2023.08.17

2023/08/17 文献紹介

今年も猛暑で、一部40℃超えの酷暑の地域も出てきており、扇風機では到底太刀打ちできません。ゲリラ豪雨や台風なども多く、みなさまの地域は大丈夫でしょうか。

今回の文献は京都府立医科大学附属病院の中村、聖路加国際病院の宮本から以下のラインナップでお届けします。
①難治性敗血症性ショックにバソプレシンのボーラス投与
②臨床でChat GPT使ってますか?
③扁桃周囲膿瘍診断のためのPOCUS関するシステマティックレビューとメタ解析

まずは京都府立医科大学附属病院の中村からです。

①難治性敗血症性ショックにバソプレシンのボーラス投与
Nakamura K, et al. The Vasopressin Loading for Refractory septic shock (VALOR) study: a prospective observational study.
Crit Care. 2023 Jul 21;27(1):294.
PMID: 37480126.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37480126/

難治性敗血症性ショックに対するバソプレシンのローディングの有効性・安全性に関する、本邦発の単施設前向き観察研究(VALOR試験)です。

バソプレシンは持続点滴で投与され、ボーラス投与は一般的ではありません。
しかし、ノルアドレナリン等のカテコラミンは最低濃度から用量依存性に血管収縮作用を有するのに対して、バソプレシンは50pg/ml以上の血中濃度を必要とし、緊急での血圧上昇が必要な状況下にも関わらず、持続点滴では昇圧効果を発揮するのに時間を要します。
そこで、本研究ではバソプレシン1Uのボーラス投与でのローディングの有効性、安全性を検討しました。

2021年4月〜2023年3月に救命救急センターのICUに入院した、①18歳以上、②Sepsis-3の基準を満たし、③ノルアドレナリン0.2γ以上を必要とし、④ステロイド投与を開始しておらず、⑤動脈ラインが留置されている、敗血症性ショックの患者が対象となりました。
最終的に92人が対象となり、バソプレシン1Uをローディングした後に、1U/hで持続投与開始されました。さらに、ローディングから3〜5分後の平均動脈圧の最大変化量(ΔMAP)が評価され、下位三分位値の22mmHgをカットオフ値として、ΔMAP>22mmHgの反応群(responder)62人とΔMAP≦22mmHgの非反応群(non-responder)30人に分けられました。

主要評価項目はバソプレシンのローディング6時間後のカテコラミンインデックスの変化(ΔCAI)としました。
※CAIとは、ドパミン、ドブタミン、ノルアドレナリン、アドレナリンのγ数を足し合わせた指数。
結果、non-responderではΔCAIが0であったのに対し、responderでは-10と、ローディングに反応して血圧上昇した群ではカテコラミン必要量が有意に減少していました(P<0.0001)。6時間後ΔCAI<0を予測するためのローディングによるΔMAPのAUROCは0.843でした。また、カットオフ値のΔMAP>22mmHgは、6時間後ΔCAI<0に対する感度は0.92、特異度は0.77でした。

副次的評価項目として、院内死亡率に有意差はなかったものの、non-responderで高い傾向にありました(57.1% vs 37.7%, p=0.087)。
ローディング前の内分泌学的検査では、血中バソプレシンとコルチゾール濃度は群間に有意差はありませんでしたが、血中ACTH濃度はnon-responderで有意に高い結果となりました(36.4pg/ml vs 22.8pg/ml, p=0.018)。これはnon-responderでの相対的副腎不全の傾向が示唆され、ステロイド補充が代替療法となる可能性があります。
一方で、non-responderにおいて、ローディング後の心拍出量低下、2時間後の乳酸値が上昇するといった結果も見られ、むしろ有害となる懸念もあります。

有害事象としては、虚血イベントが5例(5.4%)あり、足趾虚血2例、腸間膜虚血2例、心臓虚血1例でした。これは先行研究でローディングなしでの虚血イベント5〜10%と比較しても変わらず、バソプレシン1Uのローディングは安全であることが示されました。
先行研究では、50mU/kgなど高用量のバソプレシンのボーラス投与は腸管膜虚血などの有害事象が散見されるようです。

院内でのコンセンサスなしで、いきなり導入するのは難しいかもしれませんが、用量を抑えたローディングは非常に有用に感じました。

バソプレシンのボーラス投与による迅速な昇圧効果だけでなく、その反応性によって、ステロイド導入やアドレナリンの開始、あるいは予後の傾向を推定できる、というのは大きなメリットではないでしょうか。

続いて、聖路加国際病院の宮本から2テーマ(3文献)です。

②臨床でChat GPT使ってますか?

昨年冬に作成され、話題をかっさらったchat GPTですが、普段の診療で使う機会はありますか?

特に気になるところだと、救急集中治療分野でのAIツールの活躍ですが、現時点でのそれらの影響はいかがなものでしょうか。

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Dahdah JE, et al. ChatGPT: A Valuable Tool for Emergency Medical Assistance.
Ann Emerg Med. 2023 Jun 16:S0196-0644(23)00354-2.
PMID: 37330721.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37330721/

Chat GPT 3.5に対して、救急でよく遭遇する30の主訴に関する質問事項を作成し回答させ、その適切性・可読性を救急医療従事者が評価しました。

ちなみに回答までに要した時間は中央値で15.4秒と迅速で、
質問に対する評価が適切と判断されたものは27件(90%)、残り3件に関しては重要な危険因子や鑑別疾患の評価が欠損しているため不適切と判断されました。

また可読性に関しては29件(97%)が読みやすいと評価され、1件で用語の紛らわしい使用がありましたが許容可能と判断されています。

評価が有害・文章が理解できない、などと評価されたものはありませんでした。

質問の仕方次第ではありそうですが、割と最低限の評価はしてくれそう・・・!

A Iに依存した診療はまだ危険な可能性がありますが、#7119の代わりの救急相談ツールなどとしては使えそうです。

では集中治療分野ではいかがなものでしょうか

Komorowski M, et al. How could ChatGPT impact my practice as an intensivist? An overview of potential applications, risks and limitations.
Intensive Care Med. 2023 Jul;49(7):844-847.
PMID: 37256340.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37256340/

本文献では今後の集中治療分野への応用の可能性と、その制限や危険性に関して述べています。

・集中治療分野への応用の可能性
- 医学的判断のサポート:病状、治療法、薬剤情報などを迅速に提供でき、患者データなどから予後予測なども可能となる。
- メディカルノートの処理:データやカルテ上の臨床経過などから患者要項を作成できる。
- 医学教育:たとえばシナリオの作成など教育を補助するツールとして有用。
- コミュニケーションの活発化:医学的な内容を一般化して提供したり、翻訳機能などを用いることで患者およびその家族とのコミュニケーションが良好となる可能性がある。
- 論文執筆のサポート

・制限や危険性に関して
- hallucination/ misuse:存在しないデータ・論文や病気を作り出すことがある。
- 永続するバイアスリスク:既存研究の蓄積から結論を出すようトレーニングされているため過去にバイアスのかかった研究などを使用している可能性がある。
- プライバシーとセキュリティ:ユーザープロンプトを通じてchat GPTとデータ共有されるためセキュリティの問題は無視できない。

これらの内容に関して簡単な使用例など例とともに紹介しています。

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まだまだAIツールは発展していくためまだ見ぬ可能性も広がっていきそうですが、
現時点での有用性や危険性に関して把握しつつ上手いこと利用していきたいですね。

(この紹介文もAIが書いてくれたのかもしれません。)

③扁桃周囲膿瘍診断のためのPOCUS関するシステマティックレビューとメタ解析
Kim DJ, Burton JE, et al. Test characteristics of ultrasound for the diagnosis of peritonsillar abscess: A systematic review and meta-analysis.
Acad Emerg Med. 2023 Aug;30(8):859-869.
PMID: 36625850.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36625850/

2022年10月 仲田先生のNEJM総説で紹介された、「扁桃周囲膿瘍に対するPOCUS」はチェックしましたか?

紹介文の中に登場する
http://www.emdocs.net/unlocking-common-ed-procedures-peritonsillar-abscess-drainage/
で紹介されている動画は一見の価値ありです。

扁桃周囲膿瘍(PTA)と扁桃蜂窩織炎(PTC)は病歴的にも身体所見的にもなかなか鑑別しづらく、しかし膿瘍ドレナージの処置の実施の要否が変わる類似疾患ですが上記のPOCUSでどれほどPTAと判断可能なのでしょうか。また口腔内にエコーを挿入する方法と、経皮的に観察する方法では差があるのでしょうか。

CTもしくは針穿刺や切開によるドレナージによる膿の確認での診断と、超音波検査を利用して診断の精度を検討するために、合計17件の研究、812名の患者が今回のメタ解析に含まれました。

二変量解析を行った結果、感度86% (95% CI 78% 〜 91%)、特異度76% (95% CI 67% 〜 82%)、診断オッズ比19.5 (95% CI 9.63 〜 35.4)、LR+3.51 (95% CI 2.59 〜 4.89)、 LR- 0.19 (95% CI 0.12 〜 0.30) でした。

放射線科や耳鼻科などエコー診断に熟練していると考えられる医師と救急医によるPOCUSを比べると、
感度 :89% (95% CI 84% 〜 92%) vs 74% (95% CI 67% 〜 80%)
特異度 :71% (95% CI 63% 〜 79%) vs 79% (95% CI 61% 〜 90%)
診断オッズ比:19.5 (95% CI 11.0 〜 34.5) vs 10.9 (95% CI 3.7 〜 32.5)
LR+ :3.10 (95% CI 2.35 〜 4.20) vs 3.54 (95% CI 1.80 〜 7.83)
LR- :0.16 (95% CI 0.11 〜 0.23) vs 0.34 (95% CI 0.23 〜 0.50)

口腔内からの描出と頚部表面からの描出を比較すると、
感度 :91% (95% CI 82% 〜 95%) vs 80% (95% CI 67% 〜 89%)
特異度 :75% (95% CI 63% 〜 84%) vs 81% (95% CI 66% 〜 91%)
診断オッズ比:29.4 (95% CI 9.5 〜 90.9) vs 18.4 (95% CI 10.9 〜 29.4)
LR+ :3.62 (95% CI 2.32 〜 5.92) vs 4.29 (95% CI 2.53 〜 7.77)
LR- :0.12 (95% CI 0.06 〜 0.26) vs 0.25 (95% CI 0.16 〜 0.37)

と、どちらも甲乙つけ難い結果となりました。

気道緊急になりうる病態であることを加味すると口腔内からの描出にこだわる必要はなさそうであり、救急医でもある程度の修練を積めばエコーでの判断もそこそこ使えそうです。

CTへのアクセスが比較的良く本邦ではあまり問題とならないように感じますが、
研究を行っている欧米諸国ではコストや放射線被曝の問題からエコーを用いて判断することもあるようです。

大きくこれまでのマネジメントを変える検査技法とはならないかとは思いますが、
造影剤アレルギーや、気道緊急の恐れが強く仰臥位が保持できずCTが難しい場合などの代替方法として習得していても良いのではないでしょうか。

京都府立医科大学附属病院 救急医療科 中村侑暉
聖路加国際病院 救急科 宮本颯真