2025/09/15 文献紹介
9月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と、福岡徳洲会病院の大方です。
沖縄と福岡の南国コンビで、2つの論文を紹介します。
前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。
①
Raja-Elie E Abdulnour, et al.
Educational Strategies for Clinical Supervision of Artificial Intelligence Use.
N Engl J Med. 2025 Aug 21;393(8):786-797.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40834302/
「AI時代の臨床教育法。NEJM」
最近、ChatGPTのようなAI(大規模言語モデル:LLM)が医療現場にもどんどん入り込んできていますね 。
とても便利なツールですが、教育・学習の現場では注意すべきリスクも存在します。
「なんとなく危うさは感じていたけれど、具体的に言語化はできていなかった…」
そんな方におすすめなのが、今回NEJMに掲載された総説です。
…さすがNEJMやで 。
この論文のポイントは以下です。
・「verify and trust(検証してから信頼する)」が原則。
・経験に応じたAIの使い方をしましょう。ベテランは補助的活用を。中堅は依存に注意。初学者はAIを鵜呑みにせず“なぜ?”を問いかける。
・「DEFT-AI」で単なる効率化ではなく、教育機会に変えましょう。
・ケースに応じて使い分けましょう。高リスクにはケンタウロス型、低リスクにはサイボーグ型。
以下、解説です。
AIがもたらす3つのリスク
1. Never-skilling:本来身につけるべきスキルが身につかない
2. Mis-skilling:AIの誤りをそのまま覚えてしまう
3. Deskilling:AIへの過度な依存によってスキルが衰える
医師は訓練を積むことで「マニュアル通りの動き」から「柔軟で創造的な対応」へと成長していきます。 ここでAIをうまく批判的に活用できれば、さらに成長を加速できます。 ただし、安易にAIに頼りすぎると逆にMis-skillingやDeskillingが起こってしまいます。
経験値によるAIとの上手な付き合い方
* ベテラン医師:既にスキルが高いので、AIは「参考」としてうまく活用しましょう。
* 中堅医師:AIを使いこなせば大きく成長できますが、依存しすぎると推論力が鍛えられません
* 初学者:AIの答えをそのまま「正解」と思い込みがちで、低いレベルにとどまる危険性があります。 「なぜこの診断に至ったのか?」を問いかけることで、AIを学びの機会にしましょう。
DEFT-AIという指導法
今回の論文では、AI教育に批判的思考やメタ認知を組み込むために「DEFT-AI」という枠組みを提案しています。
* Diagnosis, Discussion, Discourse(診断を振り返る):「問題設定や診断をどうやって組み立てたのか?」
* Evidence(根拠を確認する):「根拠は何なのか?情報ソースは?偏りや限界は?」
* Feedback(フィードバック):AIの出力に対する評価と、人間指導者からの具体的な助言を行う。
* Teaching(教育的指導)
* AI recommendation(AI活用の推奨):AI活用のタイミングを考える。
AIと人間の協働スタイル
* ケンタウロス型:役割分担。危険度の高い判断は人間が担当。AIは補助的役割に留まる。
* サイボーグ型:AIと一体となり協働し、一緒に答えを練り上げる。
診断や臨床的な意思決定など、高リスク場面はケンタウロス型。
メール下書きなど低リスク作業はサイボーグ型が向いています。
…いかがでしょうか。
AI時代の学習・教育のコツがわかりやすくまとめられています。
AIリスクで、どのように活用したら良いのか?モヤモヤがマシになりました。
新しい用語が多くてちょっとマーケティングっぽさもありますが。(笑)
実践に役立つ知見が詰まっています。
つづいて福岡徳洲会病院の大方です。
②
Nicholas E Harrison, et al.
Blood Pressure Effects and Risk of Hypotension due to Intravenous Furosemide in Acute Decompensated Heart Failure Critical Care . 2025 Apr 23;29(1):162.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40877742/
(無料で読めます)
「急性非代償性心不全へのフロセミド投与は血圧を下げない!?」
救急に搬送された鬱血のある急性非代償性心不全(ADHF)に対して、フロセミドを投与するのは医学的にごく普通のことだと思いますが、血圧が下がりすぎるかもしれないと心配したことはありませんか?
それを考慮して、場合によっては少ない量のフロセミド投与に留めたり、ニトログリセリンなど他の薬剤やNIPPVだけで対応したりすることもあるかもしれません。
私自身、投与量を減らして血圧に問題ないかをちょこちょこ確認する癖があります。
しかし、必要な人には投与しなければなりません。
今回紹介する文献は、「実はフロセミドが血圧変動に寄与する割合ってかなり少ない」というものです。
アメリカの5つの施設で行われた多施設前向き観察研究で、フロセミドの静脈内投与やその他の治療,それらとの併用によって血圧の変動がどの程度あるかを確認しました。
主要評価項目は収縮期血圧(SBP)で、90mmHg未満を低血圧と定義しました。
253人のADHF患者が対象となり、91,210回のモニタリングによる観察が行われました。
このときに使われたモニタリングは「ClearSight finger-cuff monitor (Edwards Lifesciences)」というもので、指に小さなカフを巻いて脈波を読み取り、連続血圧を非侵襲的に表示する装置です。
253人のうち177人にフロセミド(大多数が40mg)が静脈内投与され、観察全体の6%で低血圧が記録されました。
フロセミドの投与前後での低血圧には有意差がありませんでした。(6.1% vs. 6.0%, P=0.7)
多変量調整の結果、フロセミド投与によるSBPの変動は1.4%で、低血圧発症は1.7%でした。
また40mg投与では、ベースラインの血圧が110mmHg以上であれば低血圧発症は1%未満でした。
低血圧リスクを高める要因として、より低いベースラインのSBP、男性、β遮断薬の使用などが挙げられます。
施設によってはフロセミドを20mg投与で対応するところがありますし、そのような施設ではこの結果をそのまま該当させることはできませんが、40mgでも血圧の変動がほぼなく、低血圧発症となる因子をあらかじめ把握しておくことでそのリスクを減らすことができると思います。