2023.11.19

2023/11/15

みなさまの“文献の秋”を少しでも彩ることができれば幸いです!

今回は聖路加国際病院 宮本と京都府立医科大学 中村より外傷に関する2文献を紹介させていただきます。

まずは聖路加国際病院の宮本よりREBOAに関する文献を紹介します。
①Jansen JO, et al. Emergency Department Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta in Trauma Patients With Exsanguinating Hemorrhage: The UK-REBOA Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2023 Oct 12:e2320850. doi: 10.1001/jama.2023.20850. Epub ahead of print. PMID: 37824132; PMCID
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37824132/
外傷による致死的出血に対するREBOAの使用は予後を改善するのか?

 REBOAは循環動態不安定な外傷の一時的な止血もしくは出血量のコントロールを行い、その後のdefinitive therapyへと繋ぐ処置であり近年では蘇生的開胸術に代わって施行されることが増えました。一方で、遮断部より末梢側の下肢虚血や臓器不全などの有害事象に関する懸念もあり、死亡率の増加を報告する観察研究もあります。

そこで今回、イギリスの16の外傷センターで致死的出血を呈する外傷患者をREBOA+標準治療、または標準治療のみの2群に割り付けたRCTを実施しREBOAを使用した際の予後に関して研究が行われました。

この研究では最終的にREBOA併用群の43人と標準治療群46人の計89人が解析に含まれ、外傷部位やAISなど患者背景は2群で大きく差はありませんでした。

主要アウトカムに設定された90日全死亡率はREBOA併用群で54%(25/46)、標準治療群で42%(18/43)であり(OR: 1.58 [95% CI 0.72-3.52] )、ORが1を上回る事後確率は86.9%となりました。6ヵ月死亡率、院内死亡率、24時間・6時間・3時間死亡率においても、オッズ比が1を超える事後確率はREBOA併用群で高い結果となり、特にREBOA併用群では出血による死亡が多く(32% vs. 17%)、そのほとんどが24時間以内の急性期でした。

また、TAEや外科的手術などの止血術に至るまでの時間はREBOA併用群で長く、止血術に至った割合は低い結果となりました。

待望のREBOAに関するRCTですが、結果は残念ながら致死的出血を伴う外傷管理において有害である可能性を示唆する結果となりました。

ただ、REBOAの適応に関しては外傷だけではなく大動脈瘤破裂、消化管出血、産後出血など非外傷性疾患も含まれます。今回の研究では外傷性のみが含まれており、非外傷性に対するREBOAを併用した治療が予後にどのように影響するかはまだわかりません。
また、外科医、IVR医、Hybrid ERの有無なども時間帯や施設によって結果は大きく異なってきます。早期の止血が難しい場合には、止血術に至るまでのブリッジとして活躍する機会は十分ありそうです。

闇雲なREBOAの挿入は止血術の遅延および死亡率の上昇につながる可能性があり避けるべしという事を今回の研究から肝に銘じても良さそうですが、疾患やリソースを鑑みて必要な症例には挿入を検討しても良いでしょう。
どのような症例でREBOAが効果的かに関してはまだまだ今後の研究に期待です。

次は京都府立医科大学の中村より輸血戦略に関わる文献を紹介します。
②Davenport R, et al. Early and Empirical High-Dose Cryoprecipitate for Hemorrhage After Traumatic Injury: The CRYOSTAT-2 Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2023 Oct 12:e2321019. doi: 10.1001/jama.2023.21019. Epub ahead of print. PMID: 37824155; PMCID: PMC10570921.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37824155/
外傷性の大量出血に対するクリオプレシピテートの盲目的な早期投与は転帰を改善しない

クリオプレシピテートは、FFPをさらに濃縮した血液製剤で、より効果的にフィブリノゲンを始めとする凝固因子を補充することができ、大量出血への効果が期待されています。

今回ご紹介するのは、2017年8月〜2021年11月にアメリカ、イギリスの26の外傷センターで行われた多施設共同試験で、外傷性の大量出血に対しクリオプレシピテートの早期投与を試みた初のRCT(CRYOSTAT-2試験)です。

組み入れ基準は、大量輸血プロトコールを必要とする活動性出血の存在、少なくとも1単位(日本換算で約2単位)以上の輸血でした。除外基準は、他院からの転院、生命維持不能な傷害の存在、受傷から3時間以上経過でした。

標準治療群では、大量輸血プロトコールに従いRBCとFFPを4単位ずつ(日本換算で約8単位ずつ)、以降はRBC:FFP:血小板の比率が1:1:1となるように投与され、一部では標準的にクリオプレシピテート(フィブリノゲン換算4g)が投与されました。
介入群では、大量輸血プロトコールに加えて、受診後90分以内を目標に、さらにクリオプレシピテート(フィブリノゲン換算6g)が投与されました。

主要アウトカムは28日後の全死因死亡率でした。
結果は介入群25.3% (192/760) vs標準治療群26.1% (201/771)であり(OR:0.96 [95%CI 0.75-1.23]、RR:0.97 [95%CI 0.81-1.17])、有意差はありませんでした。
クリオプレシピテート投与までの時間は介入群68分vs標準治療群120分 (P<0.001)と短縮していました。

外傷性の大量出血に対しクリオプレシピテートを盲目的に早期投与をしても転帰を改善しない結果となりました。

本研究はフィブリノゲン濃度測定なしでの経験的治療であるため、対象が広すぎた可能性があります。(日本輸血・細胞治療学会のガイドラインでも血漿フィブリノゲン<150mg/dlでの投与が推奨されています。)
高濃度のフィブリノゲンは炎症・凝固促進作用が指摘されており、盲目的な投与は臓器障害や血栓症のリスクを高め、有害となる可能性があります。(但し、本試験では種々の血栓症を含め合併症の発生率には有意差はありませんでした。)

また、大量輸血プロトコール自体にクリオプレシピテート投与が標準化されており、純粋なクリオプレシピテート投与の有無での比較はできていません。(標準治療群の32%が24時間以内にクリオプレシピテートを投与されています。)

個人的には、自施設ではクリオプレシピテートを作成する手間やコストに見合わないので、積極的に導入を、とは思いませんでした。
ただ、入手可能であれば、迅速検査でフィブリノゲン濃度を測定する機器があるので、カットオフ値以下であることを確認してから投与を検討してもよいかもしれません。

今後、純粋なクリオプレシピテートの有無での比較や、フィブリノゲン濃度に応じた研究が期待されます。