2025.09.01

2025/08/31 文献紹介

まだまだ暑さが続きますが、いかがお過ごしでしょうか。
8月後半の文献紹介をお届けします。

今回は東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科の竪良太と山本一太から以下の3つの文献をお送りします。

① "隠れVF"を心エコーで発見せよ
② 「2時間ルール」に挑む、抜管直後のひとくち実験
③ 耳鏡で見えなくても安心できない、小児鼻腔異物の落とし穴

① “隠れVF”を心エコーで発見せよ
前半は山本から、「もしかしてVFを見逃していたかも…」という、背筋が寒くなる文献を1つ紹介します。

Gaspari R, et al.
Incidence and Clinical Relevance of Echocardiographic Visualization of Occult Ventricular Fibrillation: A Multicenter Prospective Study of Patients Presenting to the Emergency Department After Out-of-Hospital Cardiac Arrest.
Ann Emerg Med. 2025 Jun 30:S0196-0644(25)00208-2.
doi: 10.1016/j.annemergmed.2025.04.014
PMID: 40590825
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40590825/

「PEAと思ったらVFだった」

そんなケースを経験したことはありますか?
  今回ご紹介するのは、そんなエコーでしかわからない“隠れVF(occult VF)” についての報告です。

 

本研究は米国とカナダの28施設で行われた多施設前向き試験で、院外心停止患者811例を対象に、CPR中の最初の3回の中断で同時に記録されたECGと心エコーを解析しています。
ECGではPEAや心静止と判定される一方、心エコーで心筋の細動が観察される場合を“隠れVF” と定義しました。
その結果、なんと 5.3%の患者に“隠れVF” が存在しました。

"隠れVF"の約8割はPEAとして、残りは心静止として認識されていました。

臨床現場での対応をみると、ECGでVFと認識された患者の半数以上が除細動を受けていました。
一方で"隠れVF"ではわずか3割程度しか除細動されていませんでした。
にもかかわらず、除細動が行われた場合には"隠れVF"の VF停止率はむしろ高く(75% vs 55.6%; aOR 2.31; 95% CI 0.42 to 15.24)
さらに ROSC率も隠れたVFの方が高い傾向(39.5% vs 24.8%; aOR 2.26; 95% CI 0.87 to 5.9)を示しました。
生存退院率は有意差こそないものの、 "隠れVF"で7.0%、ECG VFで5.4% (aOR 3.6; 95% CI 0.63 to 19.2)でした。

ECGだけではVFをPEAや心静止と誤認するケースが一定数あり、本来ショック適応である患者が見逃されている可能性があります。
そして、心エコーを併用すれば、こうした“隠れVF”を拾い上げることができます。

結論として、 PEAや心静止に見えても、その一部は実はVFであり、心エコーであれば見逃さずに捉えられる というのが今回の重要なメッセージです。
心停止蘇生の現場で、「非ショックリズムに見えるけれど、本当はVFかもしれない」という視点を持ち、POCUSを活用することがより重要になりそうですね。

本文中にそんな隠れVFのエコー所見も紹介されているので、興味がある方は見てみてください。

次は竪からです。私からは以下の2つを紹介します。

② 「2時間ルール」に挑む、抜管直後のひとくち実験

抜管後の飲水、みなさんどうしていますか?「2時間待つ」が世界的スタンダードですが、そのルーツはなんとエーテル麻酔時代。いまや完全に時代遅れのルールかもしれません。

Sedlackova S, et al.
Immediate "sipping" vs. delayed oral fluid intake after extubation: A randomized controlled trial.
J Crit Care. 2025 Aug 7;91:155212.
doi: 10.1016/j.jcrc.2025.155212
PMID: 40780083
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40780083/
抜管後の飲水は基本的には数時間後に可能としていることが多いのではないでしょうか?全世界では2時間後に飲水可能とすることが一般的なプラクティスとなっていますが、エビデンスに乏しく、その起源は1846年にアメリカの歯科医であるウィリアム・モートンが揮発性の液体であるエーテルを用いて吸入麻酔を行い、吸入麻酔を全世界に広めた頃であるとされています。エーテルの特性から2時間後の飲水可能とするプラクティスを、エーテルが使用されなくなってからも継続しているのが現状のようです。しかし飲水開始が遅くなると口渇感によるストレスからせん妄が増加する可能性もあります。
今回ICU患者で、抜管直後から飲水を許可する群(Early群: E群)80人と2時間後に許可する群(Standard群: S群)80人で、患者が口渇を感じる割合やその改善割合を比較しました。 1回の飲水量は5-10mLであり、最大は3mL/kgとしました。抜管直後、5分後、30分後、60分後、90分後、120分後に評価しました。

120分後に口渇を感じる患者の割合はE群・S群共に64(80%)[70-88%]で有意差はありませんでしたが、抜管直後と比べて改善した割合がE群9/59(15%)[7-27%]、S群1/51(2%)[0-10%](P=0.0191)とE群で有意に多いという結果でした。安全性に関して嘔気・嘔吐の発生は少なく、両群で有意差はなく、誤嚥の発生は両群共にありませんでした。

単施設研究であること、術後や外傷など患者層がバラバラであること、オープンラベル試験であることなどのlimitationはあります。またせん妄の発生率は今回調べられていません。しかしこれまで当たり前に抜管数時間後に飲水可能としていたプラクティスを見直してみるきっかけになるのではないでしょうか?

③ 耳鏡で見えなくても安心できない、小児鼻腔異物の落とし穴

最後は「鼻に何か入った!」と来院した小児のお話。直視や耳鏡で見えなかった190例のうち、最終的に 6人に1人で異物が見つかって除去されました。
つまり「見えない=ない」ではないんです。症状が続いたり経過が長かったりするなら、フォローや耳鼻科コンサルトが必須。
診察室で「とりあえず見えないから大丈夫」と帰したくなるケース、結構ありますよね。そんな時に背中を押してくれる研究です。

Thompson J, et al.
Pediatric nasal foreign body not visible on simple exam: Incidence and patient characteristics.
Am J Emerg Med. 2025 Aug 5;98:19-21.
doi: 10.1016/j.ajem.2025.08.007
PMID: 40803278
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40803278/
先日のEMAミーティングでも鼻腔異物を扱いましたが、今回は小児の鼻腔異物の診断に関する興味深い観察研究を紹介します。

鼻に異物が入ったという主訴で救急外来を来院した小児のうち直視や耳鏡による観察では異物が確認できなかった190人中、救急外来での耳鼻科コンサルトや耳鼻科外来でのフォローの結果、最終的に33人(17%)で鼻腔異物が除去されました。それ以外に「血管収縮薬の局所投与や鼻鏡、喉頭ファイバーの使用」や「盲目的な除去(陽圧法や尿道バルーン使用)」が成功した症例もありました。

また最終的に鼻腔異物が見つからなかった症例と除去された症例の2群間で単変量解析を実施し、「症状の持続(疼痛、鼻出血など)」、「客観的な診察所見(鼻出血痕など)」、「鼻腔への挿入からの経過時間」の3つが鼻腔異物の存在と関係していました。鼻腔異物の材質や異物の複数箇所への存在は関係していませんでした。
米国の単一の3次小児救急病院での研究であること、多変量解析ではないことなどのlimitationはありますが、直視や耳鏡による観察では2割近くを見逃す可能性があることは驚きです。鼻に異物が入ったという主訴で来院した小児では、直視や耳鏡による観察ではっきりしなくても、症状が持続したり、鼻腔への挿入から時間が経過したりしている場合には、耳鼻科外来でのフォローや症例によっては救急外来での耳鼻科コンサルトを検討すべきと言えるでしょう。帰宅させて耳鼻科外来でフォローする場合には「6人に1人が後で異物残存が見つかると言われています。後日、耳鼻科を受診してもらえますか?」と伝えられると、患者やその家族に納得してもらいやすいですよね。

さて今回は
「VFを見逃す恐怖」「エーテル時代から続く謎ルール」「見えない異物の落とし穴」と、現場で今日から試したくなるような論文ばかりでしたね。
8月後半の文献紹介は以上です。
これからも文献班をよろしくお願いします!!