2025/05/01 文献紹介
文献班定期投稿です!
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現場の相談ごとやTIPSが飛び交っています。
それでは今回の文献紹介です。川口と辻が担当します。
今回のラインナップは
② 集中治療におけるVEXAS症候群の臨床的特徴と治療
②外傷蘇生チームのリーダーシップ評価尺度の妥当性
③救急医の生産性に関わる要因
です!
①Satoh K, et al. Clinical features and treatments of VEXAS syndrome in critical care: a scoping review. Crit Care. 2025 Apr 17;29(1):154. PMID: 40247386
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12004820/
EMA for Research (EMARhttps://research.emalliance.org/
)から出版された、VEXAS症候群の重症治療に焦点を当てた初めてのスコーピングレビューです。
(ちなみにスコーピングレビューとは、既存の文献を網羅的に調べ、研究の範囲や性質、ギャップを特定することを目的とした文献レビューの一種です。ナラティブレビューとシステマティックレビューの中間に位置し、より短期間で、かつ広くエビデンスを概観することを目的としています)
・VEXAS症候群とは?
2020年に提唱された新しい疾患概念 (Vacuoles, E1 enzyme, X-linked, Autoinflammatory, Somatic syndrome)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2026834
主に50歳以上の男性に発症する後天的な自己炎症性疾患(推定罹患率 1/4269)
X染色体上のUBA1遺伝子の後天的変異が原因
・このレビューからわかること (重症例55例の分析より)
臨床的特徴:
発熱、体重減少、皮疹、関節痛などの全身性炎症症状が先行。
重症化するとショック、HLH、ARDS、血栓症、気道浮腫(軟骨炎関連)などを呈しうる。
ICU入室率 約30%、死亡率 18-40%と予後不良の可能性。
敗血症が最多の死因。感染症合併が多い。
注意点: 典型的な合併症(肺、血栓、軟骨炎)の頻度は必ずしも高くない可能性があり、診断の手がかりが少ない
診断の遅れ: 敗血症や成人Still病などと誤診されやすい。確定診断に至るまで数年かかるケースもある(Fig.3参照)
治療:
標準的な集中治療に加え、ステロイドや免疫抑制剤/免疫調節薬(JAK阻害薬など)が用いられるが、確立された治療法はない。
感染症リスクとのバランスが重要。
・救急・集中治療でのポイント
原因不明の発熱・炎症・血球減少を伴う中高年男性(特に自己免疫疾患に対する治療抵抗性を示す場合)では、VEXAS症候群を鑑別に挙げる。
診断には遺伝子検査が必要だが、まずは疑うことが重要。
重症化リスクが高いため、早期からの血液内科・リウマチ科・眼科・皮膚科などの診療科との連携が鍵。
症例数がまだ少なく、診断も容易ではありませんが、致死的な経過をたどる可能性のある疾患です。我々救急医が「もしかしたら?」と疑うことで救命につながるかもしれません。
②Rosenman ED, et al. Validity evidence of a resuscitation team leadership assessment measure for use in actual trauma resuscitations. AEM Educ Train. 2025 Apr 7;9(2):e11061. PMID: 40196189
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11975050/
外傷蘇生チームのリーダーシップの評価に関する論文です。
筆者らはBARS (behaviorally anchored rating scale)アプローチを用いた外傷チームリーダーシップ評価スケールを開発し、その妥当性を検討しました。Table S1.が実際の評価シートで、全12項目についてそれぞれpoor - average - excellentの3段階で評価ができるようになっています。
例
項目「チームリーダーを引き受ける」
poor: リーダーの役割を確立しない、他のメンバーに最初のタスクを任せる
average: 役割を明示しないがリーダーとして行動する
excellent: 自分がリーダーであることをチームに明言する
項目「チームから意見を求める」
poor: 意見を求めない、一部の個人にのみ求める
average: チーム全体から意見を求めるが、意見交換が不足している。
excellent: チーム全体から積極的に意見を求め、反映させる。
本スケールの評価者間信頼性(平均ICC1k = 0.90、範囲0.85–0.98)や階層ベイズ回帰分析によるリーダーの総合スコアと患者ケアの関係の予測力(β = 7.06、95% HDI 3.76–10.43)が高いことは信頼性や妥当性が高いことを示していますが、単施設での検証であることやビデオレビューでの評価であるといったlimitationもあります。実際の臨床現場でのリアルタイムの評価に用いることができるかどうかについてはさらなる研究が必要ですが、フィードバックの1つの指標になりそうです。
③Oskvarek JJ, et al. Predictors of Emergency Physician Productivity in a National Emergency Medicine Group. Ann Emerg Med. 2025 Mar 27. Epub ahead of print. PMID: 40152844.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40152844/
新年度が始まり、まだ環境に慣れず「思うように動けない…」と感じている方も多いかもしれません。
そんな中、救急医の生産性に関する論文をご紹介します。
● 方法
対象:全米184施設に所属する2099人の救急医の234,146シフト
除外:
・6時間未満/14時間を超えるシフト
・1時間あたり患者数1人未満
・教育病院
など
分析方法:多変量線形回帰モデルで医師・シフト・施設要因を調整
アウトカム:
② 生産性に影響する要因
②生産性と72時間以内の再来院・再入院率の関係
●生産性とは?
本研究では「1時間あたりの患者数」を生産性の指標にしています。
加えて、「1時間あたりのRVUs(米国の診療報酬単位)」も参考値として提示されており、8以上が高いとされます。
●結果
・中央値(IQR)
患者数/時間:1.88(1.5-2.25)
RVUs/時間:8.93(7.18-10.93)
・生産性が高い傾向⬆︎
・若手医師(55歳未満までは35歳未満と有意差なく、55歳以降で低下傾向)
・男性
・その施設での勤務年数が長い(最大10%↑)
・直近30日の勤務回数が多い
・生産性が下がる傾向⬇︎
・夜勤(約10%↓)
・月曜以外の勤務
・長時間シフト(過去3日〜30日前)
・同時間帯の医師数が多い
・滞在時間6時間超の患者が多い
そして、生産性が高くても、再来率や再入院率に悪影響はありませんでした。
これらの結果は、特にシフト作成時などに、時間帯・曜日・勤務年数を考慮する上で参考になる可能性があります。
一方で、本研究の指標や前提には、慎重な解釈も必要だと感じます。
アメリカのERは、日本の救急体制とは大きく異なります。
また、「生産性」を患者人数や診療報酬のみで定義していいのか、
「医療の質」を再来や再入院数だけで定義していいのか・・など議論の余地があると感じました。
特に、救急医の醍醐味とも言える、複雑な社会的背景がある患者への対応など時間がかかる診療は、
生産性の指標では評価されにくい可能性があります。
この論文だけで何かを結論づけるのは難しいですが、「生産性」という視点から救急医療を見直すというアプローチは新鮮でしたので、ご共有させていただきました。
皆さんのご意見もぜひ伺えたら嬉しいです。
EMA文献班
国際医療福祉大学成田病院 辻 晴香
聖マリアンナ医科大学 川口剛史