2024.07.31

2024/07/31 文献紹介

おはようございます。今年の夏は、史上最高気温だった2023年に匹敵する暑さとなる可能性があるそうです。そんな中、環境について考えさせられるテーマを添えて、国際医療福祉大学の辻と聖マリアンナ医科大学の川口より7月後半分の文献をご紹介します!

Levinson W. Medical Practice and the Climate Crisis. JAMA. 2024 Jul 17. Epub ahead of print. PMID: 39018047.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39018047/

毎日暑いですね。地球温暖化の影響を意識せざるをえませんが、普段の仕事と気候変動との関連を考えたことはありますか?米国では、二酸化炭素排出量の約8が医療システムから排出されているそうです。

JAMAに掲載された本記事は、

・検査や治療の必要性の吟味
・気候に有益な治療法の選択
・環境被害を減らすための品質改善
・日常診療での配慮
・医療システムの改善
という章立てで、我々医療者ができる気候変動への対策が書かれています。

具体的な方策として
・外来患者の処方や入院患者のルーチン検査を見直す医療用品の使用量、プラスチック廃棄物、二酸化炭素排出量を軽減
・気管支拡張薬を噴霧式定量吸入器(MDI; metered dose inhaler)からドライパウダー定量吸入器(DPI; ディスカス、タービュヘイラーなど)に変える米国内で1年間にMDIから排出される温室効果ガスは自動車50万台分の排気ガスに相当するらしい…!!
・吸入麻酔薬をデスフルラン(英国の一般的な病院の温室効果ガス排出量の5%を占める)からセボフルランに変える
・遠隔医療の普及(患者や医療者の移動に伴って生じる温室効果ガスを減らす)
・適切な標準予防策(必要以上に手袋を多用しない)
・ディスポ製品を再利用可能な製品に置き換える
・滅菌器具セットの中で使用頻度が低い器具の同梱を見直す
・ゴミを正しく分別する(汚染されていない廃棄物を汚染廃棄物用のゴミ箱に捨てない)
などが挙げられています。

まずはゴミの分別あたりからぜひやってみましょう


Turgeon AF, et al. Liberal or Restrictive Transfusion Strategy in Patients with Traumatic Brain Injury. N Engl J Med. 2024 Jun 13. Epub ahead of print. 
PMID: 38869931.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38869931/
<頭部外傷における自由輸血戦略 vs. 制限輸血戦略>
輸血戦略において、制限輸血が主流になりつつありますが、頭部外傷ではまだ明確な答えは出ていません。
制限輸血群の方神経予後良かったとするメタ解析もあれば(PMID: 34148446)自由輸血群の方院内死亡率低かったとするRCTもあります(PMID: 30871608)。それらを反映し、ヨーロッパの外傷出血/凝固ガイドラインで、はっきりとした輸血閾値は記載されていません(PMID: 36859355)

そんな中、世界34施設の外傷センターで行われたRCTが出ましたのでご紹介いたします!

PICO
P:中等度〜重度の頭部外傷で貧血がある成人(18歳以上、
GCS3-12Hb10g/dL)
ICU 入室後、無作為化前に輸血を受けた患者・輸血に禁忌または異議を唱えた患者は除外
I:自由輸血群(Hb10g/dLで輸血)

C:制限輸血群(Hb7g/dLで輸血)

O6ヵ月後のGlasgow Outcome Scale-Extended(GOS-E)
で評価した転期不良な結果

結果

722人が解析対象となり、
ICUでのHb中央値は自由輸血群で10.8g/dL制限輸血群で8.8g/dLでした。
Hb測定から輸血を投与するまでの時間中央値は、自由輸血群で134分、制限輸血群で104分でした。


primary outcomeである6カ月後のGOS-Eスコアの転帰不良は自由輸血群で249(68.4%)制限輸血群で263(73.5%)(調整絶対差, 5.4%; 95%CI, -2.9 to 13.7)と、有意差は認めませんでした。

secondary outcomeである死亡率、うつ病でも有意差は認めませんでしたが、生存者の間では自由輸血群は、
QOLを評価するいくつかの尺度の得点が高いことと関連していました。
VTE発生率は両群とも8.4%ARDSは自由輸血群3.3%
、制限輸血群0.8%でした。

本研究は貧血がある患者のみinclusionしており、頭部外傷で一般化できるかは分かりません。
また、Hb閾値10g/dLは結構高いな・・と個人的に思うのですが、今回の結果では、有意差はないものの自由輸血群の方全体的にアウトカム良い印象です。一方、ARDSは制限輸血群の方が少ない傾向であったりとまだ戦略を大きく変えるには至らなそうです。
大前提として、この研究はICU入室後の話であり、救急外来では、Hb値のみで輸血を判断することがないように気をつけましょう!
今後の研究にも期待したいと思います。


EMA文献班

国際医療福祉大学成田病院 辻(西田) 晴香
聖マリアンナ医科大学救急医学 川口剛史