者を診ていると、「細菌性肺炎の合併はよくある」と身構えますが、真菌はどうでしょうか。いわゆる免疫不全がなくてもアスペルギルス感染を合併するという報告はこれまでもありましたが、その頻度は明らかではありませんでした。

本研究は、インフルエンザ検査を行いICU入室した肺炎患者を前向き多施設で追跡し、インフルエンザ関連肺アスペルギルス症(IAPA)の頻度と転帰を評価しました。

216人が対象となり、肺アスペルギルス症はインフルエンザ群24%(34/140)、対照である非インフルエンザ市中肺炎群13%(10/76)(p=0.054)でした。IAPAの診断はICU入室後中央値4日。ICU死亡率はIAPA 44%(15/34)、インフルエンザのみ14%(15/106)で、IAPAは死亡の独立予測因子でした。

ICUに入室するような重症インフルエンザの患者を見る際には頭の片隅に真菌感染をおいておくことが必要そうです。

②D Fitz-Patrick, et al. Efficacy, Immunogenicity, and Safety of Modified mRNA Influenza Vaccine. N Engl J Med. 2025 Nov 20;393(20):2001-2011.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41259756/

「mRNAインフルワクチンは“従来ワクチンより発症を減らす”一方で、副反応(reactogenicity)は増える」
COVID-19で一気に実装が進んだmRNA技術が、インフルにも本格的に入ってきました。その有効性・安全性を検証した第3相試験です。少し前には高齢者へのHigh Dose インフルエンザワクチンを題材にした試験がNEJMに2本同時掲載されていました。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2509907
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2509834

本研究は、18–64歳の成人18,476人を対象に、mRNA 4価と既存の不活化4価を比較したRCTです。総ランダム化はmRNA9225人 vs 既存ワクチン9251人でした。主要評価では、57例 vs 87例に基づき、modRNAは相対有効性34.5%(95%CI 7.4–53.9)と予防の上乗せ効果が示されました。一方で副反応は増えており、局所反応(70.1% vs 43.1%)、全身反応(65.8% vs 48.7%)、発熱(5.6% vs 1.7%)でした。

COVID-19ワクチンでも発熱で苦しんだ方は多いと思いますが、同様の傾向がありそうです。効果が優れたワクチンが出てきていることは公衆衛生的にも期待できる進歩だと感じました。一方で救急医としては、発症予防だけでなく重症化予防(入院・ICU・脳症など)にどれだけ効くか、今後の試験にも注目です。

③Tonleu FT, et al. Anger at emergency department discharge increases chronic pain risk at four months.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40967123/

「ERで感じていた怒りは、慢性疼痛の新規発症リスク!」

様々な患者が入り混じるER、特に冬場は混雑し待ち時間が長くなったり、医療者も余裕がなくなり対応がおざなりになったりして、気づかぬうちに患者に不快な思いをさせてしまっているかもしれません。

今回紹介する研究は、慢性疼痛発症前の感情的要因を探求したもので、ERで感じていた感情、特に怒りに着目しました。

フランスの7つの救急外来で実施された「脳震盪後症候群および心的外傷後ストレス障害予防に関する多施設クラスターランダム化クロスオーバー試験(SOFTER Ⅳ、https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39107668/ )」の二次解析です。

ERを外傷や急性疼痛で受診した641人の患者を対象に、受診時及び帰宅時の痛み、ストレス、怒り・悲しみ・恐れ・後悔などの感情を数値で評価し、その4か月後に「3か月以上続く慢性痛」があるかを電話で評価しました。

その結果、4か月後にも225人(35.1%)の患者が慢性疼痛を自覚していました。単変量解析において、女性、慢性疼痛の既往歴、外傷による受診、救急外来退院時の強いストレス・激しい怒り、救急医療への不満が4か月後の慢性疼痛と関連していましたが、多変量解析を行ったところ、慢性疼痛の既往、外傷による受診、激しい怒り、女性が慢性疼痛と関連していることがわかりました。

中でも激しい怒りがあると、慢性疼痛の既往歴がない患者において慢性疼痛の新規発症リスクが約2.8倍になることが判明しました。

研究の性質上、追跡調査までに生じた事象を考慮できない点や追跡不可が多く選択バイアスが生じた可能性があります。また必ずしもER滞在中に新たに生じた怒りが原因ではありません。

とはいえ、この結果をふまえて新たな慢性疼痛の移行を防ぐことを意識した診療や仕組み作りができればよいと感じました。