2024/10/31 文献紹介
EM Allianceの皆様
変わり種も含め、10月後半の文献紹介をさせていただきます!
前半2つは川口、後半2つは辻がお届けします。
ラインナップは以下です。
①妊婦の緊急画像検査 救急医の自信と知識のギャップ
②それって本当にペニシリンアレルギー?
③DL vs VL アップデート
④ERの暴力を未然に防ぐ!現場を守るための効果的な対策と実践法
①Eibschutz L,
Lu MY, Jannatdoust P, Judd AC, Justin CA, Fields BKK,
Demirjian NL, Rehani M, Reddy S, Gholamrezanezhad A.
Emergency imaging protocols for pregnant patients: a multi-institutional and
multi- specialty comparison of physician education. Emerg
Radiol. 2024 Oct 14. PMID: 39400643.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39400643/
(無料で全文読めます)
妊婦の緊急画像検査の判断に自信はありますか?妊娠中の放射線被曝は胎児にリスクがあると認識されているため、医師が放射線画像診断を躊躇して適切な診断が行われないケースがあります。本研究は、妊娠中の患者の緊急画像検査の実施やそのリスクについて、放射線科医、救急医、産婦人科医師の教育、知識、自信を評価したものです。各診療科のレジデントや指導医に対して匿名のアンケートやテストを実施し、知識評価や妊娠中の患者に対する画像診断の頻度、意思決定の自信に関する質問への回答を集めました。さらに、その結果に基づいて米国救急放射線学会が教育ビデオを作成しました(後述)。
例題
アメリカ放射線学会によると、妊娠の有無の確認が不要とされる診断検査はどれですか?5つ選択してください。
(A) 胸部または四肢のX線撮影
(B) 腹部/骨盤CT
(C) 胸部CT
(D) 頭部CT
(E) 脳MRI
(F) PET/CT
(G) 子宮卵管造影法
(H) マンモグラフィ
(I) 骨盤血管造影
(J) 99mTc-MDP 骨スキャン
回答者124人の内の救急医(8.1%)の結果に着目すると、救急医は妊婦に対して緊急の画像診断を行う頻度が高く、週1回以上の頻度で妊婦の画像診断に関する意思決定をしていました(放射線科医や産婦人科医と比べて高頻度)。また、救急医は妊婦に対する画像診断の意思決定に対して比較的高い自信を持っていることが示されました。ところが!
知識評価では救急医の正答率は放射線科医よりも全体的に低く、CT肺血管造影(CTPA)とV/Qスキャンの比較に関する知識や、妊婦のくも膜下出血に適した画像診断技術に関する質問の救急医の正答率は50%未満でした。
自信と知識にギャップがあることをメタ認知して自己研鑽に励むいい機会かもしれません。
米国救急放射線学会が作成した教育用ビデオへのリンクはこちら
ASER PROJECT MASTER WITH REFERENCE CREDITS.mp4
全編英語なのが少しハードルを上げますがぜひご覧ください。
11:21 放射線量/放射線のリスク/画像の適切性と安全性
22:10 妊娠中の産科および婦人科的状態
28:36 妊娠中の消化管の状態
35:01 妊娠中の鈍的外傷・貫通性外傷
46:08 妊娠中の深部静脈血栓症と肺塞栓症
54:32 妊娠中の神経学的状態
1:00:32 妊娠中の運動器の状態
例題の解答:A C D E H
②Honda R, Ishikawa K, Ozawa H,
Matsumoto-Takahashi ELA, Mori N. Retrospective study on penicillin allergy delabeling and evaluation of an antibiotic allergy
assessment tool. J Infect Chemother. 2024 Sep 20:S1341-321X(24)00267-8. PMID: 39307419.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39307419/
本当にペニシリンアレルギー?と思ったらAAATで評価すべし
問診で必ず確認する「アレルギーの有無」。
「ペニシリンアレルギーです」と返答されて抗菌薬の選択に難渋したり、ベータラクタム系を避けるために広域抗菌薬を選択せざるをえなかったりした経験はありますか?
ペニシリンアレルギーとされた患者の95%が誤ったラベル付けをされている可能性があるという報告があります。それ自体は何となく聞いたことがあっても、一度ついたラベルを救急医が自分の判断で外すのはなかなか勇気が必要で、かといってアレルギーの専門家への相談も大病院や大都市圏でないと難しいのが現状だと思います。
誤ってラベルがつけられたペニシリンアレルギーを見極めるため、抗生物質アレルギー評価ツール(AAAT)が提案されました。AAATは患者の症状に基づいて専門家の介入が不要な低リスク患者を識別し、ラベル解除や再検査(経口摂取テスト)の要否を判断します。
具体的な内容:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6395557/figure/F1/
本研究の目的はペニシリンアレルギーとされる患者にAAATを使用して、ラベル解除可能な患者を評価することでした。
530人の患者を対象に分析し、62人(11.7%)の患者がラベル解除されました。また、AAAT評価に基づいて137人(25.8%)の患者が専門家に相談せずラベル解除しうると判断されました。
さらに、10年以上前にアレルギーと認定された場合(OR:8.52; 95%CI:1.54-57.3; p=0.02)や看護師によるラベル付与(OR:1.83;95%CI:1.03-3.34; p=0.04)が、ラベル解除の重要な要因として特定されました。
今回は単施設の後ろ向き研究ですので今後はさらなる研究が望まれますが、ペニシリンアレルギーのラベルを解除する有効なツールとして救急医がAAATを知っておくことは有意義だと思われます。
③Garrett G McDougall, et al. Direct
Laryngoscopy Versus Video Laryngoscopy for Intubation in Critically Ill
Patients: A Systematic Review, Meta-Analysis, and Trial Sequential Analysis of
Randomized Trials. Crit Care Med. 2024 Nov 1. Epub
ahead of print. PMID: 39292762
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39292762/
直接喉頭鏡(DL) vs ビデオ喉頭鏡(VL)のアップデートです!(無料です)
去年のEMA文献班でも紹介させていただきましたのでぜひ一読ください。(https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001270)
このRCTではビデオ喉頭鏡の圧勝でしたね。
さて、今回の論文は、ICUおよびERにおける、重症成人患者を対象としたDL vs VLのメタ解析です。妊婦やプレホピタルでの挿管は除外されています。
20個のRCT、4569例が対象となりました。
結果は、VLの方が、初回成功率が高く(DL
71.8% vs VL 81.7%, RR 1.13; 95%CI, 1.06-1.21)、食道挿管は減少しました(DL 3.3% vs VL 1.3%, RR 0.47; 95%CI, 0.27–0.82)。
死亡、挿管中心停止、低酸素、低血圧、誤嚥、歯牙損傷などには有意差を認めませんでした。
サブ解析によると、初心者の方がよりDLに対するVLの優位性が強いようです。
・・やはり予想通りの結果ですね。
最初に紹介したRCTも含まれており、そこまで新規性はないかも知れません。
本研究は病院外での挿管は除外されていますが、プレホスではGlideScopeと比較してDLの方が成功率が高かったとする報告もあります(PMID: 27002277)。
喉頭鏡の画面が汚染されやすい環境、喀血や口腔内などの疾患では、DLの方が優位となる状況もまだ残っているのでしょうか?
④Rabin S, et al. Protecting Frontline
Workers: Strategies for Preventing and Mitigating Violence in the Emergency
Department. Ann Emerg Med. 2024 Aug 1. Epub ahead of print. PMID: 39093246.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39093246/
"ERにおける暴力を防止し、軽減するための戦略”
ERにおける暴力は日常的であり、世界中で増加傾向であることが分かっています。 ERは、混雑、夜勤などによってストレスが高い環境です。
暴力は、患者ケアに悪影響を及ぼし、スタッフにもトラウマ、バーンアウトなど深刻な結果をもたらすことも分かっています。
本研究で紹介されている中で、すぐにでも使えそうな戦略をピックアップしてお届けいたします!
●戦略の概要
- リスク評価:リスク評価ツールを使用し、早期に認識(下記参照)。
- 安全な環境を確保するための対策:監視カメラの設置、待合エリアの工夫、アラートシステム。
- スタッフ間のコミュニケーション構築、緊急コードシステム。
- 暴力への対応:de-escalation(暴力の緩和)や自己防衛技術。
- 事後ケア:医療および心理的サポート。
●リスク評価ツール:6点以上でhigh riskとされる
- 過去の暴力歴あり 1点
- 殺人または暴力的な思考 1点
- 暴力を振るう意思 1点
- 薬物乱用 1点
- 外傷歴(TBI、PTSDなど)1点
- 洞察力や判断力の欠如 1点
- 不安定性/予測できない行動、気分の不安定性 1点
- スタッフの直感 1~2点
●Ten domains of de-escalation(暴力の緩和のための10個のポイント)
- 相手のパーソナルスペースを尊重する
- 挑発しない
- アイコンタクト
- 簡潔に話す
- 相手の要望, 感情を把握
- 患者の話をよく聞く
- 同意するか、または意見の相違を認める
- 明確な見込みと転帰を伝える
- 選択肢を提示し、楽観的な見通しを与える
- 患者やスタッフと一緒に事後の振り返りを行う
著者らは、レジデント含め、全てのスタッフがこれらをトレーニングしていくことの重要性を述べています。
これまでの施設では、緊急ボタンや暴力対策チームを設置をしていましたが、皆様の施設はどう対策されていますでしょうか?
チームでプロトコルを共有し、予兆がある際には密にコミュニケーションをとる重要性を再認識しました!
また、暴力の背景に、介入すべき病態がないかも忘れずに評価しましょう。
EMA文献班
国際医療福祉大学成田病院 辻 晴香
聖マリアンナ医科大学 川口剛史