2025.07.31

2025/07/31 文献紹介

暑い日が続き、熱中症の患者さんも増えてきましたね。
そんな季節にぴったりの熱中症アップデートを含む3本の論文をご紹介します。
(今回はAI要約音声も作ってみました!お忙しい方はぜひ)
前半2本は川口、後半1本は辻がお届けします。

① セフトリアキソン1g vs 2gの有効性比較
② 熱中症の最新レビュー
③ QTc延長+ABCで不整脈を予測?

①Taniguchi J, et al. Outcomes of ceftriaxone 2 g versus 1 g daily in hospitalized patients with pneumonia: a nationwide retrospective cohort study. J Antimicrob Chemother. 2025 Jun 10:dkaf189. PMID: 40492536.
ttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40492536/ (無料で読めます)
6分でわかるAI音声解説:https://notebooklm.google.com/notebook/e16f5b11-9728-4535-bc11-34b37376708b/audio
「教科書にセフトリアキソンの投与量は1~2gって書いてあるんですけど結局どっちにすればいいんですか?」と後輩に聞かれたり、自分でも疑問に思ったりしたことはありませんか?
本研究は、日本のDPCデータをもとに、市中肺炎で入院した患者におけるセフトリアキソンの効果を比較した論文です。

P 市中肺炎と診断され、2日以内にセフトリアキソンを開始した入院患者(2010年7月から2022年3月の日本のDPCデータベースから抽出)
I セフトリアキソン1日2g
C セフトリアキソン1日1g
O プライマリアウトカム:30日院内死亡率、副次アウトカム:有害事象(胆道感染、クロストリジウム・ディフィシル感染[CDI]、アレルギー反応)

対象は471,694例で、2g群が63.3%、1g群が36.7%。30日院内死亡率に有意差は認められませんでした(4.5% vs 4.6%、P = 0.219)。
一方で、有害事象は2g群でわずかに多く、特にCDIの発症率が高い傾向を示しました(1.2% vs 1.1%、P = 0.014)。
また、サブグループ解析では、人工呼吸器を装着した重症患者において、2g群で有意に死亡率が低下していました(17.2% vs 20.4%、P = 0.006)。

重症例で2gが有効と考えられる理由としては、重症肺炎患者では健康な人と比較してセフトリアキソンのクリアランスおよび分布容積が増加し、1g/日では十分な血中濃度を達成できない可能性があるためと考察されています。なお、本研究ではセフトリアキソンの具体的な投与法(例:2gを1回投与か、1gを2回投与か)には言及がない点に注意が必要です。

この結果から、冒頭の問い対しては、CDI発症率の差を臨床的にどう捉えるかによって
・基本的に2g/dayで統一
または
・挿管するような重症肺炎なら2g
・軽症〜中等症なら1g
と答えられるかもしれません。

②O'Connor FG. Heat-Related Illnesses. Ann Intern Med. 2025 Jul;178(7):ITC97-ITC112. Epub 2025 Jun 26. PMID: 40569698.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40569698/" (webで全文無料で読めます)
9分でわかるAI音声解説:https://notebooklm.google.com/notebook/575e6901-e24c-4c9f-9c38-60d5fd9d715a/audio

アメリカ内科学会の熱中症のレビューです。既知の内容も多いですが、注目すべき重要な記述を抜粋してご紹介します。

熱中症は軽症と重症に分類されますが、病態は必ずしも段階的に進行するとは限らず、いきなり最重症型を呈することもあります。
重症熱中症の罹患率と死亡率は、「どれだけ体温が上がったか」ではなく、「どれだけ長く高体温が持続したか」に強く関連します。
そのため、Rubleeらが提唱した救急外来での管理アルゴリズム(Table 3.)として、
熱中症の早期認識(5分以内)→10分以内に冷却開始→30分以内に39℃以下まで冷却する
が示されています。

また、Appendix Table 4.には具体的な冷却方法とその効果がまとまっています。
冷却方法 体温の低下速度°C/分
冷水に浸ける 0.13~0.35
冷水をかける 0.04~0.20
防水シートで氷/水に浸ける 0.14~0.17
氷/水に浸したタオル 0.11~0.16
冷たい水に浸したシーツ 0.05~0.16
水スプレー噴霧 0.03~0.17
受動的冷却 0.03
(脱衣+日陰に寝かせるなど)

予防の啓発に加え、病院前および病院内での熱中症の早期認識・早期冷却開始を意識して暑い夏を安全に乗り切りましょう。

③Simpson MD et al. Clinical Factors Associated With Ventricular Dysrhythmia in Emergency Department Patients With Severe QTc Prolongation After Drug Overdose. Acad Emerg Med. 2025 Jun 10. PMID: 40492421
薬物過剰摂取後に重度QTc延長を呈した救急患者における心室性不整脈の臨床因子

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40492421/
9分でわかるAI音声解説:https://notebooklm.google.com/notebook/eb7f6253-3e10-47bd-a3e6-364281744fb3/audio

薬物中毒に伴う重度QTc延長(QTc≧500)では、致死的不整脈や他心血管イベントとの関連が示唆されています。
一方で、実際の心室性不整脈の発生率はわずか0.7%~1.6%とされており、臨床現場でのアプローチは定まっていません。
本研究は、急性薬物中毒による重度QTc延長を呈した患者における、心室性不整脈のリスクを特定することを目的としました。

方法
・Toxicology Investigators Consortium(ToxIC)のコアレジストリに登録された2013年から2023年のデータを二次解析
・対象:QTc ≥ 500msを有する13歳以上の急性/亜急性中毒例
・Primary outcome:心室性不整脈発生(Vf or VT)
・Secondary outcome:死亡、心停止、リズムコントロール、ECMO導入

結果
・対象:1265例 
・心室性不整脈発生:48例(3.79%)
・主な暴露薬剤:ジフェンヒドラミン(16.4%)、クエチアピン(11.3%)、ブプロピオン(10.6%)、アミトリプチリン(4.43%)、シタロプラム(3.72%)
・リスクと関連した薬剤:ロペラミド(OR22, 5.3–86.1)、フレカイニド(OR10.5, 1.48–50.3)、ソタロール(OR17.6, 2.28–1.83)
・QTc時間 566(OR1.01, 1.01–1.02)時間もリスク因子でした
・多変量解析での独立リスク因子は以下の3つ
 ●A: Acidosis アシドーシス
  (aOR 3.02, 95% CI 1.42–6.23)
 ●B: Bradycardia 徐脈
  (aOR 3.12, 95% CI 1.35–6.90)
 ●C: Ciculatory shock ショック
  (aOR 4.54, 95% CI 2.07–9.75)
→ABCいずれも陰性の場合、心室性不整脈の陰性的中率98.2%でした
(発生率自体が低いので解釈に注意が必要)。
→Secondary outcomes(死亡、心停止、リズムコントロール、ECMO導入)でも、ABCすべてが有意に関連(p < 0.05)。

ABC、覚えやすいですね。
これまで、薬物中毒+QTc延長=不整脈リスクあるからモニターしっかりしようという甘い認識でしたが、
これからは、QT延長+ABC→致死的不整脈リスクと勉強になりました。
さらに、QT延長にこれらがあれば、積極的に補正を検討しようと思います。

本レジストリには電解質や低体温の正確な情報が含まれていないので、今後の研究にも期待したいです。