2025/02/16 文献紹介
大寒波も過ぎ去り、平常に戻りつつある今日ですが、2月前半の文献紹介です。
今回は文献班の聖路加国際病院の宮本と、京都府立医科大学附属病院の中村から以下の4文献をお送りします。
② 血中エタノール濃度測定のための浸透圧ギャップ利用
③ 血流感染症の抗菌薬治療期間は7日間でも大丈夫?
④ プロカルシトニン測定は敗血症での抗菌薬中止の指標となる?
まずは宮本から2文献です。
① Utsumi S, et al. Tranexamic Acid in Pediatric Traumatic Brain Injury: A Multicenter Retrospective Observational Study. Ann Emerg Med. 2025 Feb;85(2):101-108.
doi: 10.1016/j.annemergmed.2024.07.014. PMID: 39365206.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39365206/
トラネキサム酸(TXA)に関する文献はこれまでも頻繁に扱っておりますが、今回は小児の頭部外傷に対するTXAの投与に関する文献を紹介します。
これまで、頭部外傷に対するトラネキサム酸の投与に関する研究の一つとして、CRASH-3 試験では、「GCSが9点以上の軽~中等度の脳損傷の患者の場合は,TXA投与による脳損傷関連死の予後改善効果を認めたが、GCSが8点以下の重症患者の場合は予後改善効果を認めなかった」と報告しています。ただ、包含患者は成人患者のみでした。
現在、抗血栓薬内服中の高齢患者の有症状性の軽症脳損傷に対するTXAの投与に関するCRASH-4試験が進行中であり、結果が待ち遠しいところです。
それでは小児の頭部外傷に関してはどうでしょうか。これまで小児の頭部外傷でTXAの投与の可否やその適応に関して悩んだことはありませんか?
今回紹介する文献に使用されたデータは本邦の18歳未満(中央値:13歳)のGCS3~8点の重症頭部外傷患者です。最終的に368名が研究に含まれ、そのうちTXAの投与を受けた患者は37%に相当する137名でした。大半が鈍的頭部損傷であり、頭部以外に外傷を伴う患者も含まれています。
必要変数のデータが欠損している26名を除いた342名を検証した結果、30人 (14%) が死亡し、退院時に102/225人(45%)のGOS スコアが4未満でした。TXA投与は死亡率 (調整オッズ比 [aOR] 1.25、95% 信頼区間[CI] 0.61 〜 2.54) または神経学的転帰不良(aOR 0.86、95% CI 0.47 〜 1.56) のいずれとも関連していませんでした。
CRASH-3でも論点の一つとなりましたが、その投与タイミング等に関しては検討できておらず本研究のlimitationに挙がります。
小児患者では特に、少しでも神経学的予後が良くなってくれ・・・!!と思いながらTXAを投与してしまうものですが、残念ながら現時点ではその効果は明らかではないようです。
② Marino R, et al. Ethanol and the Limitations of the Osmol Gap. Ann Emerg Med. 2025 Jan 24:S0196-0644(24)01303-9.
doi: 10.1016/j.annemergmed.2024.12.022. PMID: 39864007.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39864007/"
日常臨床で浸透圧ギャップを使用する例として、血中エタノール濃度の推定に利用したことはありませんか?
ご存知の通り、血中エタノール濃度の推定値は、【浸透圧ギャップ×4.6(mg/dl)】で計算されます。実測のエタノール濃度と合わせて、現在生じている浸透圧ギャップを生じている外因性物質がアルコールのみで良いのか、それとも他の外因性物質の摂取を疑うべきなのかを判断するためにも使用する機会は少なくないかと思います。
でも、明らかにアルコールしか摂っていなさそうなのに計算が合わない。。。そんな経験もあるのではないでしょうか?
今回筆者らは健康なボランティアに血中エタノール濃度>200mg/dlを目標として経口でアルコールを摂取させ、その後の血清浸透圧およびエタノール濃度の測定、浸透圧ギャップの計算を行いました。なお、浸透圧ギャップが10以内であれば正常値とみなされました。
参加者のアルコール摂取直前およびの2/4/6時間後に血液検査と計算をした結果、おおよそ正しく推測できたと考えられたのは全体の79%でした。ただ、開始時点でも18%に当たる4名の被験者で浸透圧ギャップが10 を超えており、それらが本結果に影響した可能性も否定できません。
なお、4.6以外の他の係数を使用して検討されましたがやはり係数は4.6の方がズレは少なかったようです。
推測式を用いても必ずしも全例で結果が一致するとは限らないこと、限界があることを知っておくことは重要です。
一部では元から浸透圧ギャップが存在している人がいる、ということも理解しつつ賢く使用していきたいものです。
続いて、中村から2文献です。
近年、耐性菌を防ぐ様々な努力がなされていますが、今回はそうした取り組みに繋がる、抗菌薬治療期間の短縮についてご紹介します。
③ Daneman N, et al. Antibiotic Treatment for 7 versus 14 Days in Patients with Bloodstream Infections. N Engl J Med. 2024 Nov 20. Epub ahead of print.
doi: 10.1056/NEJMoa2404991. PMID: 39565030.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39565030/"
1文献目は、2014年10月17日から2023年5月5日に7カ国74施設で実施されたRCT(BALANCE試験)です。
血流感染症患者の抗菌薬治療期間を短縮できるか、7日群 vs 14日群に分け、3608例が対象となりました。
免疫不全患者、人工心臓弁・血管内グラフトの存在、心内膜炎・骨髄炎・化膿性関節炎・未排膿の膿瘍・未除去の人工物関連感染など長期治療を要する感染症、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌などの血液培養で一般的な汚染菌、黄色ブドウ球菌、真菌に関連した患者は除外されました。
主な感染巣は尿路42.2%、腹腔内または肝胆道系18.8%、肺13.0%、血管カテーテル6.3%、皮膚・軟部組織5.2%でした。
主要アウトカムは血流感染症診断から90日以内の全死因死亡率でした。
結果、7日群は14.5%(261/1802例)、14日群は16.1%(286/1779例)となり、差は-1.6%(95.7%CI: -4.0〜0.8)で期間短縮しても非劣性となりました。
サブグループ解析では感染巣が尿路、腹腔内・胆道、皮膚・軟部組織の場合は非劣性でしたが、呼吸器やその他・不明の場合は非劣性とならず、個々の症例での吟味が必要そうです。
また、本研究では多くの症例が除外されている点には注意が必要です。感染巣や起因菌、患者の背景を元に、基本に忠実な診療を行なったうえでのスパイスにはなるかもしれませんね。
④ Dark P, et al. ADAPT-Sepsis Collaborators. Biomarker-Guided Antibiotic Duration for Hospitalized Patients With Suspected Sepsis: The ADAPT-Sepsis Randomized Clinical Trial. JAMA. 2024 Dec 9. Epub ahead of print.
doi: 10.1001/jama.2024.26458. PMID: 39652885.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39652885/"
2文献目は、2018年1月1日〜2024年6月5日にイギリスの41のICUで実施されたRCT(ADAPT-sepsis試験)です。
敗血症患者の抗菌薬治療期間をプロカルシトニン(PCT)やCPRのガイド下で短縮できるか、PCT群 vs CRP群 vs 標準群に分け、2760例が対象となりました。
担当医には毎日書面で①抗菌薬中止を強く支持、②抗菌薬中止を支持、③標準療法を支持、のどれかが助言され、各群では以下の基準で助言がなされました。
PCT群:①PCT<0.25ng/mL、②PCTがベースラインから80%以上低下もしくは0.25≦PCT≦0.50ng/mL、③それら以外
CRP群:①CRP<2.5mg/dL、②CRPがベースラインから50%以上低下、③それら以外
標準群:常に③標準療法を支持
主な感染巣は呼吸器49%、腹腔内24%、尿路13%、血流感染10%、皮膚・軟部組織8%でした。
主要アウトカムは無作為化から28日以内の抗菌薬総投与期間、全死因死亡率でした。
結果、抗菌薬総投与期間はPCT群9.8日 vs 標準群10.7日(平均差0.88; 95%CI: 0.19〜1.58, p=0.01)と、PCT群で有意に短縮しました。CRP群は10.6日と、標準群との差は見られませんでした(平均差0.09; 95%CI: -0.60〜0.79, p=0.79)。
全死因死亡率はPCT群20.9% vs 標準群19.4%(絶対差1.57; 95%CI: -2.18〜5.32; p=0.02)で非劣性となりました。CRP群は21.1%で、標準群との非劣性は確証が得られませんでした(絶対差1.69; 95%CI: -2.07〜5.45; p=0.03)。
SSCGやJ-SSCGでもPCTを指標とした抗菌薬中止は弱く推奨されており、本研究でもPCTによりリスクを上げず抗菌薬投与期間を短縮する可能性が示唆されました。
但し、本研究では担当医は書面での助言を受けたのみであり、PCTやCRPの数値自体を実際に確認しているわけではないことに注意が必要です。
抗菌薬投与期間を短縮できるメリットは大きいですが、バイオマーカーに頼り過ぎるのは避け、臨床像などから総合的に判断する姿勢は続けていきましょう。
今後とも、文献班をよろしくお願い致します。
京都府立医科大学附属病院 救急医療科 中村侑暉