2024/12/16 文献紹介
EM Alliance MLの皆様
12月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と、福岡徳洲会病院の大方です。
沖縄と福岡の南国コンビで、3つの論文を紹介します。
前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。
①Nuo Chen, et al.
Clinical Effectiveness of a 3-Step Versus a 6-Step Hand Hygiene Technique: A Randomized Controlled Cross-over Study.
Open Forum Infect Dis. 2024 Sep 16;11(10):ofae534.
ttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39411223/
(無料で読めます)
手指アルコール消毒、3ステップ法で良いのではないか。
すみません、これまでWHO推奨の6ステップ法は面倒でした。
今回の3ステップ法ならば短時間・簡単で習慣化できました。
オススメです。
3ステップ法。
アルコール容器2回プッシュして
1.手の全ての表面をカバーする。
2.指先をもう一方の手のひらで回転させる。
3.親指を回転するようにこする。
どや?
今回の研究は、3,300床の三次医療機関で行われたクロスオーバー試験です。
240人が参加しました。
3ステップ法 vs. WHO推奨の6ステップ法
で比較しました。
3ステップ法の方が以下の点で優れていました。
・医療従事者に好まれ(66.67%)、
・時間も短く (16.00 秒 vs. 32.50秒(P < .05))、
・手指衛生を行うべきときに行う割合も高く(84.88% vs. 76.85%(P < .05))
・手指衛生後の細菌コロニー数が10 CFUs/cm 2以下になっている割合も高かった(95.83% vs. 89.17% ( P < .05 ))
他の点では有意差は見られませんでした。
・手技が正確に行われた割合、コロニー除去率、微生物検出率、医療関連感染率
そもそも、6ステップ法が特別に劣っているわけではありません。
すでに習慣づいているのであれば、引き続き行われてください。
自分のように、6ステップ法が習慣化できなかった方は、3ステップ法を試してみてはいかがでしょうか。
Benjamin J. Sandefur, et al.
Managing Awake Intubation.
Annals of Emergency Medicine. 2024 Oct 30:S0196-0644(24)00411-6.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39480375/
(無料で読めます)
意識下気管挿管のレビューです。
救急医にとって、意識下挿管は大事です。
しかし、勉強がおろそかになりがちです。
このようなレビュー、なかなかありません。
これを機会に自分も勉強しなおします。
6分間の実践動画がわかりやすいです。
※Supplementary Data (1)
ボランティアのERスタッフに意識下で経鼻挿管しています。苦しそう。でもちょっと楽しそう。
動画ではリドカインクリーム4%が使用されていますが、日本では手に入らなそうなので、キシロカインゼリー2%で代用しますかね。
4%リドカイン噴霧も加えます。
過去の多施設観察研究では、
血管性浮腫などの挿管困難が予想される症例で最もよく行われました。
経鼻挿管で 初回成功率92%とのこと。すげえ。
しかし、熟練した術者でも用意に15分はかかるようです。
ご存知でしょうが、差し迫った気道緊急で時間的猶予がない場合、興奮により患者が協力できない場合には輪状甲状靭帯切開など他の方法を選びましょう。
後半は福岡徳洲会病院の大方です。
③Joyce Li , et al.
Preprocedural Oxygenation and Procedural Oxygenation During Pediatric Procedural Sedation: Patterns of Use and Association With Interventions
Ann Emerg Med. 2024 Nov;84(5):473-485.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38864784/
「小児の鎮静時、酸素投与は本当に必要?」
小児患者の処置を行う際に、鎮静が必要になることがありますよね。
その際、みなさんは酸素投与をどのようにされていますか?
多くの方が処置前からもしくは処置中にルーチンで酸素を投与されているのではないでしょうか。
私自身も例外ではなく、同じように対応していました。
今回ご紹介する文献はそういった対応を見直すきっかけになるかもしれません。
この文献は処置のために鎮静を受けた小児患者に対して、処置前または処置時の酸素投与が有益であるかを検討した後方視的多施設横断研究です。
処置は画像検査など侵襲の低いものから内視鏡や外科的ドレナージなどの侵襲の比較的高いものまでを含んでいました。
Pediatric Sedation Research Consortiumの多施設データベースから、18歳以下の小児患者85,599人を対象としました。そのうち33,380人が酸素投与なし、52,219人が酸素投与あり(うち43,242人が処置前からの投与)でした。
primary outcomeは気道や呼吸、循環に対する介入を評価しました。具体的には酸素投与開始、気道確保の調整、吸引、陽圧換気、IVボーラス投与などが含まれます。
結果は次のとおりでした。
・処置前の酸素投与 リスク差 −0.06%(95%CI −4.26%~4.14%)
・処置時の酸素投与 リスク差 −1.07%(95%CI −6.44%~4.30%)
どちらの結果も、酸素投与の有無で有意差はありませんでした。
感度分析では、救急医が鎮静を担当し、ASA I〜IIの低リスク患者に限定しても同様の結果が得られました。(それぞれのリスク差 -2.77/-2.32、それぞれの95%CI -8.73〜3.18%/-7.95%〜3.30%)
このことから処置時鎮静のために酸素投与を行うことが気道や循環に対する介入リスクを減少させるわけではないと結論づけられました。
鎮静担当者の半分が救急医以外である点、内視鏡室や画像検査室などER以外の場所での処置が多く含まれている点から、直接ERの診療に適用できるかは疑問が残るかもしれません。
しかしこの結果は大規模なデータに基づいており、ASAクラスI〜IIの患者が主な対象である点を踏まえると、われわれが救急で一般的に遭遇する小児患者に十分に適用可能です
注意する点としてこの研究結果の解釈は「酸素投与が不要だ」ではないということです。
処置のために酸素を投与しなくても安全な可能性が高いが、異常時に速やかに対応できる準備が重要といったメッセージに感じます。
みなさんはこの結果を受けて、今後どのような対応を考えますか?酸素投与をルーチンで行う必要性を再考する価値があるかもしれません。