2025.12.15

2025/12/14 文献紹介

12月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と、福岡徳洲会病院の大方です。
九州コンビで、今回は2つの論文を紹介します。

前半は沖縄県立中部病院の岡です。

① Glenn Hernandezら.
Personalized Hemodynamic Resuscitation Targeting Capillary Refill Time in Early Septic Shock: The ANDROMEDA-SHOCK-2 Randomized Clinical Trial
JAMA. 2025 Oct 29:e2520402.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41159835/

敗血症治療における Capillary Refill Time(CRT)。
本当に使える指標なのか?

ANDROMEDA-SHOCK-2スタディ。

「2」ということは「1」があります。
先行研究は2019年に実施されました。

乳酸値が敗血症性ショック治療の重要指標であることは周知の事実でした。
そこで、“乳酸値の代わりにCRTも有効な指標となるのではないか?”
という仮説のもと検証されたのが前回の試験でした。

その結果、CRTの正常化を目標とした治療が、乳酸値正常化を目標とした治療と比べても遜色ない治療戦略である可能性が示され、CRTは一躍注目を集めました。

ただし、死亡率など主要アウトカムには有意差がなく、今回のANDROMEDA-SHOCK-2では、主要転帰の改善が期待されていました。

本研究では、敗血症性ショックに対してCRTが改善しない場合に、
・脈圧
・拡張期血圧
・輸液反応性
・エコーによる心機能評価
などを用いた治療プロトコル(CRTベースの戦略)を導入し、
各施設・医師の慣習による通常治療群と比較しています。
(このプロトコル、それぞれは単純なのですが、説明が長くなるので、あとで詳しく説明します)

研究は19カ国86施設で行われ、1467名が解析対象となりました。

主要アウトカムは、階層化複合アウトカムのwin ratio(勝ち比率)で比較されました。

win ratio(勝ち比率)とは?
今回は、「死亡→生命維持療法期間→入院期間」の順番で、それぞれの項目を通常治療群患者と1対1のペアを作って比較し、どちらが「勝ち(より良い結果)」かを判定しました。
win ratio(勝ち比率)1.0よりも高いとCRT治療群が有効ということです。

結果です。
主要アウトカムのwin ratioは、CRT群48.9%、通常治療群42.1%でwin ratio1.16 (95% CI, 1.02-1.33; P = .04)でした。

各項目のアウトカムについて、
28日死亡率に有意差は認められませんでした。
(26.5% vs 26.6%; hazard ratio, 0.99 [95% CI,0.81-1.21]; P = .91).
生命維持療法(昇圧薬、人工呼吸器など)の必要期間は短縮しました。
(16.5日 [11.3] vs 15.4日 [11.4]; OR 1.28 [95% CI, 1.06–1.54])

CRT測定について、
「爪を押すイメージ」を持っていた方は多いと思いますが、今回の研究では
指腹を10秒間圧迫し、解除後3秒以内に血色が戻るか
を評価しています。

…。
さて、
「何か単独の指標だけで劇的に救命率が改善する」ほど、敗血症管理は単純ではないと、改めて突きつけられた印象です。
たとえば乳酸値だけを追えば、輸液過多のリスクがあります。

現時点では:
・CRT
・輸液反応性
・エコーでの心機能評価
・平均血圧、拡張期血圧、脈圧
・(身体所見、尿量、乳酸値も)
など複数の指標を組み合わせ、総合的に判断するアプローチが最も良いと考えられます。
簡単ではない、楽ではない、地道に、です。
まずは自分自身が、プロトコルの各項目それぞれの評価と介入できるようにならないと。
心機能評価をし、それぞれの心不全の特異的治療、ドブタミンテスト、など。

…実はこれまで、私自身あまりCRTを積極的に測っていませんでした。
そもそも、ですね。
猛省します。
今後はERのベッドサイドで、繰り返し評価するようにします。

…これまで以上に患者さんの側に繰り返し行くことになるので、それだけでも良い効果ありそうですね。

(以下、CRT治療プロトコルを記載します。長ぇ…。)
第1段階:CRTが延長している場合、脈圧と拡張期血圧を評価する。
・脈圧 <40mmHg または 拡張期血圧 >50mmHg
もしくは、
・脈圧 > 40mmHg かつ 拡張期血圧 <50mmHg で、ノルアドレナリンで拡張期血圧 >50mmHg に調整し、その後もCRT が延長したまま
であれば、
・輸液反応性を評価し、輸液反応性がある場合は最大 1L の 輸液チャレンジを行う。
それでもCRTが延長したままならば第2段階へ。

第2段階:心エコーで心機能障害を評価する。
・心機能障害がない
もしくは、
・心機能障害があり、それぞれに応じた治療を行ってもCRTが延長したまま
(左室機能不全ではドブタミンを試用(心拍数が120を超える場合、頻脈性不整脈の場合、またはCRTに効果がない場合は中止)。右心室機能不全では、ARDS患者の場合、輸液を避け、必要に応じて昇圧剤を増量し、PEEPを下げ、プラトー圧を制限し、うつ伏せ寝を推奨。)
であれば、輸液反応性を評価する。

・輸液反応性がある場合は最大 1L の 輸液チャレンジを行う。CRTが正常化するか、有害事象(肺水腫の兆候、酸素化/換気の悪化、または中心静脈圧の上昇)が生じるか、輸液反応性がなくなるまで繰り返す。
・輸液反応性がない場合、高血圧の既往歴を確認する
・高血圧がある場合、平均血圧を80-85に1時間上げて、CRTが改善するか確認する(改善しない場合は元に戻す)。
・改善しない場合や高血圧がない場合、ドブタミン5μg/kg/分を1時間投与し、CRTが改善するか確認する(改善しない場合は中止する)。
・それでも CRT 延長している場合、レスキュー療法(高用量ステロイド、血液透析、ECMO)へ。

後半は福岡徳洲会病院の大方です。


Siona Prasad , et al.
Computed Tomographic Angiography and Yield for Gastrointestinal Bleeding in the Emergency Department
JAMA Netw Open. 2025 Aug 1;8(8):e2529746.
doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.29746.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40880086/
(無料で読めます)

「消化管出血かもしれない→自動的に造影CTしてませんか?」

みなさんは消化管出血(GIB)の可能性がある人に対して、造影CTを施行されていますか?
病院体制によってそのアプローチは異なる可能性がありますが、内視鏡医師がオンコール体制の場合などで早急な内視鏡ができない時は造影CTをして評価することもあるかもしれません。
紹介する文献は、その造影CTは本当に必要?ということを考えさせられるものです。

アメリカの単施設における、後ろ向きのコホート研究で、救急外来で急性GIBを疑う患者に施行されたCTA(多相造影CT)検査数を2017年から2023年の7年間にわたり追跡しました。
主要評価項目は年間のCTA検査数で、絶対数および救急での年間全CT検査数に占める割合として表しました。副次評価項目は検査陽性率でした。

954人が対象となり、GIB関連のCTA検査数は2017年の救急外来CT検査32,197件中30件(0.09%)から2023年には44,423件中288件(0.65%)に増加し、年間0.09%の増加となりました(95% CI, 0.07% to 0.12%; P < 0.001)
検査陽性率は2017年の30件中6件(20.0%)から2023年には288件中18件(6.3%)に減少し、年間の減少率は-1.60%でした。(95% CI, –2.41% to –0.79%; P = 0.001)
検査数は増加したにもかかわらず、検査陽性率は低下したことが認められました。

驚いたのは、検査数の絶対値の増加に比して検査陽性数がほぼ横ばいという点でした。
注意点として、アウトカム自体は患者の転帰を示したわけではありません。

文献内にあるlimitationを考慮すると、すぐに一般化ができるわけではないですが、検査の必要性や検査前確率をきちんと見積もることの大切さを改めて気づかされる研究だと感じました。