2024.01.03

2024/01/03 文献紹介

みなさま2024年が始まりましたが、文献班はまだ年を越せておりません。
2023年最後の文献紹介は東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科(救急外来部門)の竪と聖マリアンナ医大の山本がお送りします。

今回のラインナップは以下です。
① コーラでステーキ流し込めるんかい?
② DOAC内服中のtPAってどうなん⁉︎
③ 挿管チューブってどこ掴んだら1番良いんか⁉︎
④ ABA熱傷ガイドライン 初期輸液量は2ml/kg/%TBSA

まず竪からは2つ文献を紹介します。

① E G Tiebie, et al. Efficacy of cola ingestion for oesophageal food bolus impaction: open label, multicenter, randomized controlled trial
BMJ 2023 Dec 11: 383: e077294
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38081653/

1つ目はステーキハウス症候群に対するコーラのRCTです。

 

毎年恒例のBMJクリスマス特集号の論文です。 
  ステーキハウス症候群を知っていますか?その名の通りステーキなどの固形食塊をほとんど噛まずに飲み込んで引き起こされる食道閉塞です。欧米のガイドラインではステーキハウス症候群に対しては、完全閉塞なら6時間以内、部分閉塞なら24時間以内の内視鏡による除去が推奨されています。どちらのガイドラインも内視鏡前の内科的管理を許容しており、これまで様々な薬剤での検討がなされてきましたが、答えが出ていませんでした。そんな中でいくつかの小さな研究でコーラの有効性が示されてきました。食道閉塞を起こしていない健常人の研究ではコーラが下部食道括約筋の圧力を下げる事が示され、それが影響している可能性が考えられています。

 

  そんな中で今回ステーキハウス症候群に対するコーラの初めてのRCTが実施されました。介入群は医師もしくは看護師の前で、立位はもしくは座位でコカコーラを1回あたり25mLずつ、1分間のインターバルを空けて最大200mL飲みます。対照群は何も飲まずに自然通過を待ちます。その結果、完全通過したら選択的に内視鏡、部分通過したら24時間以内に内視鏡、改善がなければ6時間以内に内視鏡を施行します。

完全通過の割合がコーラ群で多い傾向にありましたが、2群間で症状の改善には有意差はありませんでした。N数が51人と少なく検出力不足を筆者は述べています。自分自身、最近焼肉によるステーキハウス症候群の症例を経験したのですが、炭酸飲料を飲んでもらおうとしましたが、唾液すら飲み込めない状態で、すぐに嘔吐してしまい結局内視鏡による除去となりました。本文中には記載はありませんでしたが、同様の事例で効果が発揮されなかった症例はあったのではないかと考えています。しばらく口腔内に溜め込んでおくのでしょうか?皆さんはステーキハウス症候群の経験、コーラなどの炭酸飲料による治療経験はありますか?

② Tou-Yuan Tsai, et al. Risk of Bleeding Following Non-Vitamin K Antagonist Oral Anticoagulant Use in Patients With Acute Ischemic Stroke Treated With Alteplase
JAMA Intern Med 2023 Nov 20: e236160
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37983035/

 

2つ目はDOAC(論文ではNOAC(non-vitamin K antagonist oral anticoagulant) と表記)内服患者の急性期脳梗塞に対するrtPA投与の安全性に関する観察研究とメタ解析です。

 

最新の静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針では、DOACの最終服用後4時間以内の急性期脳梗塞に対するrt-PA投与は禁忌となっています。しかしこれはエキスパートオピニオンがもとになっており、具体的なエビデンスに乏しいようです。近年DOAC内服患者が抗凝固薬を内服していない患者と比較して、急性期脳梗塞に対するrt-PAによる脳内出血の発症率に有意差がなかった事を示す研究が2つ報告されました。しかしいずれの研究もアジア人はほとんど含まれておらず、血栓溶解療法による出血合併症がより多いとされるアジア人に関しては解釈に注意が必要でした。

今回台湾人の99%以上をカバーする国内のデータベースを使用し、DOAC vs 抗凝固薬非内服群、DOAC vs ワーファリン群で頭蓋内出血、大出血、院内死亡率などを比較しました。また先程紹介した2つの研究も含めたメタ解析も実施されました。

結果は、DOAC vs 抗凝固薬非内服群、DOAC vs ワーファリン群いずれも各項目で有意差はなく、メタ解析も同様の結果でした。台湾では2019年以前には、DOAC内服による禁忌はなかったため、このような研究が実施可能でした。DOACを最終内服した時間は不明であるため、現在禁忌となっている4時間以内に内服した場合に本当に安全かどうかに関しては言及できないのは大きなlimitationです。今後の研究を注意深く見守っていきたいと思います。ちなみに最新の静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針は2023年9月追補で、「アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体治療薬(レカネマブなど)の投与を受けている場合に静注血栓溶解療法を行なったのちの脳出血を発症した報告がある。このような患者に対する静注血栓溶解療法の適応はより慎重な検討が必要である」の記載が追加となっていますので要チェックです。

続いて山本から2つ紹介致します。

③ Sahoo M, Tripathy S, et al.
Is there an optimal place for holding the tracheal tube during intubation? A proof-of-concept randomised clinical trial.
Emerg Med J. 2023 Nov 28:emermed-2023-213342.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38050113/

『挿管チューブのどこを掴んで挿管する!?』

みなさま挿管する際に、挿管チューブのどこを掴むか気にしていますか?

カフから遠い部分?
いや、真ん中あたりか…?

カフから遠い部分を持った方が、トルクがかけやすいよね?先端の操作が容易になるよね?
(そうなの!?)

そう考えた著者が今回の研究に至ります。

対象は手術で全身麻酔を受ける予定で、挿管困難が予測されない成人患者です。
挿管は経験18ヶ月未満で挿管件数40未満の研修医が行います。

経験豊富な麻酔科医はベストな部分を掴んでいるだろうという予測のもとチューブを持つ部分はビデオ検証で決めました。
するとカフから平均21.3cm ± 2.54cmを掴んでいることがわかり、この結果に基づきカフに近い19cmと遠い24cmで比較することに決めました。どちらの長さでチューブを掴むかはランダム化されます。
手技者はチューブにつけられたテープの印に親指がくるようにチューブを掴みます。

360人の患者が180人ずつにランダム化されました。

残念ながら、挿管にかかる時間はどちらを掴んでも変わりありませんでした(カフに近い vs 遠い:8.0 (SD 4.7)秒 vs 7.3 (SD 4.2)秒, 差0.7 (95% CI=−0.2 - +1.6) 秒)。
主観的な挿管の難しさにも差がなかったようです。

しかし、16人が手技中に掴む部分を変えていました(うち96%がカフに近い部分に持ち替えていた)。

これらの手技者を除外したper-protocol解析では、挿管にかかる時間がカフに遠い部分を掴んだ群で短くなりました(カフに近い vs 遠い:7.6 (SD 4.3)秒 vs 6.6 (SD 3)秒, 差1.0 (95% CI=0.2 - +1.7) 秒)。

違いは1秒のみなんですけどね…トホホ…

皆様はベストな部分を掴んでいるかもしれませんが、研修医を指導する時にどこを掴むかを一緒に考えてみると面白いかもしれませんね!

④ Cartotto R, Johnson LS, et al.
American Burn Association Clinical Practice Guidelines on Burn Shock Resuscitation.
J Burn Care Res. 2023 Dec 5:irad125.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38051821/

『American Burn Association(ABA)のBurn Resuscitationのガイドライン更新』

ABAの熱傷蘇生のBurn Resuscitationのガイドラインが更新されました。

下記リンクから無料で読めます↓
https://academic.oup.com/jbcr/advance-article/doi/10.1093/jbcr/irad125/7458089

今回の改訂ではTBSA >20%の熱傷では48時間以内の初期輸液量に2ml/kg/%TBSAを推奨しています。
また24時間以内の蘇生時に尿量増加や輸液量低減を目的として、アルブミンを考慮することも推奨しています。
腹腔内圧や眼圧測定についての記載もありますよ。

エビデンスが乏しい領域ですので、ガイドラインは非常にありがたいです。一度推奨に目を通してみてください!

こちらのUMEM(The University of Maryland Emergency Medicine)のブログ記事もぜひご参照を↓
https://umem.org/educational_pearls/4388/

さて、我々もやっと年を越せそうです。
みなさま2024年も文献班をよろしくお願いします。

山本 一太