2025/08/16 文献紹介
猛暑・酷暑の中、いかがお過ごしでしょうか。
8月9日のEMAミーティングでは文献班もプレセミナーを担当し、AIを用いた文献検索の方法について共有させて頂きました。たくさんのご応募・ご参加に感謝しますと共に、今後の参考となりましたら幸いです。
さて8月前半は、1本目を聖路加国際病院の宮本から、2本目を京都府立医科大学の中村からお送りします。
① 脳梗塞治療の次の一手? 第2のt-PA、テネクテプラーゼの動脈内投与!
② 救急外来での予後予測にパルスオキシメーター?!
① Miao Z, et al; ANGEL-TNK Investigators. Intra-arterial Tenecteplase for Acute Stroke After Successful Endovascular Therapy: The ANGEL-TNK Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025 Jul 5:e2510800. doi: 10.1001/jama.2025.10800.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40616323/
※無料で読めます。
今回紹介する論文は、発症後4.5〜24時間の主幹部の脳梗塞患者に対するテネクテプラーゼの動脈内投与に関する内容です(ANGEL-TNK試験)。
テネクテプラーゼは遺伝子組み換え技術を用いてアルテプラーゼの一部のアミノ酸を改変しフィブリン特異性を高めた新規の薬剤であり、半減期が長いため単回のボーラス投与で効果が期待できるとして近年注目されています。
実際、日本国内では未承認ですが、欧米ではテネクテプラーゼが治療ガイドラインでも推奨され、使用例も増えてきています。
確認ですが、そもそも、現在の日本のガイドライン(脳卒中ガイドライン2021[2025年改訂])では、
・rt-PA(アルテプラーゼ)の静脈内投与(0.6 mg/kg)は、発症から 4.5 時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害で慎重に適応判断された患者に対して勧められる。
・アルテプラーゼ以外の t-PA 製剤は、わが国において十分な科学的根拠がないので勧められない。
・発症後6時間をこえ内頸動脈や中大脳動脈M1などでは、画像所見や神経徴候によって24時間以内に機械的血栓回収を開始することが勧められる。
・動脈内投与による血栓溶解療法は症例によっては(6時間以内の中大脳動脈閉塞など)適応となるが、保険適応外。
と記載されています。
今回の研究では合計255名が含まれ、126名が血行再建術後にテネクテプラーゼの動脈内投与を受け、残り129名が標準治療を受けました。
90日後のmRSスコアが0~1(最大6点で、低いほど良好)の患者の割合は、動脈内投与群のうち51名(40.5%)、標準治療群のうち34名(26.4%)でした(相対リスク、1.44 [95%CI、1.06-1.95];P= 0.02)。
また、今回発症後24時間以内に静注での抗血小板療法や抗凝固療法を必要とした患者などは除外されていますが、血管内治療後のテネクテプラーゼの動脈内投与は、標準治療群と比較して治療後48時間以内の脳出血の発生率を増加させませんでした(5.6%対6.2%;相対リスク、0.95 [95% CI、0.36-2.53];P = 0.92)。
患者数がそれほど多くないので追試を待ちたいところですが、今後国内でもテネクテプラーゼが承認される可能性はあり、期待したいところです!
② Siber V, Tasdemir SG. Peripheral perfusion index versus NEWS score in prehospital non-trauma adults: A prospective cohort study. Am J Emerg Med. 2025 Jul 18;97:103-110. doi: 10.1016/j.ajem.2025.07.040. Epub ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40706306/
身近なもので、救急外来での予後予測ができるとしたら、どうですか?
今回ご紹介する文献は、救急外来でのPeripheral Perfusion Index (PPI)の予後予測への有用性をNational Early Warning Score(NEWS)と比較し評価した研究です。(NEWSは日本では救急外来というより、入院中の急変予測に用いられることが多いかもしれません。)
PPIはパルスオキシメーターを用いて簡便に測定することができ、実際の測定器にはSpO2やPR (Pulse Rate)に並んでPI (Perfusion Index)と表示されます。0.02〜20%で表示され、末梢循環不全を呈した場合に低値を示します。
パルスオキシメーターは赤外線光や赤色光を用いて測定を行います。
SpO2やPRは動脈血の拍動性成分のみを用いる一方、PPIは拍動性成分の振幅を非拍動性成分の基礎部分で割って算出されます。そのため、PPIの測定には拍動性成分と非拍動性成分の正確な分離にノイズ除去が必要となります。上位モデルのパルスオキシメーターが必要で、1台あたりの標準価格も数万円〜数十万円となっており、下位モデルの10倍近くコストがかかります。
本研究はトルコでの単施設前向き観察研究で、2025年1月13日〜20日に実施され、使用機器はMASIMO RAD-97でした。(日本での標準価格44万円)
18歳以上の成人で救急搬送後にPPIを測定された非外傷患者452 人が対象となり、190人が帰宅(帰宅群)、147人が一般病棟入院(病棟群)、114人がICU入院(ICU群)となりました。
主な結果は以下の通りです。
PPI中央値:ICU群1.7、病棟群2.8、帰宅群4.6(p<0.001)
NEWS中央値:ICU群4、病棟群3、帰宅群2(p<0.001)
帰宅予測Area under the curve(AUC):
PPI vs NEWS:0.970(カットオフ値3.15)vs 0.691
ICU入院予測AUC:
PPI vs NEWS:0.942(カットオフ値2.35)vs 0.682
24時間生存予測AUC:
PPI vs NEWS:0.927(カットオフ値1.85)vs 0.723
30日生存予測AUC:
PPI vs NEWS:0.725(カットオフ値2.95)vs 0.669
いずれも、PPIの方がNEWSよりも予測精度が高い結果となりました。
循環動態の評価において、バイタルサイン、血液検査の生化学項目の他、Capillary refill time(CRT)や血液ガスでのLactate値などを参考にすることが多いと思いますが、PPIも評価する価値があるかもしれない、と見直しました。
PPIはトレンドの評価には使いやすいかもしれませんが、今回の研究では救急外来でのワンポイントのタイミングで評価され、絶対値としての利用価値もあることが示唆されました。
但し、個々でのベースラインが異なったり、局所の循環や自律神経の影響も受けるため、単独での方針決定に用いることには要注意で、その他の指標と組み合わせて使用するべきだと思います。
非常に簡便かつ迅速に定量化した結果が得られるため、機器が高価というハードルはありますが、施設で採用されている場合は、一度活用してみてはいかがでしょうか!
文献班
京都府立医科大学 中村侑暉
聖路加国際病院 宮本颯真