2025/05/16 文献紹介
みなさま、慌ただしいGWの救急診療お疲れ様でした。
文献班より5月前半の文献紹介の定期便をお届けします!
今回は京都府立医科大学の中村と聖路加国際病院の宮本が担当しております。
ラインナップは以下の通りです。
① 小児の前腕骨骨折をUSで評価しよう!
② 除細動のエネルギー、どんどんじゃんじゃん増やしたらどうなの?
③ バスキュラーアクセスカテーテルの先端構造の違いが合併症を減らす!
④ 痛くない静脈路確保をするには
これからいよいよ暑い日々が始まりますが、ぜひ涼しいところでゆっくり楽しんでください!
① Nalbant AF, et al. Diagnostic value of ultrasound in detecting forearm fractures in pediatric patients in the emergency department.
Am J Emerg Med. 2025 Apr 17;94:21-24.
doi: 10.1016/j.ajem.2025.04.037. Epub ahead of print. PMID: 40262288.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40262288/
「小児の前腕骨骨折をUSで評価しよう」
痛がっていてレントゲンで正しい肢位で撮れなかった・・・、レントゲン撮ったけど骨折として判断するべきか悩ましい・・・などなど、エコー所見を組み合わせて骨折の評価をする時もあると思います。
POCUS好きな我々文献班は過去にいくつか関連する文献を紹介させてもらっています!
小児橈骨遠位端骨折へのUS:https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001280
手骨折のwaterbathテクニック:https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001279
でもその精度ってどれくらいなのでしょう?
そしてどのあたりに当てて評価すべきなのでしょうか?
橈骨骨折または尺骨骨折の診断が疑われた計87名に対してリニアプローベを使用して骨折の評価を行い、最終的にレントゲンで評価を行いその精度を検討しています。
描出は、橈尺骨のそれぞれ掌側・背側および側方の計6箇所(図1を参照ください)で行っています。
結果として、
骨折がない場合には全件(100%)でUSでもそのような判断に至り、
・転位のある橈⾻⾻折に対するUSの感度は96.7%、特異度は100%
・転位のない橈⾻⾻折に対するUSの感度は94.6%、特異度は100%
・転位のある尺⾻⾻折に対するUSの感度は94.1%、特異度は100%
・転位のない尺⾻⾻折に対するUSの感度は60%、特異度は100%
でした。
非常に高い感度・特異度を示す結果となりました。
隆起骨折や若木骨折(図2に参考画像もあります)など普段悩ましい小児ならではの骨折においても高い診断精度を示した点は驚きです。(そこまで高い精度で当てられる自信ありませんが、練習あるのみです!)
正しくUSを併用して診断していきたいものですね!
② Tang H, et al. Escalating vs Fixed Energy Defibrillation in Out-of-Hospital Cardiac Arrest Ventricular Fibrillation.
JAMA Netw Open. 2025 Apr 1;8(4):e257411.
doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.7411. PMID: 40299385.
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2833222
(※無料で読めます!)
院外心停止(OHCA; Out-of-hospital cardiac arrest)VFに対するショックエネルギー量をどんどん増やしてみたら蘇生率はどうだったのか、という論文です。
pVTやVFなどのshockable rhythmのCPAに対する電気的除細動は、AHAでは「2回目以降のエネルギー量は初回と同等とし、より大きなエネルギー量を考慮しても良い」と記載しています。
ただ、いつからエネルギー量を増やしていくのか、という匙加減に関しては、実際には薬剤の使用状況やその担当医次第となることも多いと思います。
今回、200J→300J→360Jとジュール数を増やしながら除細動を行った場合(高エネルギー漸増群)と、200Jで固定して除細動を続けた場合(低エネルギー固定群)とで、shockable rhythmでも特にVFの停止率に差が出るのかを合計342名で比較しました。なおこれらの除細動はあらかじめそのようなジュール数になるように設定されたAEDを使用して行われました。
1回目の除細動と3回目の除細動の結果に有意差は認められませんでしたが、
3回以上除細動を受けた患者を含めると、高エネルギー漸増群でVFの停止率が有意に多くなりました。
高エネルギー漸増群 vs 低エネルギー固定群 の停止率
・3回目の除細動後
:218人中132人[62%]vs 124人中62人[50%];P= 0.04
・4回目の除細動後
:218人中142人[67%]vs 124人中69人[55%];P=0.03
・5回目の除細動後
:218人中149人[70%]vs 124人中70人[57%];P=0.02
・合計
:218人中157人[74%]vs 124人中76人[62%];P=0.03
最終的なsustained ROSCの割ありも漸増群で高くなる結果になりました。
市民や救急隊によりすでにAEDで除細動を数回行ってから搬入されることも少なくありません。AEDで除細動が実施される場合、そのジュール数は150Jであることが大半です。搬入後もVFが持続している場合には、多くの機器で推奨されている150Jからどんどんジュール数を上げてもいいかもしれません。
でも困ったことに、今回の研究では、日本では聞き馴染みのないMindary製が一貫して使用されていました。
確かに、300Jや360Jまで設定できる機器って遭遇したことがありません。
日本光電製は150J/200J/270J、フクダ電子製は150J/170J/200J、旭化成ゾールメディカル製は150J/200J、が設定可能なジュール数です。日本光電製なら少し対応できますが、どんどんジュール数を上げることは国内では難しそうです。
難治性VFに対する除細動に関しては、実際には以前紹介させていただいたDSED
(https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001257
, https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001283
)
が現実的な対応になりそうです。
③Zhou Z, et al. A randomized controlled trial of catheters with different tips and lengths for patients requiring continuous renal replacement therapy in intensive care unit. Crit Care. 2025 Apr 11;29(1):148.
doi: 10.1186/s13054-025-05389-5. PMID: 40217330; PMCID: PMC11987356.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40217330/
持続的腎代替療法(CRRT)時のデバイス選択時の閉塞予防に、回路内の「膜」に気を配ることが多いと思いますが、留置する「カテーテル」も軽視できません。
近年、CRRT用のバスキュラーアクセスカテーテルの先端構造の違いに注目が集まりつつあり、その違いを比較した研究をご紹介します。
本研究は中国の単施設ICUで2021年1月から2022年12月に実施されたRCTです。
ICUに入室しCRRTを開始した18歳以上の351人が解析対象となりました。
ランダム化割付の結果、大腿静脈から挿入したCRRT用カテーテルの先端構造によって、20cmサイドホール群(116人)、20cmステップチップ群(117人)、25cmステップチップ群(118人)で比較されました。
先端構造についてはレビュー文献(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27913268/ )に記載されていたこちらの図(https://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S2352556816302223-gr4.jpg )を参照してみてください。bがサイドホール、eがステップチップです。
主要アウトカムとしてカテーテル機能不全の発生率とカテーテル寿命が、副次的アウトカムとして、フィルター寿命、全死亡率、入院期間、CRRT実施期間、有害事象が評価されました。
結果を要点のみ以下に記載します。(Table S1-5にまとめられています)
・ステップチップの方がサイドホールよりも機能不全の発生率が有意に低かった。(17.7% vs 35.7% P=0.001)
・25cmの方が20cmよりもカテーテル寿命が有意に長くなった。(6.4日 vs 5.0日 P=0.019)
・25cmの方が20cmよりもフィルター寿命が有意に長くなった。(36.5時間 vs 28.0時間 P=0.001)
・ステップチップの方がサイドホールよりも血栓症の発生頻度が有意に少なくなった。(13.31/1000カテーテル日 vs 25.48/1000カテーテル日 P=0.019)
・BMIが上昇すると機能不全リスクが上昇し(HR: 1.052 P=0.036)、ステップチップに優位性が見られたのはBMI<24.2においてのみだった。
・その他の有害事象に有意差は見られなかった。
ステップチップの優位性を示す結果となりましたが、カテーテル挿入位置が大腿静脈であること、カテーテル間で径が一致していないこと(ステップチップは13Fr、サイドホールは11Fr)には注意が必要です。本研究が実施された中国では、CRRT用カテーテルは大腿静脈に留置されることが多いようですが、KDIGOガイドラインでも内頸静脈が第一選択とされています。
一方、文献班のメンバーが所属している施設ではシンメトリックチップとサイドホール(上記の図のf)であるパワートリアライシスが人気のようです。
みなさんの施設ではどういった基準でカテーテル採用されていますか?
④Akhgar A, et al. Comparison of the effects of vapocoolant spray and topical anaesthetic cream (lidocaine-prilocaine) on pain of intravenous cannulation: a randomised controlled trial. Emerg Med J. 2025 Mar 21:emermed-2024-214479.
doi: 10.1136/emermed-2024-214479. Epub ahead of print. PMID: 40118519.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40118519/
静脈路確保時の鎮痛について真剣に考えたことはありますか?
一般的に、日本では末梢静脈程度の穿刺は痛くて当たり前という文化だと思います。
以前に、こちら(https://www.emalliance.org/education/dissertation/6
)でアイスバッグを使った冷却法など3手法で穿刺時の疼痛緩和効果を比較した文献をご紹介しました。
今回は、エムラクリームでお馴染みの「リドカイン・プロカインクリーム」と「冷却スプレー」で比較したRCTを紹介します。
イランにある三次救急病院の救急外来で2024年2月から5月に単施設で実施されました。
静脈路確保を必要とした意識晴明な18〜65歳の77人が解析対象となり、ランダム化割付の結果、冷却スプレー群(40人)とリドカイン・プロカインクリーム群(37人)で比較されました。
冷却スプレーは穿刺部位から15cm離して30秒間噴霧し直後に穿刺、リドカイン・プロカインクリームは穿刺部位に塗布してフィルムで密封して45分放置し拭き取り後に穿刺されました。
主要アウトカムであるNRSはスプレー群中央値2 vs クリーム群中央値3(p=0.09)で有意差はありませんでした。
副次的アウトカムは副作用、リピート希望でした。副作用には主に皮膚の蒼白や一時的な知覚異常が見られ、スプレー群3人(8%)vs クリーム群21人(56%)(p=0.03)とスプレー群で有意に少ない結果となりました。リピート希望については、スプレー群33人(83%)vs クリーム群21人(57%)(p=0.02)とスプレー群で有意に高い結果となりました。
静脈路確保が必要な状況で穿刺まで45分放置?というツッコミはあるかと思いますが、スプレーでは30秒の前処置で副作用のリスク少なく、クリームと同様の鎮痛効果が得られていました。
ちなみに、この冷却スプレーはエチルクロライドという麻酔薬を含有しており、薬効と冷却による神経終末の麻痺による鎮痛効果が得られ、欧米では製品化され普及しています。
非侵襲、即効性、安価、安全という観点から、疼痛に過敏な患者に有効な可能性がありますが…、、日本ではお目にかかることはほとんどないと思います。
並行輸入などで入手可能だと思いますので、是非とも取り寄せて使用してみては?!
今回の文献紹介は以上です!
これからも文献班をよろしくお願いします!
聖路加国際病院 救急科・救命救急センター 宮本 颯真 (Sohma Miyamoto)
Department of Emergency and Critical Care Medicine, St. Luke’s Hospital