2024.02.16

2024/02/16 文献紹介

能登半島地震から1ヶ月半が経ちますが、各地で日々奮闘されている皆様には頭が上がりません。

今回は、EMA文献班の京都府立医科大学附属病院の中村と、聖路加国際病院の宮本から5文献紹介致します。

 

まずは京都府立医科大学附属病院の中村より、2文献です。

Xiao L, Ou X, et al. Combined modified Valsalva maneuver with adenosine supraventricular tachycardia: A comparative study. Am J Emerg Med. 2024 Jan 23;78:157-162. doi: 10.1016/j.ajem.2024.01.035.

PSVTに修正バルサルバ手技とATP静注を同時に試みて効果はあるのか」

 

血行動態の安定している発作性上室頻拍(PSVT)に対する治療は、迷走神経刺激手技やアデノシン三リン酸(ATP)静注が第一選択とされています。

 

修正バルサルバ手技(modified Valsalva maneuver: mVM)は静脈還流量を増やして迷走神経刺激を生じる一方で、ATP静注は房室伝導をブロックするという、異なる機序で洞調律復帰を促します。

(修正バルサルバ手技についてはこちらの動画を参考にしてみてください。https://www.youtube.com/watch?v=8DIRiOA_OsA&t=49s

 

これら異なる機序で作用する手法を最初から併用したら、より効果が期待できるんじゃない?というのが今回ご紹介する、多施設RCTの文献です。

 

mVMのみ(mVM群) vs ATP静注のみ(ATP群) vs どちらも併用(併用群) の3群に分けられました。

 

ATP静注は洞調律復帰まで5分ごとに10mg20mg30mgの最大計3回実施されました。(原文ではアデノシン量で記載されています。)

併用群では、患者がシリンジに息を吹き込むタイミングでATPを静注しました。

 

初回成功率は、mVM24%ATP30%、併用群50%となり、総成功率は、mVM42%ATP75%、併用群86%となりました。

総成功率では、mVM群よりもATP群・併用群で有意に成功率が高くなり(P0.01)、ATP群と併用群では有意差は見られませんでした(P0.340)。

 

また、治療時の心静止時間は、mVM1.61秒、ATP1.60秒、併用群2.27秒で、併用群で有意に長い結果となりましたが、介入なく復帰し、その他重大な有害事象もありませんでした。

 

本研究は被験者が118人と少ないことや、ATP静注は3回目まで実施している一方、mVM2回目までで終わっていること等がlimitationになると思いますが、ATP静注にmVMを併用しても成功率に有意差はない結果となりました。

 

個人的には今後のpracticeとして、2回目のATP静注が必要な時にはmVMも併用してみようかと思います。

 

Mitra TP, Coulter-Nile S, et al. Spiced RCT: Success and Pain Associated with Intravenous Cannulation in the Emergency Department Randomized Controlled Trial. J Emerg Med. 2023 Oct 16:S0736-4679(23)00497-3. doi: 10.1016/j.jemermed.2023.10.008.

「末梢静脈路留置針の18Gって20Gより痛い?難しい?」

 

ERなどでの末梢静脈路確保となると留置針はほとんどが20G(か22G)で、18Gは出番が少ない気がします。

 

これは純粋に流通などの問題だけではなく、18G20Gに比べて痛そう、留置が難しそう、という心理的側面もあると思います。

 

 

本文献は、そんな現状に一石を投じる、18Gvs 20G針を比較検討したオーストラリアの大学病院での単施設RCTです。

 

181人が静脈路確保の対象となり、留置成功率、疼痛スコア、手技の主観的な難易度が比較され、評価尺度としてVisual Analogue Scale: VASが用いられました。

 

留置の初回成功率は84.3% vs 82.0%P=0.13)で、総成功率は89.9% vs 93.3%P=0.10)といずれも有意差はありませんでした。

留置部位は肘窩が20G針で60.7%だった一方、18G針では80.9%と偏りのある結果となりました。

 

疼痛スコアはVAS3.84 vs 3.6195%CI 0.56-1.02; p=0.57)と有意差はありませんでした。

 

手技の主観的な難易度はVAS2.72 vs 2.5895%CI 0.66-0.93; p=0.74)と有意差はありませんでしたが、指導医や看護師と比較して、医学生や研修医で18Gの使用時に特に難しさを感じたという結果も見られ、経験で差が見られそうです。

 

単施設研究であったり、留置部位の指定がない、手技者の盲検化は出来ていない、比較的年齢層が若いなどlimitationは残りますが、案外18Gでも20Gと遜色ない結果となりました。

 

留置の難易度や疼痛を気にせず、必要な病態であれば20Gの代わりに18Gの使用を検討してもよさそうですね!

 

Long B, Pelletier J, Koyfman A, Bridwell RE. GLP-1 agonists: A review for emergency clinicians. Am J Emerg Med. 2024 Jan 12;78:89-94. doi: 10.1016/j.ajem.2024.01.010.

「流行りの痩せ薬って安全なの!?」

 

既往も特になく、健康そうな若い人なのに、マンジャロ・リベルサス・オゼンピックなど糖尿病薬を使用している患者に遭遇したことはありますか?

 

これらの薬は、過度な食事制限や辛いエクササイズなしで痩せられるメディカルダイエットとして巷で流行りのGLP-1アゴニストです。

 

夜間のオンライン診察、自宅への処方薬の送付など、患者の都合に合わせた診療スタイルを謳ったオンラインクリニックも増えてきており、処方薬の在庫不足が嘆かれるほどその処方数は増加傾向にあり使用者も増加の一方です。

 

ただ、人間そう簡単に何のデメリットもなく、楽に痩せられるわけがない・・・・!そう信じたいのはキャベツの千切りをたくさん作り、休日必死に走っている私だけでしょうか。

 

GLP-1アゴニストに関してまとめたレビューがあったので共有します。

 

消化器症状や皮膚合併症など、様々記載されていますが、

・意外と低血糖発作のリスクは低い

・膵炎の発症リスクが高まるらしい(2022年の後ろ向き研究ではHR:322023年の観察研究ではHR:9)

・薬剤による腎性、頻回の嘔吐・下痢による腎前性のAKIが生じるリスクがある

・糖尿病を患っている場合には糖尿病性網膜症の発症リスクが高まるらしい

など、これから遭遇する頻度も増えてくると思われるGLP-1アゴニストユーザーに備えてご一読いただきたい内容となっています。

 

Lin, KT., Lin, ZY., Huang, CC. et al. Prehospital ultrasound scanning for abdominal free fluid detection in trauma patients: a systematic review and meta-analysis. BMC Emerg Med 24, 7 (2024). https://doi.org/10.1186/s12873-023-00919-2

「病院搬送前のFASTの精度ってどんなもの?」

 

病院搬送前の現場、救急車内、ヘリ機内など様々な干渉や制限が入る状況でのFAST、結果に少し自信が持てない時ないですか?

 

搬送前にはFAST陰性だと思っていたのに搬送後精査したら液体貯留があった、もしくは、FAST陽性だと思っていたけど何も溜まっていなかった。。。そんな経験皆さん一度はないでしょうか。

 

今回、6つの研究・合計1356名のFASTが行われた患者を対象としてメタアナリシスを行った結果、

感度:0.596 (95% CI = 0.345 0.822) 、特異度:0.970 (95% CI = 0.953 0.983)

でした。

 

 

感度に関しては、患者や搬送前の環境等ばらつきが大きく、研究によって感度の高いものから低いものまで様々でしたが、特異度に関してはいずれの研究でも高い数値を保っていました。

 

今回の結果から言えることしては、搬送前のあまり良いとは言えない環境下のエコーでも「FAST陽性だ!」との判断できる場合には実際に腹腔内液体貯留が生じていることが多い、と言うことです。

 

搬送前の腹腔内のFAST所見が陽性の場合には、救急外来とうまいこと連携を行うことで輸血や手術室の準備など迅速な対応を行い、状態の悪化を防いでいきたいですね。

 

 

Pillai A, Arora P, Kabi A, Chauhan U, Asokan R, Akhil P, Shankar T, Lalneiruol DJ, Baid H, Chawang H. The diagnostic accuracy of point-of-care ultrasound parameters for airway assessment in patients undergoing intubation in emergency department-an observational study. Int J Emerg Med. 2024 Jan 29;17(1):12. doi: 10.1186/s12245-024-00585-6.

POCUSで挿管前評価できる!?」

 

挿管困難例の評価として普段どのような指標を使っていますか?

LEMONなどのゴロも使用しつつ評価することも多いのではないでしょうか?

 

でも意識障害があるとMallampati分類が付けにくかったり、声門上の血腫などによる閉塞はなかなか確認しにくかったりします。

 

そこでみんな大好きPOCUSで評価をしてみよう、というのが今回紹介する文献です。

 

筆者らは、

コンベックスプローべを用いて、

・下顎舌骨間距離(HMD)

・舌の厚さ

リニアプローべを用いて、

・皮膚から舌骨までの距離(DSHB)

Pre-E(喉頭蓋前腔の深さ)/E-VC(喉頭蓋〜声帯間距離)

の値を測定し、実際に挿管困難であったかどうかを評価しました。

(測定方法に関しては写真付きで説明されているので文献内をご参照ください)

 

結果として、挿管困難に対するそれぞれのROC、およびカットオフ値と特異度(Sp)/感度(Sn)は、

HMD: ROC:0.789, 6cm, Sp:88%/Sn:83%

・舌の厚さ: ROC:0.78, 5.98cm, Sp:88%/Sn:83%

DSHB: ROC:0.703, 0.87cm, Sp:59%/Sn:83%

Pre-E/E-VC: ROC:0.835, 1.86, Sp:94%/Sn:83%

となりました。

 

それぞれが評価している挿管困難に関与する要因は異なるので、一概には特異度や感度を比較できませんが、直接視認しにくい”LEMON””Obstruction”の評価のためにPre-E/E-VCがおおよそ2前後なのかどうかをみておく事は予期せぬ挿管困難を避けるのには有用かもしれません。

 

なかなか当てる事自体難しそうな印象も受けますが、来る日のために練習しておいても良いかもしれませんね!

 

単施設かつ、挿管前評価をPOCUSで検討した先駆研究であるため、今後の追試でどのような結果が得られてくるのかも要確認です。