2025/03/15 文献紹介
3月前半の文献紹介は沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の大方が担当します。
3月に入りようやく暖かくなってきたかと思えば、急に寒くなる日もあり体調管理に注意をしないといけませんね。
今回のラインナップは
①外傷性CPAへの病院前処置 共同ガイドライン
②重症外傷初期診療の超音波の使用法
③低体温を伴う心停止の蘇生率・神経学的転帰、もしかしたら過小評価している!?
です。
まずは沖縄県立中部の岡です。
①外傷性CPAへの病院前処置 共同ガイドライン
Amelia M Breyre, et al.
Prehospital Management of Adults With Traumatic Out-of-Hospital Circulatory Arrest-A Joint Position Statement.
Ann Emerg Med. 2025 Mar;85(3):e25-e39.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39984237/
「外傷性CPAへの病院前処置 共同ガイドライン」
外傷性CPA、そういえばどうすれば良いんだ?
もちろん外傷以外のCPAではBLS/ACLSを行います。
…では、外傷の場合も同じ対応で良いのか?
外傷の場合、行うべき検査・処置が多いです。ドクターカーなどの病院前診療では時間と資源が限られています。
…あれ?そういえば外傷初期診療のコースで教わらなかったような。
今回のガイドラインでの推奨のポイントは以下です。
救命処置
• 外出血の管理: 直接圧迫、創部のパッキング、止血帯。
• 気道確保: 最も侵襲性が低い手技で行う。病院前挿管は⽣存退院結果と関連がないばかりか、挿管によって搬送が遅れる可能性があります。他の処置が優先される場合には挿管は後回しでOK。
• 胸腔脱気: 緊張性気胸が疑われる場合、例えばエアが入らない、換気圧が高い、打診で鼓音、気管偏位、皮下気腫などでは、胸腔ドレナージなどを行います。胸部外傷のない患者へのルーチンの両側脱気は推奨されません。(つい、やってしまいがちです…。)
• 胸骨圧迫: 非外傷では基本の救命処置ですが、外傷では有用性がはっきりしていません。他の救命処置を優先すべきであり、実施を考慮する程度にとどまります。(意外です)
薬剤使用
• アドレナリンの使用: 非外傷では一般的ですが、外傷においては効果が明確ではありません。他の処置が優先されるため、ルーチン使用は推奨されません。(こちらも意外です)
超音波検査(POCUS)の活用
• 予後評価: 心収縮がない場合、予後の判断材料になります。ただし、他の処置の後に実施すべきです。
蘇生中止の判断
• 外傷のメカニズム(穿通性外傷かなど)や初期波形のみを根拠としてはいけません。複数の要素(介入までの時間、現場状況、患者の全体像など)を総合的に判断します。
• 特に、PEAや⼼静⽌は生存率が非常に低いものの、これだけをもって蘇生中止と判断するのは慎重であるべきです。蘇生時間のみで蘇生中止を判断する明確なカットオフ時間は、現時点では不明です。
実施上の考慮点
• 時間管理の重要性: 救命処置の効果は、病院到着までの時間に大きく左右されます。(気をつけます)
さらにまとめると、以下です。
・早期の患者識別と迅速な輸送先の決定。
・可逆的な原因(出血、気道閉塞、胸部外傷など)への迅速な対応。
・アドレナリンのルーチン使用を避ける。
・複数の要素を考慮した蘇生中止の判断。
現場での迅速な判断と処置が生存率向上に直結します。
救急医としての臨床判断力を養う上で非常に有用です。
いうまでもなく、各地域の資源やシステムの特性に合わせた柔軟な対応が必要です。
欧米では蘇生を病院前で(死亡確認まで)完結することが多いです。
論文タイトルには病院前と記載されていますが、病院前に限らず外傷CPA蘇生法の一般的な考え方に当てはめてよさそうです。
②重症外傷初期診療の超音波の使用法
Sam Hutchings et al.
How we use ultrasound in the initial management of the critically ill trauma patient.
Intensive Care Med. 2025 Feb 17. doi: 10.1007/s00134-025-07802-7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39961850/
(無料で読めます)
重症外傷初期診療の超音波の使用法についてまとめてくれています。
「頭からつま先まで」アプローチで解説しています。
CTが普及しているものの、即時情報を得られる超音波は依然として重要です。
・即座に出血の有無を確認し、外科的介入の必要性を判断できます。
・CTが必要か、どれくらい急いで検査すべきか判断できます。
何を評価するか?
Fig.1を見るだけでも有用です。
脳の灌流障害の検出
経頭蓋ドプラー超音波 (TCD):中大脳動脈の血流速度を評価します。
拍動指数(PI =(最⼤収縮期⾎流速度-最⼩拡張期⾎流速度)/(平均⾎流速度))> 1.4と拡張期血流速度 (FVd) < 20 cm/s で頭蓋内圧の上昇による脳血流低下を示唆します。
CT検査の前に、脳灌流を改善するために浸透圧療法や⽬標血圧の引き上げを考慮します。
日本集中治療学会がYoutubeにショート動画を挙げてくれています。
https://www.youtube.com/watch?v=zRDO2dyJYBU
視神経鞘径 (ONSD):視神経鞘の直径が6mm以上であれば頭蓋内圧亢進を疑います。
気胸・血胸の検出
胸部超音波:肺スライディングが消失していれば気胸を疑います。
超音波は胸部X線よりも高感度です。
出血の特定
FAST:腹腔内、心嚢、胸腔の出血を評価します。
⼼収縮能も同時に評価できます。
血圧が安定しない患者では、CTより先に手術室に直行する判断材料になります。
隠れた血液量減少の検出
出血性ショックでは血圧低下が遅れて現れることがあります。
IVC (下大静脈) の虚脱率: >20%であれば低血量を示唆します。
LVOT VTi(左室流出路速度時間積分値):心尖部五腔像で確認します。1 回拍出量の指標になります。
陽圧換気中のIVC虚脱率20%以上およびLVOT VTi変動率10%以上で血液量減少の指標として⽤います。
経頭蓋ドプラー超音波 (TCD)はやったことがありませんでした…。
ICUで行うことが多いようです。(集中治療の雑誌ですし)
経験者の話では、一度経験すればそれほど難しくない手技だそうです。
ER滞在時間が長い場合、ベッドサイドで繰り返し評価を行いながら経過を観察できるのも利点です。
続いて福岡徳洲会病院の大方です。
③低体温を伴う心停止の蘇生率・神経学的転帰、もしかしたら過小評価している!?
Konrad Mendrala , et al.
Outcomes of extracorporeal life support in hypothermic cardiac arrest: Revisiting ELSO guidelines
Resuscitation 2024 Dec:205:110424.
PMID:39505197
3月となり暖かくなってきましたが、今年度の冬は低体温の患者が多かったような気がしています。
低体温といえば致死的不整脈合併など、心停止として運ばれてくることも珍しくないと思います。そのときみなさんはどのような対応をしていますか?
まず、ELSOガイドラインにおける心停止患者のECLS適応基準(ELSO criteria)をご存知でしょうか?
目撃ありのCPA、初期波形が心静止ではない、no flow timeが5分未満、70歳未満、60分以内のECLS開始、ETCO2が10mmHg以上、末期臓器不全や大動脈弁逆流が明らかに認められないことが挙げられます。
体温にかかわらず、心停止に対するECLSの適応として上記が提唱されていますが、これらの基準が強固なエビデンスに基づいているわけではないようです。
低体温を伴う心停止の患者において、私の施設ではまだまだ体外循環の使用はほぼなく、従来の復温と心肺蘇生をしていますが、ROSC率は低く神経学的転帰も良くない印象でした。
しかしこの考えを見直す必要があると感じ、この文献を紹介することにしました。
この文献は後方視的多施設研究で、ELSO criteriaのうち70歳未満、目撃あり、初期波形が心静止ではないという3つの項目に着目し、全て満たす群とそれ以外の群のECLSのアウトカムを評価しています。
対象は18歳以上の深部体温が28度以下の低体温を伴う心停止の患者です。
予後12ヶ月以内の合併症がある、ホスピスケアを受けている、生活で常に補助が必要、低体温以外の理由で血行動態が不安定になった人は除外されています。
127人が対象となり、3項目を全て満たした患者は62人、1つ以上満たしていない患者は65人でした。
結果ですが、3項目全てを満たした患者の38人(61%)が生存退院し、うち34人(89%)が良好な神経学的転帰でした。
一方、それ以外の患者の24人(37%)が生存退院し、うち20人(83%)が良好な神経学的転帰でした。つまり約30%が良好な神経学的転帰で生存退院しました。
みなさんはこの結果を受けてどう思われますか?
わたしはこんなにも多くの人が救命され、神経学的転帰も良いのかと驚きました。
n数が少ないこと、後方視的研究であること、3項目以外の他のELSO criteriaの影響が十分に考慮されていないなどの制約があり、この結果をそのまま受け入れることはできません。
さらに、本研究の対象地域であるポーランドは寒冷地域であり、温暖な地域への一般化には慎重な解釈が求められます。
しかしこれまでの低体温を伴う心停止のECLS適応を狭く見積もっていたかもしれません。
今後の大規模な研究によって、この結果の妥当性が検証されることを期待しています。
以上、3月前半の文献紹介でした。