2025/11/01 文献紹介
救急学会お疲れ様でした!今回も非常に学びが多く刺激を受けました。
早速ですが10月後半の文献紹介をさせていただきます。
前半1つは辻、後半2つは川口がお届けします。
ラインナップは以下の通りです!
①前失神は失神と同リスク
②ICD患者の至適カリウム値
③科学的根拠に基づくスライドデザインの実践ガイド
①Suh EH et al. Serious Cardiac Outcomes and Physician Estimation of Risk in Emergency Department Patients With Presyncope Versus Syncope.
Ann Emerg Med. 2025 Sep 23. Epub ahead of print. PMID: 40990887.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40990887/
前失神は、失神と同リスクとして扱うべきとされています(PMID: 38853536)。
一方で、前失神の方が軽症とみなされ、入院率も低いことも報告されています(25182542)。
今回ご紹介する研究は、米国6つの救急外来における前向き観察研究の二次解析です。
●方法
P:40歳以上で原因不明の前失神 or 失神で受診
重篤疾患(不整脈、MI、PE etc)が診断された症例は除外。気が遠のく感覚を伴わない単独のめまいも除外。
E:前失神
C:失神
O:30⽇間の重篤な心血管イベント(死亡、不整脈、MI etc)、医師推定リスク(指導医の臨床判断)、入院率
解析方法:ロジスティック回帰分析(共変量:年齢、性別、人種、臨床的特徴、研究施設etc)。感度分析は傾向スコア調整。
●結果
・対象:1,263例、失神721人、前失神542人
・ベースラインの特徴は両群で類似
・30日心血管イベント:失神4.7% vs 前失神5.2%(aOR 1.17, [0.66 to 1.92])→有意差なし
・医師推定リスク:失神7.6% vs 前失神5.3%(RD 2.3% , [0.89 to 3.7%])→有意差あり
・入院率:失神49.5% vs 前失神38.2%(RD 11.3%, [1.2 to 21.5%])→ 有意差あり
・ED帰宅後心血管イベント:失神 0.8% vs 前失神 1.1% (RD –0.27%, [–3.48 to 0.95%])→有意差なし
まとめると、医師のトリアージは概ね適切でしたが、前失神も失神と同等の30日心血管イベントリスクを示しました。
しかし入院率や医師の推定リスクは前失神で有意に低値でした。
やはり前失神は“失神と同じように扱うべき病態”であることが再認識されましたが、
一方で、依然として過小評価される傾向があり、今後も慎重な評価が求められると感じました。
②Jøns C, Zheng C, Winsløw UCG, Danielsen EM, Sakthivel T, Frandsen EA, et al. Increasing the potassium level in patients at high risk for ventricular arrhythmias. N Engl J Med. 2025 Aug 29
http://dx.doi.org/10.1056/nejmoa2509542
重篤な不整脈と関係するカリウム値ですが、みなさんはどれくらいを治療目標にしていますか?
ハイリスクの症例は4.0mmol/L以上、そうでない症例は3台後半を維持するくらいのイメージでしょうか(私はそうでした)。
本研究(POTCAST試験)は、ベースラインのカリウム値が4.3 mmol/L以下のICD植込み患者を対象に、血漿カリウム値を「標準域(3.5–4.0)」に維持する群と「やや高め(4.5–5.0)」に維持する群とで、心室性不整脈関連イベントの発生率を比較したデンマークの多施設RCTです。
対象は循環器外来通院中のICD患者の成人1200例で、介入群では食事指導に加え、カリウム補充やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を用いて目標値の達成をめざしました。
結果ですが、中央値約40か月の追跡の間、主要複合エンドポイント(適切なICD作動、不整脈・心不全による予定外入院、全死亡など)の発生率は介入群22.7%、標準治療群29.2%で、介入群のリスクは有意に低下しました(ハザード比0.76;95%CI 0.61–0.95;P=0.01)。この効果は主に心室頻拍や不整脈関連入院の減少によるものであり、高カリウム血症による有害事象は両群で差がありませんでした。
心室性不整脈リスクの高いICD患者は積極的なカリウム管理が重要であることを示しています。
ただし、高度な腎機能障害患者(eGFR 30 mL/分/1.73 m²未満)は除外されている点にご注意ください。
③Green EP. Crafting evidence-based academic presentations: Practical guidelines for medical science educators. Med Sci Educ . 2025 July 31
http://dx.doi.org/10.1007/s40670-025-02452-2
学会、勉強会、抄読会…我々の日常に深く浸透しているスライド作成・プレゼンテーションですが、その効果を最大限に引き出すための科学的根拠に基づいたアプローチは十分に知られていないかもしれません。本研究は、複数の学習理論(認知負荷理論、認知的徒弟制、マルチメディア学習の原則など)に基づいた、効果的なプレゼンスライドのための実践的なガイドラインを提示しています。
ポイントは次の3つです。
①認知負荷の軽減:聞き手が本質的な情報に集中できるよう、曖昧さを排除した明確なアウトラインを示し、複雑な概念は箇条書きではなく図やタイムラインで提示する
②デザインの最適化:不要な装飾や無関係な画像を避け、矢印や色、配置などを効果的に用いて聞き手の注意を誘導する(シグナリング原理)
③主要メッセージの明確化:スライドの見出しをキーワードではなく具体的な結論や主張として表現し、理解と記憶保持を高める(Assertion–Evidenceアプローチ)。さらに、プレゼンテーションの最後に主要メッセージを繰り返し、復習問題を提示することで、長期的な情報定着を促す(検索練習retreival practice)
効果的なプレゼンスライド作りの一助になれば幸いです。