2025/12/2 文献紹介
12月に入ってしまいましたが、11月後半の文献紹介です。
今回は東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科の竪良太と山本一太から以下の3つの文献をお送りします。
①救急外来を受診した便秘症疑いの小児に対する、画像検査や処方の担当医毎の違い
②小児の亀頭包皮炎って治療は重要?
③ショック患者にAラインを早期にルーチンで留置するべきか?
前半は竪から2つの文献を紹介します。
①Krishnaprasadh D, et al. ConstiPatED: Evaluation in the pediatric ED-practice pattern and trends amongst provider types
Am J Emerg Med 2025; 99: 280-284
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41106152/
皆さんは救急外来を受診した便秘症疑いの小児に対してどんな画像検査、どんな処方を行なっていますか?
小児救急医と救急医で小児救急のプラクティスの違いを検討した先行研究がありますが、発熱・胃腸炎・単純型熱性痙攣・呼吸器感染症・気管支喘息・蕁麻疹・DKA・疼痛管理が対象であり便秘症は含まれていませんでした。
今回は米国の同じ医療圏内の3つの救急病院を受診した、最終的に便秘症の診断名で帰宅した小児患者(6ヶ月〜17歳)4512人を対象とし、advanced practice provider (NPなどの医師から独立して医療行為を行うことが可能な医療専門職、以下APP)+ 救急医(以下EP)とレジデント(以下R)+EPの2群間で、実施した画像検査や処方について診療録を用いて後方視的に比較検討されました。救急医はいずれの群でも監督という立場です。
結果ですが、有意差はないものの、APP+EP群の方が腹部X線やCT を多く撮像しており、R+EP群の方が鎮痛薬を多く処方していました。またAPP+EP群が経口の緩下剤や浣腸薬、坐薬を有意に多く処方していました。
全体として76.1%で腹部X線、16.7%で腹部エコー、3.7%で腹部CTが実施されていたのですが、腹部エコーに比して腹部X線が多いのは驚きでした。
今回は小児救急医と救急医の比較ではない事と両群とも救急医の監督が入っている事には注意が必要です。
著者達は担当医毎にマネージメントがバラバラであり、小児便秘症に対する標準化されたガイドラインが必要かもしれないと結論づけています。本邦では状況が異なるかもしれませんが、救急外来を受診した便秘症疑いの小児患者に対するマネージメントを自施設でも振り返ってみてはいかがでしょうか?
②Christin JT, et al. Balanoposthitis in Children: Dose Treatment Matter?
J Emerg Med 2025; 79: 603-609
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41252897/
小児の亀頭包皮炎に対して皆さんは抗菌薬の内服を処方していますか?
以前小児科の先生が、救急外来を受診した小児の亀頭包皮炎に対して抗菌薬を処方しているのを見て、「あれ?亀頭包皮炎って抗菌薬の内服の処方が必要だったかな?」と思って少し調べた経緯があります。その際には「抗菌薬入りの外用剤の塗布だけで治癒する場合もありますが、尿路感染症やごく稀に敗血症を合併する場合もあるため、内服の抗菌薬も処方すべき」と記載された二次文献を見つけ少し驚いた記憶があります。
今回米国の小児救急外来を受診し、亀頭炎もしくは亀頭包皮炎と診断された463人の小児患者に対して、処方薬と帰宅後の転帰が後方視的に調査されました。
結果ですが、内服の抗菌薬のみが最も多くて23%であり(97%がcephalexin)、続いて局所の抗菌薬(20%)、局所の抗真菌薬(19%)と続きました。経口と局所両方の抗菌薬、支持療法(ほとんどが包皮の優しい洗浄、座浴、市販の鎮痛薬)のみもありました。30日以内に11人の再受診があり、そのうち5人で治療変更がありました(2人は内服の抗菌薬に局所の抗菌薬を追加、2人は再発、1人は尿培養で複数菌が検出され、内服抗菌薬を追加)。入院や点滴の抗菌薬を要した症例はありませんでした。
小児の亀頭炎・亀頭包皮炎には様々な治療法がなされていましたが、治療失敗はごく稀であり、内服と局所の抗菌薬は必須ではないのかもしれません。自施設ではどうしていますか?
後半は山本から1つの文献を紹介します。
③Muller G, et al. Deferring Arterial Catheterization in Critically Ill Patients with Shock.
N Engl J Med. 2025 Nov 13;393:1875–1888.
doi: 10.1056/NEJMoa2502136
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41159885/
ショックの患者がICUに入室したとき、Aラインは必要なのか、どのタイミングで入れるべきかは、ご存知の通り明確なエビデンスがありません。
個人的には「Aラインは信頼できる圧指標で便利だ」という気持ちで利用しています。
ただ、ではそのAラインが本当に患者のアウトカムを改善しているのかと聞かれると、「全員ではないよな…」というのも正直なところです。
というわけで、「本当に全例で必要なのか?」という疑問に正面から挑んだのが今回のEVERDAC trialです。
フランス9施設の多施設前向きRCTで、ICU入室後24時間以内のショック患者1010例が登録されています。入室経路は救急外来28%、病棟27%、救急車からの直接入室25%と、日本のICUでもよく見るような幅広いショック症例が含まれていました。
ショック原因は敗血症が約半数で、心原性、出血性、心停止後などが続きます。入室時SOFA中央値10、SAPS IIは60前後と重症度はかなり高めで、ノルアドレナリンとアドレナリンの平均使用量は約0.4 µg/kg/minでした。なお、本試験では ECMO 、2.5 µg/kg/minを超える高用量カテコラミン使用中、重症頭部外傷、BMI 40超、妊娠中などは除外されています。フランスではバソプレシンやフェニレフリン、アンギオテンシンIIが使われていなかったことも文化の違いとして印象的でした。
患者は、ランダム化後4時間以内にAラインを挿入する群と、カフ圧計で管理し必要時のみAラインを追加する群に割り付けられました。非侵襲群の14.7%は経過中にAラインを挿入されています。また、カフ測定の頻度は医師の裁量で、実際にどれくらいの間隔で測定されたのかは不明です。
結果です。
28日死亡率は非侵襲群34.3%、侵襲群36.9%。カフ圧による戦略は設定された非劣性マージン(5%)を満たし、統計学的に非劣性が示されました。SOFAの推移や90日死亡率にも差はありませんでした。安全性ではAライン関連の血腫や出血が侵襲群で8.2%、非侵襲群1.0%に比べて明らかに多く、一方でカフによる痛みや不快感は非侵襲群でやや多い結果でした。とはいえ繰り返しになりますが、カフの測定頻度は不明です。
ショックではカフ測定の結果の信頼性が低下するため、Aラインを選んできた背景があると思います。高用量のカテコラミンを使用している場面では、より信頼性の高いとされる中枢側(例えば鼠径)で動脈圧を測定することもあります。そうした現場の経験を踏まえると、これまでAラインを早期に留置するという選択が支持されてきた理由も理解できます。
一方で、この試験ではそうした「Aラインの強み」がそのままアウトカムの差には結びつきませんでした。少なくとも本研究に含まれたようなショック患者では、カフで得られる血圧でも実用上は十分だったのかもしれませんし、Aラインでより正確な値がわかっていても、それを治療方針の差として活かし切れていなかった可能性もあります。血圧の“精度”そのものよりも、感染源コントロールや臓器サポートなど、ほかの要素が予後を左右していたとも解釈できます。
今回の試験は、「全例に早期Aラインが必須ではないかもしれない」という示唆を与えてくれました。非侵襲群でも必要に応じて後から挿入する戦略が許されており、段階的アプローチは現実的で理にかなっています。もちろんショックではなくてもAラインが必要な患者はいますし、頻回に血ガスが必要な状況ではAラインのメリットは大きいままです。
Aラインは便利で扱いやすい一方で、確実に合併症を伴う侵襲的処置です。「とりあえず入れる」から「この患者に本当に必要か」を一度立ち止まって考えるきっかけを与えてくれる研究でした。普段当たり前に行われている診療をきちんと検証しようとする、こういった研究は本当にありがたい存在だと思います。