2025.04.03

2025/04/03 文献紹介

新年度になりましたね!みなさまは今年度どんな1年にする予定ですか?
3月後半の文献紹介ではサクッと学べる手技に関する文献を用意しましたので、
ぜひご覧になってください。

①「肘内障は回内法firstがよさそう」
Öztürk İ, et al. Comparison of supination/flexion maneuver to hyperpronation maneuver in the reduction of radial head subluxations: A randomized clinical trial. Am J Emerg Med. 2025 Feb:88:29-33.
doi: 10.1016/j.ajem.2024.11.026.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39579408/

肘内障の整復手技としては回内法と回外法の2種類が知られています。手技の復習をしたい方はNEJMの教育動画をどうぞ。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMvcm1211809) )
2つの手技の優劣について近年のエビデンスを振り返ると、これまでに複数のRCTが存在し、2017年のCochraneレビューでは「回内法のほうが初回成功率は高いかもしれないが、エビデンスの質は低いため、質の高いRCTが望まれる」と結論づけられていました。その後に逆の結果を示すRCTも発表され(誤りの指摘が本文中にあり)、優劣についての見解は一致していませんでしたが、従来のRCTで指摘されていた選択バイアスや検出バイアスなどを可能な限り排除するようにデザインされたのが、今回ご紹介するRCTです。

本研究は 6 歳以下の肘内障患児119名を対象に、回外法と回内法の整復成功率を検討しています。中間解析の結果をもって目標症例数(234名)の約半分で早期終了されました。また整復成功かの評価者は盲検化されていました。

Primary outcomeは初回整復の失敗率で、回内法群のほうが回外法群よりも初回失敗率が有意に低く(回内法群9.8% vs. 回外法群 24.2%, p=0.037)、すなわち初回整復成功率が高かったことが示されました。一方、Secondary outcomeである2回目以降の整復失敗率、72時間以内の再発率、整復に伴う痛みや有害事象などでは両群で大きな差はありませんでした。

著者らは、この結果から「肘内障整復の最初の手技としては回内法のほうが優れている可能性が高い」と結論づけています。単施設のRCTであるという弱みはありますが、回内法の優位性を強化する結果でした。回内法firstがスタンダードになりつつあるようです。

続いてばんどう整形外科・ファミリークリニックの大林からはこちら。

ファスナーによる皮膚の食い込み(Zipper entrapment)に対応したことがありますか?
かくゆう私も過去に一例だけ、居酒屋で用を足したあとにあわててファスナーを上げてしまった男性でした。
なかなか出会う機会のない損傷ですが、名著「マイナーエマージェンシー」にも掲載されているので、対応は知っているという方も多いと思います。
潤滑油で滑らせる、ニッパーなどの金属用ハサミでスライダーの支柱を切る、ドライバーをスライダーにねじ込んで隙間を広げるなどの方法があるのですが、今回はさらに2つの方法を紹介したいと思います。
1つ目はスライダーの支柱を切る新しい方法、2つ目はスライダーの隙間を広げる方法です。

②Sarin A and Grover P. Zipper Entrapment of the Eyelid with a Unique Removal Technique.
J Emerg Med. Article in Press.
https://www.jem-journal.com/article/S0736-4679(25)00031-9/fulltext ※無料で読めます。

まずはリンクを開くと痛そうな写真が目に入ってきます。
スウェットのファスナーがまぶたに食い込んでしまったようです。
筆者たちは上で紹介したような方法を試してみましたが、はずれなかったのである方法を試しました。
なんとギプスカッターを使ってスライダーの支柱(Figure 4のMedian bar)を切断したのです。
連続で刃を接触させると熱が発生してしまうので、小刻みに優しく当てるのがポイントとのこと。
あと熱された金属片が飛び散り熱損傷を起こすことも考慮して吸引を用意しておくといいでしょう。(この症例ではバキューム付きギプスカッターを使用しています)

というわけで、早速やってみました。
もちろん自分にファスナーを食い込ませるようなことはしていませんが、ギプスカッターでMedian barの切断はできました。
少し時間はかかること、体感ですが1秒以上接触させているとスライダーが振動するため疼痛を誘発しそうなことは注意点です。
ギプスカッターの目的外使用になるため、どうにも切断できないときの手段として覚えておきましょう!

③Piszker A, et al. Improving on the Fly: Comparison of a Novel Technique for Emergent Zipper Release to a Well-Established Technique in a Simulated Setting. J Emerg Med. 2024 Oct;67(4):e351-356.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39191623/"

こちらは鶏皮を使ったシミュレーション研究です。
スライダーの支柱をワイヤーカッターで切断する方法(median bar technique : MBT)と新しい方法(Novel release technique:NRT)を22人の救急レジデントや指導医が実行して比較しました。
どちらもスライダーを分解する方法ですが、MBTはファスナーが閉まっていく方向から支柱を切断する方法で、NRTはすでに閉まっている側のスライダーの隙間にワイヤーカッターを滑り込ませてスライダーを広げる方法です。
11人が先にMBT、残る11人が先にNRTを試行し、その後もう一方の方法でファスナーの解除を試みました。
結果、解除までの時間はどちらの手技も中央値が30秒以内、成功率も95%以上であり、NRTはMBTと遜色ない解除成績でした。

あくまで鶏皮を使ったシミュレーションですが、スライダーそのものが皮膚に食い込んでいる症例などで活躍しそうです。
シミュレーション自体もファスナーと鶏肉さえ買って来ればすぐにできるので試してみてはいかがでしょうか?

最後におまけ、みなさんファスナーのことをなんと呼びますか?
ファスナー?ジッパー?チャック?どれが正しいんでしょうか?
興味のある方は以下のリンクを覗いてみてください。
https://www.ykk.com/ykk/mame/fas_01.html

湘南鎌倉総合病院 救急総合診療科 田口 梓
ばんどう整形外科・ファミリークリニック 大林 正和