2025.10.01

2025/09/30 文献紹介

9月も最終日となり、秋らしい爽やかな風を感じられる日もでてきました。
今回お送りする文献はこの3本です!

1. Duhé R, et al. Management of tracheostomal hemorrhage complicated by obstructing clot in a post-laryngectomy patient presenting to a rural emergency department.Am J Emerg Med. 2025 Sep 2:S0735-6757(25)00599-6.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40925809/

「喉頭全摘術後患者の気道緊急」

一般的な気管切開術後の気道緊急に対応したことのある救急医は多いと思いますが、喉頭全摘術後(あるいは喉頭気管分離術後)の気道緊急に対応したことはありますか?
一般的な気管切開術との大きな違いは、気管が上気道とつながっていないことです。気管切開術では例えば気管切開チューブが閉塞しても、カフを萎ませて口から補助換気をするや、一旦経口気管挿管するといった対処が可能です。しかし喉頭全摘術後ではそれらは対応策になり得ないため、一刻一秒を争う気道緊急ではそれらに時間を割いてはいけません。

今回紹介する文献は、2週間前に喉頭全摘術を受けたばかりで、永久気管孔からの出血と低酸素血症で地方のERに救急搬送された患者のケースレポートです。この症例では「resuscitate from neck only」と書かれたリストバンドを装着していたため、救急隊および対応したERスタッフは速やかに気管孔から酸素投与しました。さらに用手的にゴルフボール大の血腫(文献に画像あり)を取り除いて、胸骨上窩を圧迫しつつトラネキサム酸の静脈内投与とβ刺激薬・抗コリン薬の吸入を実施したところ、呼吸は安定してきたため、高次医療機関に搬送することができました。

もしこのような患者が、あなたの勤めるERに搬送されてきたらどう対応しますか?

ほぼ同時期にJournal of Emergency Medicineに喉頭全摘術+気管食道瘻(ボイスプロテーゼ挿入)患者の気道緊急管理についてもケースレポートが投稿されていましたので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40848541/

2. T.Seth ,et al. Severe lower extremity pain in a patient with diabetes.
Am J Emerg Med. 2025 Aug 24:S0735-6757(25)00584-4. Online ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40897616/

「糖尿病性筋壊死って知ってる?」

糖尿病には急性、慢性問わず様々な合併症がありますが、今回は稀で救急領域でも報告の少ない糖尿病性筋壊死のケースレポートを紹介します。

インスリン依存状態の糖尿病に罹患しており、末梢神経障害を有する41歳男性が、1週間前から左下腿の疼痛を自覚し、歩けなくなるほどの激痛となったため救急外来を受診しました。来院時は発熱を伴わない軽度の頻脈のみで循環は安定しており呼吸困難もなかったが、左下腿に限局した腫脹と浮腫、著明な圧痛を認めました。

下肢の急性疼痛の鑑別として、急性下肢虚血、深部静脈血栓症、壊死性軟部組織感染症、骨折、脱臼、出血、コンパートメント症候群などが挙げられると思います。この症例では、HbA1c 16.5%、血糖値 643mg/dLと非常に糖尿病コントロールが悪くCRPは7.3mg/dLまで上昇していたものの、腎機能障害やCPK上昇は見られませんでした。造影CTを撮影したところ、左腓腹筋外側に境界不明瞭な造影効果を示す液体貯留を認めました。

初期治療の段階では、壊死性筋膜炎を考慮して抗菌薬治療が行われましたが、その後の臨床経過や追加で行われたMRI検査で筋壊死として診断され、抗菌薬治療や外科的な介入は行われず、血糖コントロールにより疼痛は改善していきました。

救急医の初期対応としては臨床像や超音波検査、時にはfinger testなどから上記の鑑別していくことに変わりはありませんが、このような稀な疾患(といっても糖尿病患者は非常に多いのでunderdiagnosisされているだけかもしれません)を頭の片隅にでも置いておいていただけると幸いです。

3. Holbert MD et al. Cool Running Water as a First Aid Treatment for Burn Injuries. Ann Emerg Med. 2025 Sep 22:S0196-0644(25)01138-2.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40985917/"

「“20分の流水冷却”、知ってはいてもできていなかったかも」

熱傷の初療において「受傷後3時間以内に20分間の流水冷却(cool running water)」を行うことは、深達度や植皮率を下げる効果が報告されており、多くのガイドラインで初期治療として推奨されています。にもかかわらず、実際の救急医療現場では十分に徹底されていないことがあります。思い当たる節があります。

本研究は、米国における救急隊や救急科の医療従事者を対象に、アンケートと半構造化インタビューを行い、阻害要因と促進要因を包括的に明らかにした混合法研究です。調査結果を整理し、さらに現場スタッフとともに解決策を考えるプロセスがとられました。

米国の救急医療システム(EMS)と救急部(ED)の医療従事者を対象に行われた質問票調査(回答371名)によると、「20分の流水冷却」という推奨そのものを知っていたのはEDでわずか15%、EMSで10%程度に過ぎませんでした。
さらに流水冷却を実際に行っていると答えた人の割合はEDで26%、EMSで29%と大多数は実践していませんでした。

EDでの阻害要因としては、時間がかかる、人手を取られることが示されました。

著者らはこのギャップを埋めるために、携帯型流水冷却装置の導入、看護師主導のプロトコル、電子カルテへのオーダーセット化、院内ガイドラインの更新など、具体的な実装戦略を提案しています。

携帯型流水冷却装置の導入は大掛かりであまり現実的には思えませんが、看護師主導のプロトコルやオーダーセット化などはどの病院でも行いやすい方法だと感じました。当院で考えるとトリアージ終了から診察が呼ばれるまでの間、気道緊急や顔面熱傷などでない低緊急であれば説明用紙なども用いて患者自身で20分流水冷却を行うフローを作ることが現場の負担を少なくすすめられる方法になりそうだなと感じました。

みなさんの施設ではどうしていますか?考えるきっかけになれば幸いです。

ばんどう整形外科・ファミリークリニック 大林 正和
湘南鎌倉総合病院 救急総合診療科 田口 梓