2025.01.03

2025/01/03 文献紹介

2025年あけましておめでとうございます。
文献班の東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科の竪と山本より、文献紹介をお届けします。
今年も文献班をよろしくお願いいたします。

ラインナップは以下です。
① LLM(Large Language Model)の救急外来における臨床的な推奨の精度
② 急性心筋梗塞に対するトロポニンの0/30min protocol(SPEED-30 study)
③ ジルチアゼム投与前のカルシウム前投薬

まずは竪から以下の2つを紹介します。

①Christopher Y K Williams, et al.
Evaluating the use of large language models to provide clinical recommendations in the Emergency Department
Nat Commun 2024 Oct 8; 15(1): 8236
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39379357/

1つ目はLLM(Large Language Model)の救急外来における臨床的な推奨の精度を調べた試験です。

皆様はChat GPTを使用していますか?最近では医師向けのChat GPTの使い方のレクチャーが散見されるようになってきており、今後は臨床での応用が期待されます。

しかし現時点では、医学の分野ではUSMLEのような試験の問題やNEJMの診断チャレンジに解答する精度を調べる研究が大多数で、臨床使用に関するものは少ないです。

今回は、実際にアメリカのサンフランシスコの病院の救急外来を受診した患者における、①その患者は入院すべきか?②その患者には放射線検査が必要か?③その患者には抗菌薬投与が必要か?という3つの臨床的な決断についてGPT-3.5-turboとGPT-4の精度を調べました。研修医との比較も行いました。GPT-3.5-turboとGPT-4はカルテの病歴と身体所見の情報のみから判断しています。

結果は、研修医と比較してGPT-3.5-turboとGPT-4いずれも正確性が悪かったです。総じて両者とも特異度を犠牲にして感度を上げているような状況でした。特に「その患者は入院すべきか?」に関しては特異度が40%程度でした。

LLMが臨床使用されるためには、パフォーマンスの改良が必要そうです。ただし、何十年後には間違いなく臨床使用されていそうですよね。その頃には例えば救急医との正確性の比較試験のような研究が色々と実施されるのでしょうか。LLMを活用していくことは必要ですが、LLMに頼りきるのではなく、自分自身の臨床力の向上をし続ける事、LLMを良く知ってうまく活用する事は必要だなと感じています。

② Ahmet Enes Kucukardali, et al.
Swift and Safe high-sensitive troPonin Evaluation in the Emergency Department with a 30-min protocol: The SPEED-30 cohort study
Am J Emerg Med 2024 Dec 12; 89: 30-35
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39689630/

2つ目は急性心筋梗塞に対するトロポニンの0/30min protocolを検討した前向き単施設観察研究であるSPEED-30 studyです。

皆様は急性心筋梗塞に対するトロポニンは0/1h protocolを使用していますか?それとも3時間後フォローを行なっていますか?当院では0/1hと0/2h protocolの併用を行なっていますが、個人や施設でもばらつきがあるのが現状ではないでしょうか?

0/1h protocolは2015年に初めて紹介され、その後に様々な試験で実証され、2020年のESCのガイドラインでは、メーカー毎の高感度トロポニンキットを用いたアルゴリズムが紹介されました。そんな中で2022年にRACING-MI studyで0/30min protocolの効果が報告されました。RACING-MI studyではデンマークの特定の高感度トロポニンキットを使用していましたが、今回は様々なキットを使用しています。

非外傷性の胸痛を主訴に救急外来を受診した18歳超の患者を対象にしています。末期腎不全やSTEMIの患者は除外されています。診断能に関しては感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率を評価しています。

結果ですが、感度、特異度、陰性的中率に関しては両者同等で、陽性的中率に関しては、0/30min protocolの方が優れていました。

「救急外来の混雑を減らす」、「急性心筋梗塞以外の正しい診断を早期に行い、早期に治療する」という2つの点において0/30min protocolのメリットがあり、今後の様々な検証に注目です。

ただ救急外来の混雑がある状況で、30分後に再度採血するのは人手がかなりないと難しいかもしれないですし、そもそも30分後の採血をする時には1回目の結果がまだ出ていないかもしれないですね。実際、今回の研究でも1回目のトロポニンの結果が出たのは約1時間後でした。

後半は山本から以下の文献を紹介いたします。

③ Adem Az et al.
Reducing diltiazem-related hypotension in atrial fibrillation: Role of pretreatment intravenous calcium.
Am J Emerg Med. 2025;88:23-28.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39577214/

頻拍性の心房細動(AF)/心房粗動(AFL)のrate controlにジルチアゼムを用いますか?
アミオダロンやランジオロールなどに比べると古典的な薬ですが、まだ一般的に用いられる薬です...よね?
そんなジルチアゼムですが、たまに副作用として低血圧が問題となることがあります。
この低血圧を防ぐための対策として、カルシウム前投薬に関するRCTをご紹介します。

この研究では、頻拍性AF/AFL(>120bpm)を呈した成人217名を対象に、ジルチアゼムslow iv前の前投薬を以下の3群にランダムに割り付けて比較が行われました:
1. プラセボ群(生理食塩水を投与、73名)
2. 90mg群(カルシウム90mgを投与、71名)
3. 180mg群(カルシウム180mgを投与、73名)

結果ですが、180mg群では、収縮期血圧(SBP)の変化が他群と比較して最も安定しており、投与15分後のΔSBPは-1.05mmHgとほぼ変化がありませんでした(p=0.491)。これに対し、プラセボ群では-14.95mmHg(p<0.001)、90mg群では-9.20mmHg(p<0.001)と顕著な低下が見られました。/p>

心拍数(HR)は、全群で低下が認められたものの、180mg群が最も低下幅が少なく、投与15分後のΔHRは-52.49bpmでした(p<0.001)。
副作用としての低血圧発生率は、プラセボ群6.8%、90mg群5.6%、180mg群1.4%であり、前投薬によりリスクが軽減されました。

結論として、180mgのカルシウム前投薬は、ジルチアゼムによる低血圧を効果的に予防しつつ、安全性も高いという結果を示しました。

結果だけ見ると、前投薬がプラセボの場合、15mmHg近い血圧低下が起こっているので、それを予防する点では有用に感じます。
一方で、投与15分後の平均SBPはプラセボ群で117.1mmHgであり、臨床的に問題となるレベルの低下ではないとも感じます。

また注意が必要な点として、用いているカルシウム製剤が10%塩化カルシウムという点です。
カルシウム180mgを日本で用いられている製剤で投与するには、2%塩化カルシウムでは33.33cc、8.5%グルコン酸カルシウムでは23.53cc必要です。
塩化カルシウムとグルコン酸カルシウムの使い分けについては、こちらのブログの高カリウム血症の記事にも書かれていますヨ(https://appleqq.hatenablog.com/entry/2022/05/21/153820 )。

そもそも心収縮能低下など、血圧低下のリスクが高い患者にジルチアゼムを用いることが少ない、だから血圧が下がっても多くの場合問題とならないというツッコミがありますが、
1. 安全だと思って使用すると、予想外に低血圧となる患者がいる
2. アミオダロンやランジオロールなどは安全性はより高いがお値段もより高い
という点で、ジルチアゼムを用いる際に前投薬が安全であれば試してみる価値はあるかもしれません。

私的にはジルチアゼムはまだまだ現役な薬なので、どこかで試せるようであれば、カルシウム前投与してみようと思います。

以上です、いかがでしたでしょうか。
これからも文献班をよろしくお願いいたします。