2023.10.03

2023/10/03 文献紹介

今回の担当は練馬光が丘病院 総合救急診療科(救急部門)の竪と東京ベイ浦安・市川医療センターの山本です。

今回ご紹介する文献は以下の3つです。

①後半器官型BPPVに対するSemont-Plus法とEpley法の比較
②DOAC関連出血に対する4F-PCCsの使用に関するReview
③急性虫垂炎の手術は24時間まで遅らせても良いのか!?

練馬光が丘病院 総合救急診療科(救急部門)の竪です。私からは2つの文献を紹介します。

① Michael Strupp, et al. The Semont-Plus Maneuver or the Epley Maneuver in Posterior Canal Benign Paroxysmal Positional Vertigo A Randomized Clinical Study
JAMA Neurol 2023; 80(8): 798-804
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37358870/

1つ目は後半器官型BPPVに対するSemont-Plus法とEpley法のRCTです。

後半器官型BPPVに対する治療法として有名なのはEpley法だと思いますが、Semont法というものがあるのも知っていますか?アメリカ頭頸部外科学会のガイドラインやコクランレビューではどちらも同程度の有効性があるとされています。そのSemont法より有効性があると示されているのがSemont-Plus法です。

Semont法では頭位を健側に45度向けた後、体を患側に90度倒しますが、Semont-Plus法はプラス60度倒すのが大きな違いです。これで耳石がより移動しやすくなる事が生物物理学的な研究で示されています。Figure1にSemont-Plus法に加えてEpley法が写真で解説されています。
https://www.youtube.com/watch?v=2i2aPW0iMxA にSemont-Plus法のやり方が紹介されているため参照下さい。

ドイツ、イタリア、ベルギーの各1施設で実施され、まずは病院で医師により1回施行され、帰宅後に自宅で朝昼夕に3回ずつ患者自身で施行してもらいました。毎朝頭位変換でめまいが誘発されるか患者自身でチェックするのですが、3日間続けてめまいが誘発されなかった最初の朝までの日数を比較しています。

結果ですがSemont-Plus法の方が平均で1.3日早くめまいが消失しました。初回の医師の施行のみでめまいが消失した割合も比較していますが、それは有意差がなく、両者とも6割半ばでした。

自宅で患者に施行してもらうため、どこまで正確に実施できているかが分からないのが大きなlimitationでしょうか。今後はEpley法だけでなくSemont-Plusも検討してみてはいかがでしょうか。ちなみに皆さんは患者にEpley法を自宅で施行するよう指導したりしていますか?最後に今年BPPVガイドラインが改訂されていますので、有料ですが興味がある方はチェックしてみて下さい。

② Ravi Sarode, et al. Clinical Relevance of Preclinical and Clinical Studies of Four-Factor Prothrombin Complex Concentrate for Treatment of Bleeding Related to Direct Oral Anticoagulants
Ann Emerg Med 2023; 82(3): 341-361
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37204347/

2つ目はDOAC関連出血に対する4F-PCCsの使用に関するReviewです。

昨年アンデキサネット アルファが発売され、ワルファリンに対する4F-PCCs、ダビガトランに対するイダルシズマブそしてアピキサバン・リバーロキサバン・エドキサバンに対するアンデキサネット アルファと抗凝固薬に対するリバース薬が出揃いました。しかし来院時に患者がどの抗凝固薬を内服しているか不明な事はしばしばあるのではないでしょうか?

イダルシズマブもアンデキサネット アルファも作用機序の点から他の薬剤であった場合に効果がありません。しかし4F-PCCsは血液凝固第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子とプロテインC、Sを含有した製剤で、ワルファリンに限らずDOAC関連出血に対しても効果があるとされています。American Journal of HematologyやEuropean Heart JournalのDOACリバースに関するガイドには特定のリバース薬が使用できない時には4F-PCCsを含めたPCCsの使用が認められています。しかし本邦で使用可能な4F-PCCsであるケイセントラ®︎の添付文書の適応は、ビタミンK拮抗薬投与中の患者における出血傾向の抑制に限られています。一方でアンデキサネット アルファは重大な出血が予想される緊急手術や処置の際には使用できない事も留意下さい。患者がどの抗凝固薬を内服しているか不明な場合には4F-PCCsの投与が検討されますが、本邦では現状、添付文書上は使用できず今後の議論の課題と考えられます。

このReviewではコストに関しても触れており、治療にかかるコストはアンデキサネット アルファと比較して4F-PCCsは約4分の1で済むとされています。現状では、患者がアピキサバン・リバーロキサバン・エドキサバンを内服している事が判明している場合にはアンデキサネット アルファを使用しないといけませんが、コストの違いや4F-PCCsが出血による凝固障害に対しても効果がある点から今後の添付文書等の改訂も考慮されるのではないかと感じました。アンデキサネット アルファ登場後、皆さんの施設では4F-PCCsの使用はどうしていますか?

聖マリアンナ医科大学の山本 一太です。私からはアッペに関する話題の文献を1つご紹介いたします。

③Jalava K, Sallinen V, et al.
Role of preoperative in-hospital delay on appendiceal perforation while awaiting appendicectomy (PERFECT): a Nordic, pragmatic, open-label, multicentre, non-inferiority, randomised controlled trial.
Lancet. 2023 Sep 14:S0140-6736(23)01311-9.
doi: 10.1016/S0140-6736(23)01311-9.

急性虫垂炎は救急外来ではかなりコモンな疾患です。今回紹介する文献は急性虫垂炎の手術のタイミングに関する文献です。
近年、uncomplicatedな急性虫垂炎に対する抗菌薬治療が広まりつつあります。しかし今でも標準治療は手術です。受診したタイミングや病院の事情によって、手術のタイミングは変わります。夕方受診したので、同日予定手術終了後に行う、夜受診したので、翌朝の日勤帯まで待つなど…。

手術を待つリスクは、穿孔性虫垂炎が増える可能性があることです。2020年のWSESのガイドラインのアップデートでは、uncomplicatedな急性虫垂炎は24時間まで手術も遅らせても安全とされています。しかしこの推奨は主に後ろ向きの研究をもとにしており、質の高い研究はありませんでした。そこで今回紹介する文献です。

フィンランドとノルウェーの病院で行われたPERFECT trialという名称のRCTです。成人のuncomplicatedな急性虫垂炎の手術タイミングに関して、8時間以内と24時間以内を比較し、穿孔性虫垂炎のリスクを検討しています。
対象は18歳以上でAdult Appendicitis Score 16点以上、エコー、CT、MRIなどで診断され、手術が予定されている急性虫垂炎です。

914人が8時間以内の群に、908人が24時間以内の群にランダム化され、最終的に1803人が手術(99%以上が腹腔鏡)を受けました。ランダム化から手術までの平均時間は前者で6時間(3-10時間)、後者で14時間(8-20時間)でした。

1次アウトカムの穿孔性虫垂炎は全体で158人(9%)に認め、8時間以内の群では77人(8%)、24時間以内の群では81人(9%)でした。
結果的に両者に差はなく(絶対リスク差 0.6%(95% CI -2.1-3.2, p=0.68))、RR 1.065(95% CI 0.790-1.435)でした。

これまでの後ろ向き研究の結果と矛盾はありませんでした。手術をしないER医にも関係がある文献と考え、紹介いたしました。