2024.10.02

2024/09/15 文献紹介

9月前半の文献紹介は沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の大方が担当します。

9月に入ってもまだまだ猛暑が続いており、熱中症患者も絶えず搬送されていますね。

そんな暑さを吹き飛ばす文献を紹介します。

ラインナップは以下の通りです。

SGLT2阻害薬DKAはインスリン投与量少なく治癒まで時間かかっている

DKA/HHSガイドライン2009年以来の改訂

CTRX単回投与でVAPが防げる?

 

まずは沖縄県立中部病院の岡です。

SGLT2阻害薬DKAはインスリン投与量少なく治癒まで時間かかっている」

SGLT2 Inhibitor-Associated Ketoacidosis vs Type 1 Diabetes-Associated Ketoacidosis.

Mahesh M Umapathysivam.

JAMA Netw Open. 2024 Mar 4;7(3):e242744. 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38497966/

(無料で読めます)

SGLT2阻害薬によるDKAは、ERでしばしば遭遇します。

血糖値がそれほど高くない、あるいは正常値であることが多いです。

よくある間違いは、血糖値が高くないためインスリン投与を中止してしまうことです。

「厳しいって。ガチで危機感持った方がいいと思う。」

 

はい、すんません。

正しくは、ブドウ糖を投与しながらインスリン投与します。

 

今回の論文は、オーストラリアの2施設で行われた電子カルテを用いた後ろ向きコホート研究です。

SGLT2阻害薬37人(DKA20 + ケトーシス17人)と1型糖尿病DKA20人を比較しました。

SGLT2 阻害剤によるDKAについて以下の2点がわかりました。

・治療開始24時間のインスリン投与量が少なかった。(44.0 vs. 87.0 単位、P  = .01

・治癒までの時間が長くかかった。 (36 vs. 18 時間 ; P = .002)

正常血糖値だと、ついインスリン投与を中止してしまいがちです。インスリン投与しないとDKAは治りません。

次にご紹介する改訂ガイドラインでも、正常血糖値のDKA治療は強調されていました。

・正常血糖 DKA や血糖値 250であれば、輸液に5%or 10%の糖追加。即効型インスリン投与速度を0.05U/kg/hrに下げる。血糖値200を目標に調整する。(個人的には5%or 10%ブドウ糖液100-125mL/hr程度で流すイメージかなぁ)

 

DKA/HHSガイドライン2009年以来の改訂」

Hyperglycaemic crises in adults with diabetes: a consensus report.

Guillermo E Umpierrez.

Diabetes Care. 2024 Aug 1;47(8):1257-1275.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39052901/

(無料で読めます)

DKA/HHSのガイドライン。2009年以来の改訂。米国糖尿病学会 (ADA)、欧州糖尿病学会 (EASD)、などの共同コンセンサスガイドライン。

必読でしょう。

2009年からの主な変更点は以下です。

【診断と定義】(Figure2.より)

DKA

D

DKAの診断基準が血糖値 >200 mg/dL、もしくは糖尿病既往(血糖値関係なし)になった。

(以前は >250mg/dLだった。)

DKA10%が正常血糖DKAなので注意。

・正常血糖DKAの原因は、SGLT2 阻害薬、インスリン注射、食事量減少、妊娠、アルコール摂取、肝不全など。

K

・血液中の β-ヒドロキシ酪酸の測定を強く推奨。>3 mmol/Lで診断。(代用として尿ケトン>2+ でも、まぁ可。イマイチだけど。)

・尿ケトンは初期には重症度過小評価に、後期は過大評価になりやすい。カプトプリルやバルプロ酸で偽陽性なるし。

A

pH 7.3 もしくはHCO3- 18 mmol/Lになった。

(以前の英国ガイドラインはHCO3- 15 mmol/Lだった)

・アニオンギャップが推奨から外れた。ケトン検査できない環境では有用だが。

HHS

H

・計算有効血漿浸透圧 > 300 mOsm/L になった。(以前は> 320mOsm/Lだった)

・総血漿浸透圧 > 320 mOsm/L も追加された。

H

・血糖値>600で変わらず。

S」(注;abSence of ketosis, acidosis

β-ヒドロキシ酪酸<3.0 mmol/L、もしくは尿ケトン<2+

pH7.3 かつHCO3-15 mmol/L 

DKAと同じ変更)

【治療】(Figure4.より)

輸液

・脱水の程度に応じた輸液速度分類あり。

・正常血糖 DKA や血糖値 250であれば、輸液に5%or 10%の糖追加。

インスリン

・軽症 DKA へのインスリン皮下注が初めて提案された。

・血糖値<250ならば、即効型インスリン投与速度を0.05U/kg/hrに下げる。血糖値200を目標に調整する。(個人的には5%or 10%ブドウ糖液100-125mL/hr程度で流すイメージかなぁ)

カリウム

・まぁ変わりないかな。

以上です。

 

次に福岡徳洲会病院の大方です。

 

CTRX単回投与でVAPが防げる?

Claire Dahyot-Fizelier et al.

Ceftriaxone to prevent early ventilator-associated pneumoniain patients with acute brain injury: a multicentre, randomised,double-blind, placebo-controlled, assessor-masked superiority trial

 

Lancet Respir Med. 2024 May;12(5):375-385. 

PMID: 38749372

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38262428/

 

「挿管した急性脳損傷患者に単発のセフトリアキソン投与でVAP予防できる!?」

外傷や脳卒中などの急性脳損傷の診断がついた患者に対しての挿管は救急現場でよくあることですが、ERで勤務していると入院後の管理に関与する機会が少なく、人工呼吸器関連肺炎(VAP)は主に病棟での問題という意識が私にはありました。

しかしこの文献と出会い、ER医としてもVAP予防に寄与できる可能性があることに気付かされました。 

今回ご紹介する文献はフランスの8つの大学病院で施行された、無作為プラセボ対照試験です。

この研究では外傷性脳損傷、脳卒中、くも膜下出血の急性脳損傷患者に対して早期VAPを予防するためにセフトリアキソンを単回投与する効果を検証しました。

主要評価項目は人工呼吸開始後2日目から7日目までに早期VAPを発症した患者の割合で、319人が解析対象となり、74人の早期VAPを含む93人のVAP症例が確認されました。セフトリアキソンは挿管後12時間以内に投与されました。

早期VAPの発生率はプラセボ群よりもセフトリアキソン群の方が有意に低く(HR 0.60 [95% CI 0.38-0.95]p=0.030)、セフトリアキソンに起因する重大な有害事象は認められませんでした。また、副次評価項目の一つである28日時点での死亡率もセフトリアキソン群で有意に低い結果でした。(HR 0.62  [95% CI 0.39-0.97]p=0.036

 

この文献から、ERや初療室でもVAP予防に寄与できる可能性があります。急性脳損傷患者の挿管時には、セフトリアキソンの単回投与を検討してみてはいかがでしょうか。

以上、9月前半の文献紹介でした。次回もお楽しみください。