2023.12.15

2023/12/15 文献紹介

12月に入り、寒くなったと思いきや暖かくなり、そしてまた寒くなるようです。体調にお気をつけください。
12月前半の文献紹介は沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の大方が担当します。
ラインナップは以下の通りです。
①小児の橈骨遠位端骨折、超音波検査がX線画像よりも診断精度高い。
②米国集中治療医学会 RSI挿管のガイドライン。
③大動脈解離の診断における超音波プロトコル
④N95をつけた状態でのCPRは疲れる?1分ローテと2分ローテで比較

まずは沖縄県立中部病院の岡です。

①小児の橈骨遠位端骨折、超音波検査がX線画像よりも診断精度高い。
Peter J Snelling, et al. Diagnostic Accuracy of Point-of-Care Ultrasound Versus Radiographic Imaging for Pediatric Distal Forearm Fractures: A Randomized Controlled Trial
Annals Emergency Medicine. 2023 Nov 21:S0196-0644(23)01299-4.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37999655/

みなさま12月前半の紹介文献で、手足の骨折に超音波検査がしたくなりましたよね。
(「粉ものストッカー」はもう買いましたか。)

今回の紹介論文です。
小児の橈骨遠位端骨折に、超音波検査がX線画像よりも診断精度が優れてたんですって。

やったね!

オーストラリアの4つの救急外来で行われたRCTです。
前腕に明らかな変形のない5~15歳が対象でした。

超音波検査もしくは単純X線画像検査を用いて診断されました。

超音波診断には次の二次兆候も用いられました。(最初の2つは初めて聞きました!)

- 骨端線から1cm以内の骨折
(注;もし見られた場合、予後不良であるSalter-Harris Ⅱ型骨折を示唆する)
- 方形回内筋血腫サイン
(注;橈骨遠位端骨折で方形回内筋が出血により腫脹する所見)

- 5度以上の角度変化

- 骨端線の拡大または狭小化

- 骨膜血腫

主要アウトカムは、外来フォロー後も含めた最終診断との診断精度です。

135人ずつが各群に割り当てられ、診断精度は以下でした。

・超音波検査 97.8%
・X線画像83.0%
差は14.8%です。( 95%[CI] 8.0% - 21.6%; P<.001)

小児は若木骨折や不全骨折が生じやすく、X線画像で骨折が分かりにくいです。

これまで、小児の上腕⾻顆上⾻折に超音波検査が有用であることは有名でしたよね。
米国救急医学会のホームページで方法が紹介されています。
https://www.acep.org/emultrasound/newsroom/apr2021/supracondylar-fracture

これまで、自分もX線画像でわからない上腕⾻顆上骨折を何度も見つけました…。
これからは、橈骨遠位端骨折でもお世話になりそうです。

X線画像では骨折なさそう…、けど疑わしい。
そんなときは超音波もやっとこうっと。

②米国集中治療医学会 RSI挿管のガイドライン。
Nicole M, et al.Society of Critical Care Medicine Clinical Practice Guidelines for Rapid Sequence Intubation in the Critically Ill Adult Patient
Critical Care Medicine. 2023 Oct 1;51(10):1411-1430.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37707379/

10の実践的なトピックスについて、疑問に答えてくれています。

推奨だけまとめたページがあります。
https://www.sccm.org/Clinical-Resources/Guidelines/Guidelines/Guidelines-Rapid-Sequence-Intubation#Recommendations

ホッ。
普段、挿管するときやってるやん。
ズレてなくて安心しました。

他にも、

「挿管前に急速輸液しても血圧低下は避けられへんねんよな。」
(2022年文献班で紹介https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38010071/

「心嚢液貯留、大動脈内膜のフラップ、大動脈流出路径35mm以上のどれもなければ、陰性的中率が99.7%」

みなさまは大動脈解離(以下AoD)が疑わしいような症状や病歴で来た患者に、超音波検査をされますか?
ER医師であれば多くの人が施行されるかもしれませんが、どうであればAoDと疑うかの基準をもたれている方はいますでしょうか。

今回ご紹介する文献は、AoDを疑う特定の所見について研究した前向き観察コホート研究です。

3つの施設で臨床的にAoDを疑う患者が集められました。
すでに存在しているもしくは外傷性のAoDがある、またはCTやMRAなどの画像検査のまえに超音波で評価できなかった場合は除外されました。
該当患者に経胸壁エコーと腹部のPOCUSを行い、検査の感度、特異度などを決定しました。
この超音波プロトコルに定められている所見は以下の3つです。
・心嚢液がある
・大動脈内膜にフラップを認める
・拡張末期に大動脈輪から20mm以内の大動脈径が35mm以上である

1314人が登録され、うち44人がAoDで、そのうちスタンフォードA型が21人、B型が23人でした。
結果は、AoDの患者において、感度は93.2%、特異度は90.9%、陽性的中率26.3%、陰性的中率99.7%でした。スタンフォードA型AoDに対しては感度100%でした。

注意点として、そもそも除外目的では使えないこと、本研究の超音波検査施行者が超音波の有資格者にトレーニングを受けていること、n数が小さいなどが挙げられます。

今後AoDを疑った患者の診察時に上記所見に注意しながら検査されるのはいかがでしょうか。降圧を早めたり、CT検査の優先順位をあげるなどの臨床での利用ができたり、研修医や若手ER医への教育として用いることができるかもしれません。

④N95をつけた状態でのCPRは疲れる?1分ローテと2分ローテで比較
Maria J Mathew, et al. Chest compression quality comparing 1-min vs 2-min rotation of rescuers wearing N95 masks.
American Journal of Emergency Medicine. 2023 Nov 21:76:75-81.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38006635/

「N95装着時、CPRのローテーションを1分間と2分間とで分け、比較した胸骨圧迫のクオリティに有意差なし。しかし、疲労は2分の方で多い」

コロナ禍ではCPR時にN95だけでなくPPEをフル装着しCPRをしていた先生が多いのではないでしょうか?
最近ではコロナが落ち着いてきていることから、私の施設ではCPR時のPPEフル着用やN95装着を限定的にしましたが、施設によっては継続しているところもあるかも知れません。
N95を装着しながらの胸骨圧迫は苦しかったり疲れやすかったりする印象ですが、みなさまはどのように感じられますか?

ご紹介するのは、N95を装着した人による胸骨圧迫のクオリティについて研究したRCTの文献です。
56人の医学生が参加し、半数ずつの2つのグループに分かれ、2人1組のペアを組みました。2つのグループは下記のように分けられました。
・CPRを1分間ローテでしたのちに24時間休息し2分間ローテ
・CPRを2分間ローテでしたのちに24時間休息し1分間ローテ

胸骨圧迫はマネキンに対して施行され、時間は12分間、また2分ごとに10秒間のパルスチェックをしました。
マネキンにコンピュータが搭載されており、複数項目の点数化によりクオリティが評価されました。
主要評価項目は胸骨圧迫のクオリティで、副次評価項目はクオリティを構成する項目で適切な深さやリズム、胸骨圧迫率、適切なリズムでの圧迫施行率、適切な深さでの圧迫施行率でした。
他の副次評価項目は、施行者の疲労、胸骨圧迫前後のバイタルサインなどでした。疲労の評価には修正Borg scoreが用いられています。

結果はクオリティに有意差がありませんでした。(p=0.09)
しかし副次評価項目の適切な深さ、胸骨圧迫率、疲労に有意差がありました。(それぞれp=0.01、p=0.03、p<0.001)

主要評価項目に有意差がありませんでしたが、私は疲労に有意差が生じたことに注目しています。
実臨床において、他の臨床業務がありすでに疲労があることや、そもそもCPRが12分間だけということは少なく、時間が長くなるほど疲労がより蓄積されクオリティが落ちると考えたからです。
今後、実臨床に沿った研究がされることを期待しています。

N95を装着しCPR施行されている施設や今後も装着を義務付けられそうな施設に所属している先生がいましたら、胸骨圧迫をしている人の疲労に注目するとよいかもしれません。

以上、12月前半の4文献でした。次回もお楽しみください。